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ミモザ

ミモザに憧れていた時期がある。

初めてそのカクテルを認識したのは数年前、なにかの記念日だったのか、両親とホテルで食事をしたときだった。
食前酒としてミモザが出された。
当時わたしはまだ大学生で、消極的にではあるが稀にアルコールを摂取していた。なのでそれほど躊躇することもなく、その爽やかすぎるほど爽やかに煌めく液体を自分の身体に流しこんだ。
すぐに、すごく気持ち悪くなった。食事の途中でお手洗いに駆け込んだ。
アルコール度数はそれほど高くないのにそんなに具合が悪くなるなんて、いま思えば両親とのかしこまった食事というシチュエーションにやられていたのかなとは思う。それでも、親の前でそんなに弱く情けない姿を見せるのはとてもとても。私の自尊心が許さなかった。
お手洗いから帰って、ミモザを飲み干した。また気持ち悪くなった。ひとり便器に向かって、ひどくひどい、最低な日だと思った。
振り返るとほんとうにバカバカしい。
でも、それが、当時の私にできる唯一にして最大の、些細な抵抗だった。

それにしてもなぜあんなにもミモザというカクテルに惹かれてしまったのか。
よく考えたことはなかった。
でも、昨日オシャレタウンのこじんまりとした個人経営フレンチでランチをとっていたとき、そこに連れていってくれた例のアップル信者おじさんがミモザを飲んでいて、気がついた。

ミモザには、明るさ、あたたかみ、華やかさがある。
あの、輝いているのにどこか安心させてくるような色。きらびやかなのに、親しみをこめて微笑んでくるような柔らかさ。
ああ、これは私がずっとずっと欲しかったものだ。欲しかったといっても、与えられたかったのではなく、憧れていたと言った方が的確かもしれない。
私はずっと、ずっとずっと、ミモザみたいになりたかった。


ぜんぜん読書のできない日々が続いています。
もうそろそろ自分の生活や将来だけではなく他人を巻き込んで共に生活するってことに手を出してもいい時期になってきたのかな、なんて。
やっと回復して、私自身が私らしい生活に慣れてきたって感じ。
ずいぶんと時間はかかったしこれからもまだまだたくさんの課題や壁があるんだろうけれど、私は私らしく考え、話し、書き、そして食べて寝て遊んで食べて寝て遊んで食べて寝て遊んで食べて寝て遊んで食べて寝て遊んで、生きたいように生きようって、そんなことをまた一段と強く思いました。

明日は虫歯の治療です……。


「ちぇっちぇっ!気取ってやーんの!」

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