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わたしは、

たったひとり、1番好きな相手に

1番に愛されなくては

意味がないと

そう思って生きていた。

その人に出逢う前は。

わたしは、妾であった。

正妻になれなかった自分を、恥じていた。

愛しているひとに、わたしは十分愛されていないと
死ぬ間際のその瞬間までそう感じて、

そしてずっとずっと、ずっとあとになって、わたしは生まれかわって

わたしは、そのひとに再会して、

ずっと、十二分に愛されていたことを知る。

わたしは、死の床を迎えるところであった。

わたしは、自分を、自分の人生を、主人を、

恨んでいた。

1番になれなかったことに

正式な妻にしてもらえなかったことに

周りから

いじめ抜かれたときに

彼が何も言ってくれなかったことに

たったひとりのたいせつな息子が亡くなったとき

わたしは

世界に、取り残されて

孤独のなかで

まだ若いまま

その最期をついに迎えてしまった

わたしは穏やかに

安らかに死を迎えられるほど成熟してはいなかった

わたしの涙には

ただ悔しさと

憤りと悲しみと

怒りと

ありとあらゆる恨みが

詰まっていて

主人は、

寡黙な人であった。

優しくて、黙っていて、

そして

何も、

言わないひとであった。

私は死に際の床の中で、

泣いていた

どうして

どうして

どうして と

どうしてわたしのことを愛しているなら

正式に妻にしてくれなかったのですか

声にならない声で叫びながら

最後の生気が枯れ落ちるまで

わたしは

泣いた

主人は、

わたしの側に

いつもいた。

静かに、何も言わずに

いつも、そこにいた。

わたしが、息子が、どんな酷い目に合い続けているのか

切々と語っても

わたしが、体裁を保つためにどうか正妻の元にも行ってくださいと

何度言っても

そのひとは

何もしてくれなかった。

ただ、黙って、

何も言わずに

わたしの側にいた。

わたしは愛されれば愛されるほどに、自分の立場が追い込まれていくことに
板挟みになって

そして最後まで、「一番愛される」ことを拒んだ。

その人が結婚していることがわかったのは、

その人が私のことを好きになって、そしてわたしがその人を好きになった後であった。

それを知ったとき、大事にしていたすべてが崩れて

それまで目の前にあった「愛している」「愛されている」も信頼も、一瞬で消えた気がした。

どうしようもできなくなった私はほとんど数日の間意識を失って過ごして、

そして古い過去まで遡って激しい痛みの奥に戻っていくと

そこには悲痛な叫びが次々と現れて

その最後には、

喉がからからに枯れて潰れて

これ以上声がでなくなるまで泣き叫んだ、

たまらないほどに悲痛な哀しみの混じった

「わたしのことを好きにならないで」があった。

金切り声で咽び、何十回も「わたしのことを好きにならないで」

を叫んで、「汚い手で触らないで」もほとばしった。

信頼していたひとが、自分のことを異性として見て
愛を打ち明けてきたとき

わたしはいつも、裏切られたような気持ちになった。

結婚しているひとや、恋人がいるひとはいつも、

わたしを欲しそうにした。

その度にわたしは、

「どうして、大事なひとがいるのに簡単に他のひとを好きになれるのですか」

と絶望した。

自分もまた相手のことを好きであれば、なおさらだ。

わたしは、主人が自分のことをとても大切にしていることを

よく知っていた。

しがらみの多い正式な結婚のうえで、
不自由な環境を選択するのではなく

いつでも自由に愛し合うことができる妾という関係をわたしに与えた。

わたしは、自分が一番愛されていることをほんとうは感じていて、
そしてわたしもまた、苦しいほどに主人のことを愛していた。

だからこそ、辛いことも面倒なことも不自由さも全て引き受けたかったのに。

どんなことでも一緒に乗り越えていけるくらい、あなたのことを愛しているのに。

そんな恨みの中で、わたしは死んだ。

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