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3月11日によせて

2011年3月11日、わたしは東京近郊の自宅にいた。
大きく長い地震に驚いて玄関からまろび出ると、街路灯が巨人の手で弄ばれるようにグラグラと揺れていた。
すぐに、隣の部屋に住む大家さんも出てきて、互いに大丈夫でしたか?と声をかけあったのを憶えている。
その時は、その後やってくる津波や火災や原発の爆発なんて想像だにしなかった。それによってたくさんのひとが亡くなったり、家を失うということにも、すぐには想像が及ばなかった。
災害から避難した女性達が、避難所で性暴力に直面するということも。

2019年の台風19号で大きな被害が出た時、被災者の避難所での困難について、わたしは以下のような記事を出した。

本邦の災害避難所は学校の体育館や公民館などの大きなスペースに仕切りもなく(あるいは簡易な仕切りのみで)雑魚寝する、というような場合が多いようだ。
当然プライバシーの確保は難しく、男女で空間を分けているわけでもないので、性暴力の被害が発生しやすい。

ところで、大きな地震のあとの生活環境悪化やストレスが原因で亡くなることを「震災関連死」という。
これを防ぐためのTKBという3要素が、医師や専門家から提案されている。

「T」トイレ 清潔なトイレにする
「K」キッチン 暖かい食事を提供する
「B」ベッド 床での雑魚寝を防ぐ

NHK:震災関連死を防ぐ「TKB」とは? 避難環境は体調悪化にどう影響

断水などによってトイレ環境が劣悪になると、避難所の使用者は排泄回数を減らそうと、水分摂取を控えてしまう。
そのため脱水症状に陥ったり、口腔内細菌が増加し誤嚥性肺炎で亡くなることもある。

避難所での不自由な食事によって栄養が偏り、運動不足とあいまって、高血圧や循環器系疾患につながるケースも非常に多い。

硬い床での雑魚寝は物理的にも精神的にも多大なストレス源となり得る。長引けば睡眠不足に陥り、体力や免疫力が低下し、呼吸器系疾患を引き起こすひとが出てくる。
各地の避難所では、段ボールベッドの導入が広がりつつあるようだ。

災害避難所における性暴力被害の話に戻ろう。
避難所での性暴力被害も、衝立で仕切られただけの更衣室、プライバシーの保たれていない寝床、そして監視の目が行き届かないトイレで多く発生している。

トイレの清潔や快適性を保つことと、雑魚寝を防止することは、基本的な健康を保持するとともに、避難所における性暴力の防止にも役立つだろう。

避難所では男女を問わないすべての避難者が、引き続き災害の危険に晒され、病気やケガのリスクを抱えている。その上でさらに、現状女性達は性暴力の被害に遭うリスクにも晒されている。
災害避難所における性暴力の防止は、震災関連死とともに対策を講じられなければならない。避難所における女性の安全と健康は、もっと基本的かつ重大な事項であると、認識されるべきだ。

そもそも日常的な性暴力被害が軽視されがちな本邦だが、この12年の間に性犯罪が報道される機会は増え、実子に対する性虐待への無罪判決が覆るなど、性暴力へのまなざしも大きく変わってきている。
多くの市民に対する直接の緊急事態である災害――、その緊急事態にも、特に女性が晒される危険があり、それは当然防がれなければならないということを、もっと多くのひとが知るべきだ。

地震も台風も頻発する日本において、災害避難所での女性の安全と健康がもっと当たり前に守られるようになることを切に願う。

3月11日
東日本大震災がら12年目の日に。


では、また。

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