暗黒の未来スコープ③
恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』
【第三十三話】
(ユリ)
陽気な季節でも
私の心は冷めたまま。
この先にある未来に、期待が持てなかった。
カラン
扉が音をたてる。
今日は水曜日ではない。
それでもつい寄ってしまった。
本当は毎日でも通いたいのだけれど。
そこは我慢。
いつも通り席につきホットココアを頼む。
カバンの中にあるファイルから課題確認表を取ろうとすると、ふと進路希望調査の紙が目に入った。
そういえば、君はどんな未来を歩もうとしているのだろう。結婚や仕事までライフプランを考えているのだろうか。それともとりあえず大学進学?
「どうぞ」
角張った指からは男らしさが漏れ出している。
…そうじゃなくて。
あー、今聞けたらどれだけいいか。
あの雨の日に電話を取った君を思い出す。
もし君の奥の根源に触れてしまったらと思うと怖かった。話してもらった対価として私のことも話さなければいけないと思うと、それもちょっと心が重い。
「ありがとう」
それだけ言って、私たちの今日の会話は恐らく終了。ただ一緒にいたいという気持ちだけで一緒に帰ろうと声をかけたあの時の私が、今はものすごく羨ましい。
気持ちに比例して増大していく嫌われたくないという感情は、私が君に近づくことを許さない。自分の気持ちに気づいたあの日から、君との距離は一ミリも変わっていなかった。
君が作ったホットココア。
それだけが私が唯一近づくことのできる君。
安心感と居心地の良さはちゃんとそこにいてくれた。
それだけでよかったのに。
ホットココアが去る季節は
すぐそこまでやって来ていた。
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