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2022年もありがとう。エラマライターズによる「今年読んで『豊か』だった本」セレクション

こんにちは!いけかよです。
2022年もほぼほぼ終わりかけています。
今年も、たくさんの方々に読んでいただき、よむエラマはまたひとつ成長することができました。ほんとうにありがとうございます。

そんな年の瀬、エラマライターズとともに「今年読んで『豊か』だった本」を振り返ってみました。なにをもって「豊か」とするか?はその人しだい。エラマライターズの「豊か」な感性を刺激した著作たちをご紹介します。

【momoの「豊か」な1冊】ある「一文」が過去を上書きしてくれた

果物屋が本業の主人公が、街で起こるさまざまなトラブルの解決に奔走するストーリー。
こう聞いて思い浮かぶ作品はありますか?
その主人公の活躍が読める池袋ウエストゲートパーク(IWGP)シリーズから第17弾の『炎上フェニックス』(石田衣良 著,文藝春秋 刊)を取り上げます。

IWGPは人気シリーズなのでお読みになっている方も多いと思いますが、2022年9月現在、第18弾まで刊行されています。

主人公のマコトも、友人であり池袋のストリートギャング・Gボーイズの<キング>であるタカシも、ファンになるくらいめちゃめちゃ魅力的な人物です。
社会問題などが題材になっていて、つらくなったり怖くなったりすることもありますが、本を手にすると「早く読みたい」「一気読みしたいから睡眠時間を削ってでも読もうかな」などと毎回気持ちがグッと上がるのを感じます。

また、クラシック音楽が出てくるのも特徴です。

『炎上フェニックス』に収録されている「グローバルリングのぶつかり男」のたった一文によって10年ほど前のモヤモヤが今年解消しました。
ストーリーの核そのものではないのですが、わたしにはとても輝いて見えました。

 その夜、おれは自分の四畳半からキングに電話した。BGMはボリュームを抑えたフーゴー・ヴォルフだ。ドイツ語の発音には妙な鎮静作用があるよな。はやる気持ちを安らげてくれる。

(『炎上フェニックス』105ページより)

わたしは学生時代からドイツ語の音がとても心地いいと感じていて好きな言語のひとつなのですが、当時、ドイツ語についてよく耳にしたのは「発音がカクカクしている」とか「硬い」とかで、わたしはそんな風に思ったことが一度もなかったのでいつも不思議な気持ちでした。

社会人になってから出会った人たちに話の流れでドイツ語が好きだと伝えたときも、毎回「(ちょっととまどった表情で)ドイツ語が!?」や「ドイツ語の硬い感じ好きそうだわ」などと言われていました。

ドイツ語に対する印象は真逆、好きな理由を言っても真剣には受け取ってもらえない、でも本人の解釈で相手が納得している様子にいつもなんとも言えない気持ちになっていました。

そんな体験を重ねてから長い時間が経ちましたが、『炎上フェニックス』を読み、
「ドイツ語の発音には妙な鎮静作用があるよな。」
という文に出合った瞬間、心の中で手を合わせ涙を流しながら「マコト〜!!」と叫んでいました。

表現は違いますが、わたしがドイツ語の音をやわらかくて心地いいと思った感覚と似たような印象をドイツ語に感じている人が存在すると知れたことが、わたしの心を慰めてくれたのです。

モヤっとした思い出たちが上書きされた2022年でした。
マコト、石田さんありがとうございます。

IWGPシリーズの文体は軽やかでスピード感があるので、読みやすいと思う方が多いのではと想像します。
また、自分が知るに至っていない社会の問題や裏側を知ることができますし、クラシック音楽に詳しくない方でも物語に挿入される曲の登場を興味深く感じることができるのではないかと思います。わたしもそうだったので。

気になった方は今さらなんて思わずに、ぜひ2023年の読書リストに入れてみてくださいね!

