【坂東玉三郎×伝統工芸】人間国宝スペシャルトーク 貴重な同時登壇 MOA美術館
2022年4月29日(金)MOA美術館開館40周年を記念して、重要無形文化財保持者(人間国宝)である
坂東玉三郎(歌舞伎役者)/ 室瀬和美 (漆芸家)
藤沼昇(竹工芸家)/ 土屋順紀 (染織家)
4名のスペシャルトークが館内の能楽堂で開催された。その中で印象に残ったお話をまとめたいと思う
※時間が経ってしまったので一部正確でない部分があるかもしれません
◼️出演者経歴
◼️会場の様子
◼️会場へ登壇者入場
全員着物を着用され、
舞台向かって左側の橋掛かりの方から登場
基本的な進行は坂東玉三郎さんが担当
■坂東玉三郎さんからの開催経緯の説明
美術館と坂東玉三郎さん
玉三郎さんは41歳から約30年間、MOA美術館の能楽堂の舞台に立っていてる。40周年記念ということで美術館に「何かできないか」と玉三郎さんからオファーされたとのこと
伝統芸能と伝統工芸のイベント登壇
個人的に伝統工芸の方に会うことがあるが、
伝統芸能と伝統芸能の方が一緒に何かのイベントに
登壇することは珍しく、ほとんどないそう
■竹工芸 藤沼さんのお話
職人の始まり
前職はNikon。30歳から始めた
竹の語源
ずっと調べていたが分からなった。ようやく分かったの語源は「多気」。万葉集に書かれていて、竹は地面のエネルギーを吸い上げて一晩で60から70センチ成長する。正に、多い気。エネルギーが多い植物だからということから来ていると思われる
竹の種類
800種ある
地球環境の変化と竹の素材の変化
地球の雨水は酸性。50年前と雨の成分が違う
しなり方が昔と違う。素材感も変わってる
モノをつくっているとその変化が理解できてしまう
■蒔絵 室瀬さんのお話
職人として
20代は劣等感があった。40代でやっと認められた
蒔絵の特性と制作の労力
1000年単位の耐久性がある。それを考えると制作に二年かかってもよい
蒔絵の色
漆は染料ではなく顔料 。色は5種類くらいしかない
昔は白が無く、たまごの殻を使っていた
植物は緑なのに顔料としての緑という色は難しい
蒔絵の歴史
富士蒔絵は1000年前にできた技術
1000年前の人と同じくらいと思えるほどのレベルを目指している
蒔絵筆 大大大ピンチ状況
①筆職人 現在日本でたった一人
②素材のネズミ 琵琶湖周辺で走り回り、捕まると餌を食べずに死んでしまうくらい繊細なネズミの背中の毛に限られる。さらにそのネズミがなかなかいない
③ネズミを捕まえる人 いない
→結果、やむなくネコの毛で代用している状況
(このピンチのお話が一番インパクトあり!)
漆が固まるには
漆は木の樹液。空気の湿気と温度で固まる。湿度と温度がないと固まらない。一旦固まると凝固剤でも酸でもびくともしない。99パーセントは半年で完全硬化する。完全硬化するまでに使ってしまうと劣化が発生
漆が耐久性に優れる理由
漆製品は高級なイメージで使うのがもったいないと思われがちであるが、耐久性が強いので使って欲しい
①雑菌が増えない
カビが広がりにくいので長持ち
昔からの日本人の知恵で科学で証明したわけでなく、使ってきて証明されてきたもの
②寒暖差・熱に強い
三浦雄一郎さんエベレスト登頂の際、昼夜で90度の寒暖差があり、食事をよそるとすぐに冷めてしまうという話を聞き、漆は寒にくいから、漆の器を持っていって欲しいと持っていってもらった。実際持っていくと、一瞬で冷めていた食事がさめにくかったと。100度でも大丈夫
③傷に強い
■染織家 土屋さんのお話
制作環境
自然の中に基本的にずっといる。5、6、7月は山に篭る
植物染料が好きなので、人に会えずに山に篭り続けたとしても、できたものによる達成感の喜びが人に会えないしんどさを上回る
植物染料の着物
天皇陛下のお召し物は光の当たり具合で見え方が変わる
染織の原料「藍」
藍とは1種類の原料のことではなく色々な原料種類があり、異なる原料であっても青く染めるものを全て「藍」という
当日土屋さん着用の着物 色原料
上着 黄色っぽい色。白の藤から作ったもの
原料は白い花でも染めると黄色っぽくなる
袴 カーキ的な色であるが、薔薇で染めたもの
薔薇の色がカーキ色になるという染織の不思議
甕覗きという色について
藍が死に絶える前、最後の最後に染まる色のことを「カメ覗き」という。白い甕に水を張ると淡い水色に見える。そのような薄い水色なのでそう呼ぶ
■属する分野と違う分野について
芸能 玉三郎さん
着物を選ぶとき、何を着るかを考える際、「ただ掛けてある着物を見る」のと「実際着てみる」のとでは全然違う雰囲気になる着物がある
演劇は工芸に支えられている
竹工芸 藤沼さん
ガラスと漆でお花の持ちが全然違う。漆にはそういった特性もある
◼️心の豊かさをもたらす伝統 芸能・工芸
工芸の方
床の間の文化無くなってきているので、工芸品を使用する環境が減っている。心の豊かは金銭を得ることよりも、工芸品を日常の生活で使うことで得られる。工芸品をまずは手に入れて次の世代に伝えることが大事
玉三郎さん
芸能も会場から帰る時に心が豊かになるもの
全員
晴れ着もお椀も、もったいないとしまわずに日常に使うことで、心豊かな暮らしができるのでは
工芸の方
自然から恩恵をもらって生活している
玉三郎さん
