模倣と追放と逃亡

模倣と追放と逃亡

誰かが笑ったら、みんなが笑う。

誰かが罵ったら、みんなで罵る。

誰かの意見に合わせるんだ。

あいつが笑ったものが、僕には笑えないものでも。

あいつが罵った誰かが、僕には正しく思えていても。

本当は、僕だって僕の意見がある。

本当は、僕だって僕の主張がある。

それでも、みんなと同じように動かなければいけない。

じゃなきゃ、僕は輪から追放される。

顔で笑って、心で泣いて、自分を押し殺す日々。

それでいいのか。

輪にいる連中には聞こえないように心の中で繰り返す問い。

彼らは歪んでいようと集団で共感することで満足しているだけだ。

彼らは歪んでいようと集団で共有することで絆ごっこをしているだけだ。

僕もそれを続けるべきなのか。

選択を迫る問いかけの声は大きくなり、彼らの声すら遠くなる。

膨らんだ選択肢は目の前を漂い、彼らの姿は見えにくくなる。

遠い。

ぼやける。

霞んでいる。

そこに、光はあるのか。

新たな問いが降ってきて、僕は目をこすってから彼らの方を見た。

遠くにぼんやりと見える彼らの姿は、ただの黒っぽいもやだった。

僕は、もやの中にいたかったわけじゃない。

僕は、もやになりたいなんて思っていない。

もうやめよう。僕自身に嘘をつくのは。

そう呟いたら、あれだけ響いていた問いは聞こえなくなった。

そして、漂っていたものも、もやも消えた。

もう一度、もやがあった場所を見れば、そこにあるものは変わっていた。

光。

そして、鏡。

鏡の中の僕は、久しぶりに本当の笑顔で笑っていた。