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[焚火/基礎技術02]焚火による失敗しない炊飯術

01.焚火炊飯術の予備知識

焚火で確実に旨い白飯を炊ければ一人前のアウトドアマンである。

感覚に頼りがちな炊飯にも確固たる技法がある

 炊飯にまつわる名言の中に〝はじめちょろちょろ、なかぱっぱ〞といった言葉がある。これは先人の度重なる経験から紡ぎ出された賜物と言えるが、米のα化〜β化などと高度に理論化された現代の炊飯と照らし合わせてみても、見事に本質を言い当てている。とはいえ〝はじめちょろちょろ〞については、少し補足が必要である……とその前に、まずは炊飯の基礎を理解しておきたい。
 旨い白飯を炊く秘訣は〝如何に米に水を吸わせるか〞であり、炊飯にまつわるすべての作業はこれを最大限に行うための手段である。元来、米の生でんぷんは消化酵素の作用を受けにくく、分子構造も硬く整っている。これに水と熱を加えることで膨潤を促し、構造を緩ませることで柔らかくて粘りのある糊化でんぷん=旨い白飯とするのである。
 となると、我々が普段何気なく行なっている浸漬(炊飯器で熱を入れる前に米を水に浸しておく作業)も、米に最大限の水を吸わせるための欠かせない作業であることがわかる。そして、この浸漬に関して現在わかっていることは〝米の吸水力は冷水よりも温水の方が高い〞ということなのだ。
 というわけでここからが補足。先の名言が生まれた時代は〝釜炊き〞の時代だ。炉に火の入っていない状態から釜の水を盛大に沸騰させるまでには、それなりの時間を要しただろう。それを踏まえると、かの名言の〝はじめちょろちょろ〞部は〝ゆっくりと釜の水が温まっていくことで浸水を促す過程〞を表現しているのではと予測できるのだ。その証拠に、スイッチ1つで強火にできる現代においては、十分に浸水した米の正しい炊飯過程を温度上昇期→沸騰期→蒸し煮期→蒸らし期と表している。温度上昇期には強火を用いるので〝はじめちょろちょろ〞は当てはまらないのである。
 さて、今回ここで解説するのは焚火炊飯。釜炊きと同じく、水を盛大に沸騰させるまでには時間がかかる。浸漬〜蒸らし期までを一括りに〝はじめちょろちょろ、なかぱっぱ(※)〞と覚えたい。

※「はじめちょろちょろ」は炎が鍋の横からはみ出している様子を表し、強火を意味するという説も少数ある。もしこちらが正解なら、純粋に炊飯過程を表した言葉となるだろう。

02.野外でも使える炊飯に適した道具

炊飯極意“如何に米に水を吸わせるか”を考えるなら、米の量に対してクッカーの容量はできるだけ広く、水蒸気を蓄えやすい形状がベストだ。ソロキャンプなら家庭用の炊飯鍋(1合用・重量約1kg)が最適。
米と水の計量には1合の“ワンカップ”が最高に使いやすい(後述)。
コッヘルを用いる場合に有効なのが、蓋のみ中身が見えるガラス製にすること。目視で中の状態が確認できれば、確実に旨い飯が炊ける!

03.焚火炊飯の手順

手順1[計量]

米と水の最適な比率を正確に計量する
計量に際しては、米炊きを職業とするプロに習って重さで考える。米1に対して水は1.1 ~ 1.5というのが白飯の一般的な比率なので、1合・180mlのワンカップを用いると楽だ。

今回は1合の米を炊く。当然、米をワンカップ一杯に入れると1合となる。
米はゴシゴシと研ぐ必要はなく、あくまで表面についた汚れを水で流す程度で2 ~ 3度繰り返すだけでよい。何回研いでも水が白く濁るのは米の澱粉が抜け出いるからで、やりすぎると旨みも抜けてしまう。
1合=約150gの米に対して最適な水の比重1.2を掛けると180gとなる。というわけで水もワンカップ一杯(容量180ml=重さ180g)を入れるだけで最適な比重となるのだ。米2合を炊くなら水は2杯。

手順2[浸漬]

米の吸水は水温が高いほど早い
炊飯前の欠かせない作業として米に水を吸わせておく浸漬がある。通常は30分が目安だが、風呂程度のお湯に浸けておくと吸水が早く、15分ほど見ておけばよい。焚火炊飯では火熾し時から鍋を火床付近に置いておき、「はじめちょろちょろ」を実践する。盛大に炎が舞う頃には十分に吸水できているはずだ。

鍋を焚火の側に置いておけば、効率よく吸水させられる。

手順3[温度上昇期]→[沸騰期]

吹きこぼれ上等で一気に沸騰させる
浸漬が完了したら最も火が強い場所に鍋を置き、一気に沸騰まで持っていく。米からブクブクと大粒の泡が出てきたら沸騰期だ。理想はここで中火だが、焚火の場合は火力調整が難しいのでそのままでも良い。吹きこぼれが起きても火から離してしまわないこと。

強火で一気に沸騰させる。盛大に吹きこぼれても気にせず調理を続けられるのは焚火の強みだ。

手順4[蒸し煮期]

泡が消えたら弱~中火にシフト
沸騰期で見られた泡が消えたら、ここからしばらくは蒸し煮期。鍋を端に移して弱~中火を維持する。ちなみに、この段階でもでんぷんの糊化に必要な鍋内中心温度98℃を維持しておきたいので、極端に焚火から離しすぎてはいけない。

弱~中火をキープ。徐々に米が炊ける匂いがしてくる。

手順5[蒸らし期]

鍋内に充満した水蒸気を米に戻す
鍋の縁に見られた小さな泡が減り、蓋から出る煙にも水気がなくなってきたら(水蒸気の青味がかった煙が黄色味を帯びてくる)、鍋を焚火から離して蒸らし期に入る。熱を下げることで鍋内に充満している水蒸気が飯層に戻り、よりふっくらと粘りのある白飯になる。水蒸気を逃さないためにも蓋を開けてはいけない。

蓋を開けずに火床から少し遠ざける。
水蒸気が米に戻り、ふっくらおいしい炊き上がりに。

手順6[ほぐし]

水分を蒸発させて飯の均質化を図る
蒸らし期を終えたら直ちに蓋を開けて飯をさっとかき混ぜる。これで鍋内に残っていた遊離水分が蒸発して飯が均質に仕上がるのだ。この工程をするとしないでは、時間が経ってからの飯の旨さにも多大な差が出る。炊き上がった白飯は適度なお焦げもできた極上の仕上がり。

全体をほぐして余計な水分を飛ばしたら炊飯完了。


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