映画館&Bar「第8電影」

川口にある映画館&バー「第8電影」のnoteです。Twitterに収まりきらな…

映画館&Bar「第8電影」

川口にある映画館&バー「第8電影」のnoteです。Twitterに収まりきらなかった映画愛をここで吐露します。

最近の記事

映画トリビア「ウソ・ホント」クイズ

 映画とは途方もなく巨大な虚構です。我々が実際に見ることができるのは、スクリーン上に映し出される映像だけです。  そしてその神秘性ゆえに、観客たちは映画の「裏側」に強く惹きつけられます。撮影中のアクシデント、スタッフやキャスト同士の仲、興行上の工夫や失策、などなど。  これら「トリビア」を知ることで観客たちはより立体的に映画を理解しようとしたり、あるいは単にコンスタントな知的好奇心を満たしたりするわけです。  さて、このように観客たちがトリビアを共有し合う文化が映画の興

    • 映画館&バー支配人が選ぶ胸糞映画10選

      <胸糞映画は飽和している>  胸糞映画、と聞いて皆さんは何を思い浮かべるだろうか?  ミヒャエル・ハネケ『ファニーゲーム』?ラース・フォン・トリアー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』?クリント・イーストウッド『ミリオンダラー・ベイビー』?あるいはデヴィット・フィンチャー『セブン』?  確かにその通りだ。上記の作品はどれもこれも胸糞映画界のゴールデンレコードだといえる。しかし貪欲な皆さんにしてみれば、「胸糞映画」と検索をかけて上記のような作品ばかりが取り沙汰される現況は手放

      • 人間性の後で ーージェイムズ・ベニング「カリフォルニア・トリロジー」

         『セントラル・ヴァレー』『ロス』『ソゴビ』からなる「カリフォルニア・トリロジー」を続けて鑑賞。今年度(2023年)ベストレベルで良かった。  トリロジー全作品に共通するのは、ワンカット2分30秒のフィックスショットであるということ。セリフは無し。となれば睡眠を促すリラクゼーション映画を予期したが、実のところは全てのショットが緊密かつ意図的に配置された上質なアートシネマだった。  『セントラル・ヴァレー』はジェームズ・ベニングの初期衝動的で不定形的な欲望が迸っており、特定

        • 愛おしきディスコミュニケーション ーーシェーク・M・ハリス特集に寄せて

          私が『サイドミラー』に出会うまで  私がシェーク・M・ハリス作品に初めて触れたのは去年(2023年)のムビハイという映画祭だった。  ムビハイは映画美学校、ENBUゼミナールに並ぶ映画制作ワークショップである「ニューシネマワークショップ」が主催する映画祭で、在校生・OBによる中短編作品の中から選りすぐりの何作かが上映される。  その日のメインは『遠吠え』という長編作品で、これは特別上映枠として上映された。本作の監督こそが他ならぬシェーク・M・ハリスだった。  『遠吠

        映画トリビア「ウソ・ホント」クイズ

          ファー・フロム・パリ、テキサスあるいは山向こうの街

           目黒シネマだったと思う。  知人とヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』を観に行った。  劇場を出るまではお互い無言だったが、俺には無言であることが開く意味の無際限な拡大に耐えられるだけの思慮がないので、単刀直入に「どうだった?」と尋ねてみた。 「まあ、よかったよ」  知人はそこへいくつか気の利いた褒辞をぶら下げたが、文頭の「まあ」が後続のあらゆる肯定的なニュアンスを打ち消していた。  正直意外だった。たぶんものすごく気に入ってもらえるだろうと思っていた。主人公

          ファー・フロム・パリ、テキサスあるいは山向こうの街

          【爆音】METAL MASTER FILMS上映祭、開始・・・【カレーもあるよ】

          METAL MASTER FILMSがやってきた!!  当館では12月18日より1週間の間、METAL MASTER FILMS製作の映画作品が上映される。  METAL MASTER FILMSは監督・高橋佑輔が独自に手がけるインディーズ映画プロダクションだ。23年12月末までに既に10本もの映画作品が製作されており、特に近年は中長編作品も増えている。詳しくは後述するが、ゴアでアシッドでドラッギーな作風を得意とした令和でも稀に見る異色のプロダクションだ。  さて、当