【ひらみんの「豊か」な1冊】表紙を見るだけで「思い出し泣き」できる

「この本の世界の中で生きたい」って思える小説ってどれぐらいあるのだろう。
いろんな人が書いた、いろんな種類の小説を読んだけど、そんな風に感じた本はなかった。なのに、不思議と金城一紀の本を読むといつもそう感じる。

不器用な主人公たちが、孤独や理不尽さと戦う姿に、切なさを感じる。
誰もが誰かを愛し、誰かから愛されているということを再確認する。
近くにいても離れていても、会っていなくても、想いは伝わる。
みんな、なにかを抱えて生きている。でも、それが人生だと教えてくれる。
笑いと涙が、人生と小説のスパイスになることを再発見できる。
物語が終わった先の世界でも登場人物全員に幸せでいてほしいと願う自分がいる。
大切な人からの想いを受け取って、前を向いて生きる、本の中の人たちに励まされ、自分の周りの人を大切にしたくなる、そんな本が金城一紀の「映画篇」。

短いエピソードが集められた短編集で、4つの短編が少しずつ交差しながら進んでいき、最後の物語で繋がります。全ての物語で、映画が人をつなぎます。
「ペイルライダー」は、復讐を果たす話です。いじめられっこの「ぼく」が、めちゃくちゃかっこいいバイク乗りの「おばちゃん」に助けてもらうところから始まります。2人はバイクに乗って風を切って走って、一緒に映画を見ますが、何かを決心したようにおばちゃんは去っていきます。私は、おばちゃんの、もう戻らない家族に向けられる、哀しみに溢れているけれど深い愛に心を打たれます。大きな喪失感を生きる力に変えた強さを思うと、彼女を抱きしめてあげたくなります。そして、彼女は元気でやっているだろうか、と思うのです。

この本には、たくさんの愛がつまっています。
とっても大事だったのに離れてしまった友人や、友人とも言えない距離の2人、付き合いたての恋人、仲良し家族、初めて出会った2人…いろんな関係の人たちが出てくるけれど、みんなが相手に愛を送り合っているように感じられます。愛って恋愛や家族愛だけじゃないと思います。筆者から映画への愛もビンビンにこめられています。

物語の舞台は夏ですが、クリスマスとか年末とか、誰かに愛を送る特別な季節にぜひどうぞ。

【ひらふくの「豊か」な1冊】「屋根ひとつ お茶一杯」それだけでいい夜がある。

仕事や家庭でクタクタでなにも考えたくない、でも気持ちはささくれ立っている。
そんな夜はありませんか。

そんな私を安眠にみちびいてくれる1冊に出会えました。
それが、フランス人の著述家ドミニック・ローホーの「屋根ひとつ お茶一杯 ~魂を満たす小さな暮らし方~」です。

元々こじんまりした家や建物が好きで、本の帯にあった「小さな家が気づかせてくれる幸せの価値観」というフレーズに惹かれました。

章立てを見てみると、
・「小さな住まい」という贅沢
・「孤独」のない人生に喜びはない
・日本に息づくシンプルな美に学ぶ 

という、なんだか矛盾しているようなフレーズたち。

日本では大きな家に住んで友人が多いことがステータスである気がします。また、日本を卑下して欧米に憧れることも多々あります(私含めて)。

でも言われてみれば、楽しく住むために買った大きな家なのに「掃除が終わらない」と罪悪感を感じたり、幸せに生きたくて結婚したのに相手に苛立ったり。

私たちの思う贅沢は本当に贅沢なの?
なんだか本末転倒な気がしてきました。

モノを手に入れようと必死な社会を見ながら著者は言います。

贅沢とは、まずはほがらかに生きること。
軽快に、ゆとりのある生き方をすることなのです。

それはときに、旧友とシャンパンをあけて会話を楽しむこと、
あるいは深い感動をともなう時間を生きることです。

「欲求を手放してシンプルに生きよう」。
その例として、世界中の哲学者や芸術家の言葉もたくさん紹介されています。
茶室という小さい空間を作った千利休も、森で暮らした哲学者ソローも、生きかたを突きつめた結果シンプルを選びました。

目の前の仕事をこなそうとがんばっている私の日々。

それはけっして間違っていないけど、いま、心は満たされているでしょうか。
なにかが欲しくて、なにかになりたくて、足りない自分にがっかりして。

でも、もしかしたらもう十分持っているのかもしれません。
焦らなくていいのかもしれません。

なんだか少し安心して、瞼が重くなってきました。

明日起きたら、とりあえずケトルでお湯をわかしてお茶をいれましょう。
人から見たら些細でも、私はそこに豊かさを感じられるから。

何度も読んで開きぐせがついたページ。そこにはこう書いてありました。

何も欠けていないと悟れば、全世界が自分のものになる。

—―老子(古代中国の哲学者)


