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彼女は頭が悪いから (文春文庫 )    著 姫野カオルコ            

【いくら頭が良くても、人の心を踏みにじる醜悪な気持ち悪さ】


2019年に上野千鶴子さんの東大入学祝辞や様々な媒体で取り上げられた話題作が文庫で登場!

横浜市青葉区で三人きょうだいの長女として育ち、県立高校を経て中堅の女子大学に入った美咲と、渋谷区広尾の国家公 務員宿舎で育ち東大に入ったつばさ。偶然に出会って恋に落ちた境遇の違う二人だったが、別の女の子へと気持ち が移ってしまったつばさは、大学の友人らが立ち上げたサークル「星座研究会」(いわゆるヤリサー)の飲み会に美咲を呼ぶ。そ して酒を飲ませ、仲間と一緒に辱めるのだ…。美咲が部屋から逃げ110番通報したことで事件が明るみに出る。 頭脳優秀でプライドが高い彼らにあったのは『東大ではない人間を馬鹿にしたい欲』だけ だったのだ。さらに、事件のニュースを知った人たちが、SNSで美咲を「東大生狙いの勘違い女」扱いするのだ。

読み手の無意識下にあるブランド意識、優越感や劣等感、学歴による序列や格差の実態をあぶり出し、自分は加害者と何が違うのだと問いかけ、気づきを促す社会派小説の傑作!

境遇の違う男女が恋に堕ちる事で、頭脳が優秀だからこそ優越感が炙り出す物語。



昨今は、人の想いを無視した非道な事件が度々起こる。
我々もどこかで学歴で優劣を決めていないか?

この物語では、東大生が複数で、1人の女子を輪姦する事件が事の発端となる。

何故こんな痛ましい事件は起きたのか?

初めての一途な恋に舞い上がる美咲と何処かで女性を蔑視するつばさ。

その無知を卑劣に利用した犯罪は認識の齟齬が産んだ悲劇だ。
何故、人は優劣をつけて、序列を決めたがるのだろうか?
勉強の出来る賢さと人生における賢さは別物な筈なのに。
立派な大学を出て、それなりの地位の仕事をしてる人間が偉くて、高卒でバイトやパートをしてたり、生活保護を受けるような人間は卑下する物なのか?

確かに頭脳が明晰なのかも知れないが、知識ではなく知恵の欠如が招いた悲劇で、いくら勉強が出来ても、他人の気持ちを慮れないようだと、人間としては未熟だと言わざるを得ない。

東大生による偏差値が低いからと言って相手を下にみる猥褻事件であり、新聞報道だけを信じれば誰もが加害者になる可能性があるからだ。
現代では偏ったしつけや教育が、相手が嫌なことを平気でしてしまう行動と態度を以てして。
傷付けたことさえ分からないサイコパスな人間は一定数存在する。
しかし、ある種、それは仕方がない事かも知れない。
現代の社会構造がそのように出来ているからだ。

その人の内面の素敵さよりも、目に見えて分かりやすい学歴や肩書を重視する価値観が社会から無意識に刷り込まれているのだ。

我々の意識下にある偏見や差別であり、無責任な発言を野放しにしたネット社会が、諸悪の根源だと言える。

東大に進学したという誇り、自惚れ、「東大生」というブランドを得た自分を愛する。
無意識に人を見下しているところも心が傷む。

つばさは、純粋に美咲を愛せれば良かったけれど、今までの育ってきた環境やプライドがそれを許さないのだろう。
相手の行動、心情を端から理解できない人は、それを知ろうとも知りたいとも思わないのだろう。

つばさは概して人の情感の機微について、 考える性質ではない。
彼はまっすぐで健やかな秀才なのだ。
健やかな人間は内省を要しない。
この心情だけでも、彼と良識人の大きな価値観の断絶が伺えるだろう。

いやらしい犯罪が報じられると、人はいやらしく知りたがる。
この思考傾向こそが、現代社会が静かに着実に病んでいる事が理解出来る。

なぜ人間は順位をつけたがるのか?
普通とは何なのか?
強い弱いって何なんだろう?
自分には理解できないからと言って批判する事は違う。
なぜなら、自分はその人の立場になった事が無いから。
その人の内に秘めたる苦悩や苦労を知りもせずに、何もかも知った風にその人の事を語るのは、傲慢という物だ。

自分に無い物を持っている人は素直に尊敬しよう。
この世界には様々な人達が存在するが、一人として同じ人は居ない。
だからこそ、自分とは違う人間にはもっと誠意を持ってちゃんと向き合う事がこれからの時代に必要なのだと思う。
そういう人が増えれば、この世の中も、このような陰惨な出来事が減っていき、心温まるような優しい世界になっていく筈だ。

このような酷い事件をある種、反面教師にして、「自分はこうはならないぞ」と襟を正してくれるような物語だった。
この物語を嫌な気分で終わらせるのではなく、啓示として受けとって、その向こうにある物を掴める力を養いたい。


相手の想いを無視した身勝手な欲望は己を破滅させるのだと肝に銘じるのだ。




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