芸能はお客様からご贔屓をもらっている
◼️伝統を次の世代に繋ぐことについて
先輩からどのように伝えられ、教えられ、学んだか
どのように技術を伝えるか
玉三郎さんの伝えること
同じ分野でなくても見た人の記憶に伝わることが大事
次の世代に繋ぐことは難しい。
私たちは天からの申し子というわけではない。
親がいたからとふっと魅力があり歌舞伎界に入っていっただけ。歌舞伎の世界の音楽と着物に惹かれた。そこに理由はない
だから、全くの知らない人でも同じものに惹かれる宇宙の波を持った人がいるので、同じ分野ではなくても歌舞伎を見たその人たちに伝わり、違った形であっても表現されていくことが「伝わる」ということではなないかと思っている。見た人の記憶に伝えることが大事
玉三郎さんが教わったこと
昔は通りすがりに教えてくれた時代
明確に伝えたいという気持ちがあるわけでなく自然な流れの中で伝えられた
お父さんからは「男形だから女形は教えられないけど、かゆいところに手が届くようなことできないと女形になれないんだよ」と言われた。「扉のあるトイレにしか入ってはいけないよ」と
そういったことが、直接的でなくても踊りにも音楽にもつながるのでは
女形の尾上多賀之丞さんが通りすがりに話しかけ、伝えてくれたこともあった。昔は今のように『教えます』『教わります』の時間区切らずに、ありとあらゆる人が、どんどん人間同士のふれあいの中で話してくれた。
直伝は無いが、側にいた人が伝えてくれた時代
蒔絵 室瀬さんが教わったこと
親よりも、よその先生から教わったりしていた。親からは礼儀を教わった
染織家 土屋さんが教わったこと
先生から何か説明を受けるとうことよりも、先生の姿を見てるだけで自分の身体に入った気がした。技術ではなく人に触れることで伝わるもの。偉大な先生に会うこと、触れることで全く違ってくる
◼️伝統芸能・伝統工芸を行う上で大事なこと
玉三郎さんが大事にしていること
60歳以上年の離れた先輩の家におじゃましたとき、帰りに門のところでたった一人で玉三郎さんの姿が見えなくなるまで見送ってくれた。とても大きな経験だった。そういった相手の気持ちを思う行動をすることを大事にしている
工芸の方が大事にしていること
自分の好き勝手で作るのではなく、使う人がどう思うかで作っている。焦ってものを作らない。作っている人の「制作においての愛情」があって始めて第三者に伝わるものがあると考えている
◼️最後に
皆さん、「ただ伝える」だけでは技術は伝わらないと次の世代につなぐことの難しさを語られていて、
「全くの知らない人でも同じものに惹かれる宇宙の波を持った人に伝わり、違ったもの(分野)でその人が表現していくことも『伝わる』と言えるのでは」
という玉三郎さんのお話が印象に残った
日頃から、芸能・工芸・スポーツ・その他、何でも道を極めた方が到達した先にある「大事なこと」は共通しているように感じていて、
そういった方の「突き詰めた先に見えたことを知りたい」そして「芸能と工芸という違う分野で、お互いの技術をその高い視点でどう見えているか」知りたくて参加した
今回、皆さんいずれも分野は違えど「共感・共鳴」されていて、同じマインドであるからこそ深く理解し合い、違う分野だからこそより深い話をお互いに引き出され、貴重なお話を伺うことができた
今回印象に残ったのは、工芸の3名の方が予想外にお話上手だったということ。職人=寡黙 ではなかった 笑
皆さんお話のテンポが良く、あっという間に終わってしまった
伝統芸能と伝統工芸の方は一緒にイベント登壇される機会があまりないとのこと。
と、強く思ったので、異なるジャンルの方どうしのお話を伺う機会が増えることを期待したい
◼️(参考)工芸と芸能のイベント情報
漆工芸の室瀬さんが能楽師の方と登壇されるイベント
2022/9/24
◼️(参考)玉三郎さんの技術や姿勢の根源
今回のトークを通して語られたことで垣間見られるように、玉三郎さんは非常に深い精神性や在り方だからこそ、見るものに「圧倒的な美と感動」を与えていると感じる。その根源を理解するうえで参考となる情報を紹介
①京都賞 再耕 インタビュー
今回のトークに関連する内容として、玉三郎さんが「伝える・伝わる」ことについてお話されている2021年のインタビューを抜粋
もともと玉三郎さんは理系分野が好きで科学者を目指されていたということで、そいういった背景を持つ宇宙スケールの思考に触れると、美しい舞から伝わってくるものの深さに納得
②京都賞 第27回(2011)受賞 スピーチ
自ら語られた素晴らしいスピーチ。科学と数学が好きで宇宙開発に興味があり、実は文学や社会は苦手だったなど、玉三郎さんを形成した歴史が分かる内容
▼議事録ver
https://kyotoprize.org/wp-content/uploads/2019/07/2011_C.pdf
▼動画ver
③歌舞伎女形 坂東玉三郎の生き方インタビュー
「こだわりに向かって努力しただけ」【完全版】2021年
「生まれ変わりは望まない」と言うに至る程の「努力」から生み出される美しさの根源が伝わってくる動画
④お気に入りの玉三郎さん舞踊動画
まるで日本画のよう。ため息が出る美しさ
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