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弾ける雨音④

第十六話

(ユリ)

スニーカーが水を弾き返す術もなく
靴下がひたひたになる。
でも脱いでしまいたくなるこの感覚の気持ち悪さは
君のと会話で全部吹き飛ばされていた。

現在を透明化している私にとって、今日ほど現在を意識した日はない。通り過ぎた道から家に着くまでの間が、それくらい楽しかった。

さすがに何も会話をしないのはまずかったかな、と家を通り過ぎたと言われた私は今更ながらに気づく。つい癖で瞬時に自然な会話の形を脳内シュミレーションにかけ、他愛もない自己紹介やら世間話なら君の奥底に触れないし大丈夫だろうと話しかけてみる。そうしたら、君は思ったより柔らかに教えてくれた。

茶髪青年とは中学からの同級生で、カフェは彼の両親が経営していること。バイトは誘われて、手伝いの感覚で始めたこと。今の高校で部活は入っていなくて、中学では幽霊部員だけどバスケ部だったこと。

初めて聞く話ばかりになぜか私は心が躍った。
一歩だけ君に近づけたような感覚もする。

その後はテレビやラジオ、動画配信とか音楽の話をした。自分の好きなものの話を人にしたのはいつぶりだろうか。初めは一生懸命探り探り話していたけれど、最近メジャーデビューしたRAZOOLという音楽グループが好きという共通点も見つかり、一気にその話題に花が咲く。

次第に話すことにも心地が良くなり、気づくと君は笑顔で溢れていた。

初めて見る笑顔に最初は驚いたけれど、今までに感じたことのないくらいの温かい感情がどんどんと私の中に広がっていく。


雨がいつの間にか止んでいたことも知らず
私たちは傘を差したまま、話し歩き続けた。


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