煮干しの向こう側
例の感染症のせいもあって頼まれることは少なくなりましたが、感染症が出てくる前は時々小学生に生物の実験教室みたいなのをしていました。その時によくやったのが、煮干しの解剖です。少しにおいやゴミが出てきますが、生の魚で解剖をするのに比べればかなりマシなのに加えて最強に手軽です。何よりも、血や内臓に抵抗がある子どもでもできます。今回は、動物の体のしくみを知るのに最高の教材である煮干しのお話です。
煮干しのいいところ
煮干しを解剖する目的は、動物の体の構造を知ることにあります。ただ、解剖しなくても教材として煮干しは一級品です。スーパーなどで売られている煮干しはいわゆるカタクチイワシです。カタクチイワシの名前の由来は、下顎の方が小さいことなのですが、煮干しはイワシをそのまま煮て干しただけですので、この特徴を観察することが可能です。他にもウルメイワシやトビウオなども煮干しとして売られています。図鑑を片手に体の特徴を観察してみても良いのではないでしょうか?
単に煮干しの内臓を観察するだけでしたら、ティッシュと爪楊枝があれば十分です。可能なら60℃くらいのお湯に10分ほどつけたものを利用すると、体が柔らかくなって解剖しやすくなります。しかも、解剖と言ってもお腹のところを爪楊枝でめくって、内臓が見えるようにするだけです。
煮干しは製造過程で洗って煮られているため、変色していたり、一部欠損している場合があります。比較的きれいに内臓が残っていた煮干しがあったので、参考に写真を貼り付けておきます。
プラス顕微鏡
ここまででも十分生物の教材として利用できているのですが、ここでは追加であることをしてみました。顕微鏡が必要なので自宅で行うのは難しいかも知れませんが、煮干しの最期の晩餐の調査です。方法は、煮干しの消化器官をスライドガラスの上に置いて、水を一滴加えて、カバーガラスで押し潰すだけです。(注:内容物を調べる場合は、事前にぬるま湯に浸しておくことが必須になります。)
カタクチイワシが食べているのは、いわゆるプランクトンと呼ばれる生物です。顕微鏡で腸の内容物を観察してみると、エビの脚や尻尾のようなものが見つかります。これは、ケンミジンコに代表されるカイアシ類と呼ばれる甲殻類です。サイズがミリ単位であるだけで、甲殻類ですので食卓にならぶエビと同じです。今回は写真に残せなかったのですが、円盤状や放射状に枝が伸びているものを発見することがあります。これらはおそらく植物プランクトンです。お恥ずかしながら、植物プランクトンは全くわからないのですが、円盤もしくは紡錘形のものはケイソウではないかと思います。
時々、魚のうろこのようなものが見つかる時があるのですが、魚を食べているとは考えにくいです。というのも、カタクチイワシは口を大きく開けながら回遊し、動物プランクトンや植物プランクトンを鰓耙(さいは:鰓から生えているくしのような構造)でこしとりながら食べるため、大きな固形物を飲み込むことは無理なのではないかというのが理由です。煮干しは加工されて私たちの手元にきているので、他の魚のうろこが紛れ込んだ可能性も高いです。
煮干しは安価に大量のイワシを手にいれることができるため、高校の自然科学系クラブの研究材料としても利用されています。水揚げされた地域や時期によって食べているものが異なるのか?体のサイズと食べているものの関係は?など仮説も立てやすいです。私も今回余った煮干しで内容物を観察してみましたが、色々観察できたので、別のメーカーの煮干しやトビウオなども観察して、紹介したいと思います。いつになるかわかりませんが。
今日の本題
今回、煮干しを観察してみようと思った理由は、この胃内容物にはレアものがあると聞いていたためです。先述しましたが、カタクチイワシはプランクトンを食べるため、胃の中には動物プランクトンか植物プランクトンしかないはずですが、まれに寄生虫がいるときがあります。実は今回の検査は、中学生に手伝わせていたのですが、ある生徒から「自分の知らないプランクトンがいる」とのことで見せてもらったところ、寄生虫でした。煮干しは加工の過程で加熱されているので、変形してしまっています。そのため、ちょっと確信がもてないのですが、吸虫です。原型をとどめていないので種類はわかりませんが、こういうレアものとの出会いもあります。よろしければ、お家で試してみてください!
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