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散文/映画「南極料理人」について

圓川です。
映画、苦手でした。本当にごく近年まで。

映画って時間を拘束されるので、せっかちなぼくとしては1日の2時間を拘束されることはそれはもうたまらないわけで。しかも2時間の間に起承転結がギュッと詰められると苦しい気持ちになる。特に「主人公が徐々に成長していって大成を掴むストーリー」内の、「主人公が努力を重ねて徐々に変わっていくシーン」関してはちょっと待ってくれと言いたい。君が変わるためにやった努力をイけているBGMと共に早送りされていいのかい??むしろその努力の詳細をぼくは知りたいのだが?早送りしないで困ったことや辛かったことも全て教えてくれよ・・・

なんやかんやで、映画は基本アクション映画化ホラー映画のみを嗜むようにしていた(展開が早い故に話が早くてせっかち勢にはありがたい)が、今では開き直って映画を見ている。何をそんなせっかちになっているんだ、と。お前、どーせ2時間映画見なかったらその代わりの時間SNSとか
YouTube見ているだけでは?そんなことに時間を費やすくらいなら名作映画の一本や二本を見た方がいいのでは?と。そう思うようになってからNetflixやプライムビデオ三昧、映画館にも足繁く通うようになった。

しかし、映画を見始めたぼくまたしても問題が浮上した。映画の感想が出ないのだ。何より、人生でとても影響を受けている映画、を決められるほど映画を楽しめてないのでは、とすら思い始めた。見た直後で感想を求められても言葉にできない。面白いと思っても部分部分の感想しか言えない。本当は面白いのに・面白くないのにうまく感想を紡げない・・・もしかして自分、感受性が低い・・・?と心配になった。しかし藤本タツキ氏の「チェンソーマン」でマキマさんが『私も十本に一本くらいしか面白い映画には出会えないよ でもその一本に人生を変えられたことがあるんだ』というセリフを読んだ時に、「ああ、ぼくはまだ人生を変える一本の映画に出会えていないだけか」と腑に落ちた。感想がうまく言えないことなんてさして大したことではない、必要なのは出会いの回数だ・・・!!ぼくはなるべく見れる映画の量を増やした。

第39話「きっと泣く」より。今思えば映画を見るぼくとこのシーンのデンジは通ずるものがある。

その中で人生が変わるほどの・・・というと嘘になるけど「一番好きな映画は?」と聞かれる時に真っ先に答える映画には出会えた。「南極料理人」である。


南極観測隊として派遣されたメンバーの、南極での暮らしにフィーチャーした作品。実際に起きたことに基づいて、彼ら観測隊の日々を面白おかしく、コメディ仕立てにした作品だ。

この映画、なんていってもご飯がうまそうなのだ。この映画にはフードスタイリストとして有名な飯島奈美さんが監修として入っている。「かもめ食堂」や「海街diary」や「カルテット」でも食べ物の監修に入っている方だ。

また飯島奈美さんのレシピ書籍は古本屋バイト時代、品出し(という名の立ち読み)の際に度々拝読させていただき、まだ一人暮らしを始めて間もない頃の自炊の参考にしていた。なんでもない日の美味しそうな、日常ご飯・・大体ぼくが「おいしそ〜(アホ面)」となった映画やドラマは偶然にも飯島奈美さんが食事監修をしていたのだ。まさしく、ぼくが心の根底に求めている「理想の食事」の大体が飯島奈美さんのご飯なのだ。もう飯島奈美さんの料理はぼくにとってのお袋の味まである(?)。


話を映画に戻すが、「南極料理人」でも「おいしそ〜(アホ面)」になってしまうような食事の数々が出てくる。主人公の西村は元海上保安官にして南極観測隊の炊き出し担当。家族の元を離れて、遠く離れた南極での観測隊たちの食事を作ることが毎日の仕事だ。最初は他人だった観測隊員たちが色々なプチ事件と食事を通して徐々に期間限定の「家族」になっていく過程は心がほっこりするものがある。
また、「どんな時でも腹は減る」がこの作品のテーマだ(だと勝手に解釈している)。確かに作品内の登場人物も南極にいっても、家族と離れ離れになっても、遠距離恋愛をしていた彼女にフラれても、誕生日を祝う年齢じゃなくなっても、オーロラという奇跡の天体ショーが目と鼻の先で展開されていたとしても、彼らは飯を食う。そしてそれらのシーンを見る度に自分も思い出す。残業が多くてしんどかった社会人2年目の頃、先輩たちと買って食べた深夜のカップ焼きそば。数年前お互い近い時期に彼氏にフラれてやってらんないよねって親友と銭湯の帰りにコンビニの前で食べた肉まん。春先に友人たちと桜を見ながらピクニックし、「もう社会人7年目だねえ」と笑った時のデパ地下惣菜とスタバのコーヒーの味。そして同居人と映画館で毎回半分こして食べる大きなポップコーンの、キャラメルと塩のハーフ&ハーフセット。ぼくらの生活はいつだってご飯と共にある。そして辛くて泣き出しそうなときも、嬉しくて飛び跳ねるような時も腹は減る。腹が減っては生きられぬ。生きるためにご飯を食べる。この映画は、そんな根本的なことを毎回教えてくれる。

それになんと言ってもこの映画━最後の最後でわかりづらい描写ではあるが━本当に大事な人と一緒にする食事はなによりも美味しいというメッセージで締めくくられる。素敵なことだ。いつだって大切な人と食べるご飯が何よりも美味しい。見る度に、自分の大切な人との大事な食事を思い出させてくれる映画、それが「南極料理人」なのだ。


#映画にまつわる思い出

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