          【爆音】METAL MASTER FILMS上映祭、開始・・・【カレーもあるよ】

          ヒップホップと移民問題 ーー富田克也『サウダーヂ』

          <はじめに>  富田克也の映画はその知名度に反して流通経路がきわめて限られている。DVDは軒並み絶版で中古市場が暴騰、サブスク配信もナシ。というわけで劇場上映されているタイミングで観に行く以外に術はない。幸いにして日本大学芸術学部のゼミ活動の一環で移民映画の特集がユーロスペースで開催されており、『サウダーヂ』も上映作品の一つだった。というわけでようやく初めて富田克也の作品に触れることができた。  非常に素晴らしい映画だったので、忘れないうちに雑記を残しておく。 <ヒップ

          ヒップホップと移民問題 ーー富田克也『サウダーヂ』

          まだそこに生きている ーーチェン・カイコー『さらば、わが愛 覇王別姫』

           チェン・カイコーは歴史を憎まない。それを谷間を抜ける風や浜辺に寄せるさざ波のように、自然的なものとして受け入れる。たとえそれが屋根を吹き飛ばし大地を抉るほど強大で残酷なものであっても。  彼の人生は、有り体に言えば波瀾万丈だ。映画監督の父の家に生まれ、経済的にも文化的にも恵まれた幼少期を過ごすが、反右派闘争や文化大革命の過激化に伴い次第に凋落。反共的で穏健派の父親に失望し、遂には自ら紅衛兵となる。文化大革命末期には雲南省の山奥に下放され、そこで幾年もの間過酷な農作業に従事

          まだそこに生きている ーーチェン・カイコー『さらば、わが愛 覇王別姫』

          怪異VSテクノロジー ーーチョン・ボムシク『コンジアム』

           皆さんこんばんは。第8電影支配人の岡本です。  最近めっきり寒くなってきましたね。めっきりってなんかアレですね、冬以外マジで使いどころのない副詞ですね。  北海道出身の友人に「この程度の寒さで冬を語るな」と煽られたので、せめて体感温度だけでも下げようと思い、ホラー映画の雑語りでもやってみようかと思います。今回取り上げるのは韓国発の本格ホラー、『コンジアム』です。  それでは最後までお楽しみください!(※一応ブラクラ注意!!)  POVのホラー映画はなぜ怖いのか?ある

          怪異VSテクノロジー ーーチョン・ボムシク『コンジアム』

          炸裂する鮮血!そしてショット!ーー高橋伴明『DOOR(1988)』

           みなさんこんばんは。映画館&バー「第8電影」中の人です。今回はJホラー黎明期よりもさらに昔に撮られた高橋伴明の傑作ホラー『DOOR』について書きました。  それではどうぞ〜!  「Jホラーの幻の原点!」という胡散臭い謡い文句にまんまと乗っかってみたが、その通りだと首肯せざるを得ない傑作だった。  あらすじは単純。とある団地に住む靖子という女(高橋恵子)が、無理やり家に上がり込もうとしてきたセールスマンの山川という男(堤大二郎)の手首を誤ってドアで挟んでしまう。それから

          炸裂する鮮血!そしてショット!ーー高橋伴明『DOOR(1988)』

          家族は未だ有効か?--エドワード・ヤン『ヤンヤン 夏の想い出』

           『エドワード・ヤンの恋愛時代』が4Kリマスターされたり『ヤンヤン 夏の想い出』がリバイバル上映されたりと、2023年はエドワード・ヤン再評価の波が押し寄せていた。本国、台湾でもエドワード・ヤンの大規模な展示イベントが催されていたようで、アジア全域で彼の映画を再発見しようという気運が高まっているといえるだろう。  というわけで私もその流れに便乗しちゃおうと思う。今回取り上げるのはエドワード・ヤンの代名詞的作品ともいえる『ヤンヤン 夏の想い出(2000)』だ。  ※以下ネタ

          家族は未だ有効か?--エドワード・ヤン『ヤンヤン 夏の想い出』

          映画館&バー「第8電影」とは?

          ◯はじめに  一人で映画を観に行くのは楽しい。たいていは一人で映画を観に行く。ただ観終わった後が辛い。下りのエスカレーターが辛い。帰りの電車が辛い。自宅の沈黙はいちばん辛い。  劇場の出入り口へと流れていく列の中でしきりに周囲を見回している男性がいたことを思い出す。わざとらしく歩幅を縮める女性がいたことを思い出す。「やっぱ無印っすよね」とか「オチ投げ過ぎですよね」とか「あそこキューブリック意識してますよね」とか、何でもいいから彼らに一声かける理由が欲しかった。声をかけて

          映画館&バー「第8電影」とは?