【いけかよの「豊か」な1冊】「豊か」であるとは「自分を大切にできている」状態にほかならないと思う

みなさんは、自分自身を大切にしていますか?
「甘やかす」でもなく、「守る」でもなく、「大切」に。

いけかよは、今年はほんとうに本気で「自分を大切にする」ということに取り組まなければならない状況に陥りました。自分の内側にも外側にもいろんなほころびが出て、それまでのやり方ではいけないと思わされる出来事がたくさん起きたんです。

そこで「自分をもっと大切にせねば」と思ったのですが、ふと「自分を大切にする」とはどういうことなのか?という疑問にぶつかったのです。
休息をとるとかよく眠るとかゆっくりお風呂につかるとか、なんかそういうことだとは思うけど、でもそれだけじゃない気がする…。

そんなときに見つけたのが、そのものズバリのタイトルである本書です。
「これはあたしのための本や…!」速攻でポチって読みました。
「こんな本」なんて言い方は失礼ですけど、言ってしまえば「こんな直球タイトルな恥ずかしい本」です。しかしそれこそ「藁にもすがる思い」というやつで、手に取りました。

著者の服部みれいさんは元雑誌編集者。ご多分に漏れず、ハードワークで心身ともに壊し、そこから自分を回復させていった方。その後独立され、ご自身の経験をもとに、自由に健康に美しく生きていくためのいろんなアプローチを雑誌や書籍などで発信されている方です。
ちょっとスピ要素も多めな方なので、そういった分野に抵抗がある人には少しフワフワして甘ったるく感じるかもしれませんが、自分自身が弱っているときにはとても優しく寄り添ってくれるようなメッセージをくれる方です。

ここには「自分を大切にする」ということの具体的な方法が書かれています。

自分が、今の自分のままで、自分のことをほんとうの意味でたいせつにする。そうしていくなかでほんらいの自分を好きでいて、愛している

という状態になるための、内側からと外側から両方からのアプローチ方法が書かれています。もちろん、これを読んだからといって自己肯定感爆上がり!みたいなことにはもちろんならないのですが、なんだかじんわりと自分をいたわりたくなる、そんな本です。

なんだか自分自身が迷子になってるような、心もとない気持ちの方には、ぜひおすすめしたい1冊です。

【あいすかの「豊か」な1冊】わたしの母親としての自己肯定感を高めてくれた、2022年いちばん豊かな一冊

今年一番豊かになった本、それは朴沙羅さんの「ヘルシンキ生活の練習」です。

フィンランドのヘルシンキ大学へ勤務することが決まった社会学者の沙羅さん。彼女が幼い2人の子どもを帯同し、フィンランド移住するところから話がスタートします。学者である著書とはいえ、全く難解ではなく、どちらかというと子育てエッセイ本です。
しかも、文章は関西弁。ノリツッコミが満載でありながら、ひとつひとつの出会いや出来事をこと細かに分析し、即座に笑いに変換する(ご本人は気づいていないのかも?)その感性に、わたしは脱帽しました。

ところどころ、制度面や歴史的背景に関しては論文等を引用して説明をされています。さりげなく、さすが学者さんと思わせる洞察力。

日常生活のなかで、小さなことに気づき、個人ごとを社会ごととして捉える力も練習できる本だと考察しました。

ちょっとマニアックですが、章立ての順番も意識しながら読んでみると面白いかもしれません。

子どもさんがいるので保育や福祉に関連する話がよくでてきます。
でも、子どもの有無にかかわらず、
「ヘルシンキ 生活の練習」の考え方は、読者の住んでいる場所、どこでも応用可能なのです。
研究者、研究者をめざす人、海外で生活してみたいと思っている若者、子育て真っ最中の人、そして、自分のルーツはどこ(の国)だろうと考えている人。
すべての皆様におすすめです。

いまを大切に、生きていこうと思わせてくれる本。
そう、わたしたちの日常は練習の積み重ねなのだから。

ネタバレにならない程度で、筆者の知人の名言をひとつお伝えします。

「適切な服装をすれば、天気が悪いなどということはない」

そりゃそうだ!納得(笑)
こうしたフィンランド流の考え方に癒されながら、2022年を終えたいと思います。

2023年も豊かになりますように

いかがでしたか?それぞれに感じた豊かさが、あなたにも伝わるといいなと思います。
もうすぐ迎える2023年。あなたにとっても、わたしたちにとっても、そして世界にとっても、さらなる豊かな1年になりますよう。

では、また!

Edit by いけかよ


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