まだそこに生きている ーーチェン・カイコー『さらば、わが愛 覇王別姫』
チェン・カイコーは歴史を憎まない。それを谷間を抜ける風や浜辺に寄せるさざ波のように、自然的なものとして受け入れる。たとえそれが屋根を吹き飛ばし大地を抉るほど強大で残酷なものであっても。
彼の人生は、有り体に言えば波瀾万丈だ。映画監督の父の家に生まれ、経済的にも文化的にも恵まれた幼少期を過ごすが、反右派闘争や文化大革命の過激化に伴い次第に凋落。反共的で穏健派の父親に失望し、遂には自ら紅衛兵となる。文化大革命末期には雲南省の山奥に下放され、そこで幾年もの間過酷な農作業に従事