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酵母のチカラ

身近な現象ほど意外と正確な仕組みを知らないことはよくあると思います。今回取り上げるのは、“発酵”と呼ばれる現象です。ヨーグルトを作る乳酸発酵やお酒をつくるアルコール発酵などよく知っていると思いますが、その理屈はなかなか説明しづらいのではないでしょうか?高校でも苦手としている生徒も多い分野です。


呼吸とガス交換

発酵の話をする前に“呼吸”の話をします。“呼吸”と聞けば、毎分15回ほどやっている、空気を吸ってはくやつでしょ?と考える方がほとんどだと思います。しかし、これは生物学では“ガス交換”と呼ばれています。英語では、私たちが日常的に使用している呼吸(吸ってはいて)をbreath、生物学での呼吸をrespirationと言います。それぞれを改めて説明すると、以下のようになります。
breath
体内に空気を取り込み、そこから血液中に酸素をとりこんで、血液中の二酸化炭素とともに体外に出すという、酸素と二酸化炭素の気体の交換作業
respiration
細胞内でグルコースをはじめとした有機物を分解してエネルギーを作成する反応。酸素を用いてエネルギーを作る反応を呼吸、酸素を用いずにエネルギーを作成する反応を発酵と言う。
ここでは、後者の意味(respiration)で呼吸という言葉を使用します。

酸素を使わない呼吸

今回のテーマの“発酵”は酸素を使わない呼吸のことです。breathの呼吸であれば、酸素を使わないのはあり得ないことですが、細胞は酸素を使わずに呼吸をすることが可能です。違いは下の図を参考にしてください。エネルギー源となる有機物はC炭素),H水素),O酸素)でできているため、酸素を用いてエネルギーを作ると、完全に分解されるため、二酸化炭素になってしまいます。簡単にいうと、BBQなどで空気を送ってやると炭や薪がよく燃えるのと同じ理屈です。酸素があるとよく燃えます。
一方、酸素がない場合は、エネルギー源の有機物を十分に燃やすことができないので、いわゆる燃えカスが残ります。それが、エタノールであったり、乳酸であったりします。我々人類はこれを食品として利用しています。ちなみに、ヒトの細胞でも酸素を使わない呼吸は行われています。筋肉などで大量のエネルギーが必要とされた場合、酸素を用いたエネルギー作成は時間がかかるので、足りなくなったエネルギーを酸素を使わない方法で有機物を分解してエネルギーを作ります。「ウォーキング程度の有酸素運動の方が痩せるよ」と言われますが、これは酸素を使わないエネルギー作成を行わない程度の運動で留めておくことで、体内の有機物(主に糖類)を使うようにするためです。

ATPというのがエネルギーのことです。発酵よりも呼吸の方がエネルギーを効率よく作れることがわかります。

発酵をさせてみた

化学の実験の重要なことは、“可視化”することです。我々は目で物事を判断するのですが、気体の発生や液体の中での変化は目では見えません。高校の教科書ではシリンジ内で発酵させて発生した量を測るという方法がとられています。しかし、私としてはもっと簡単に可視化できないかということで、以下のWebサイトをもとに発酵の可視化にチャレンジしてみました。

発酵の可視化を行うために注目したのは、アルコール発酵では二酸化炭素だけが発生することです。密閉された袋の中に酵母と空気と有機物を入れておいても、エネルギーを作るために使用する酸素と発生する二酸化炭素の量が同じであるため体積に変化はありません。ところが、密閉された袋の中に酵母と有機物だけ入れた場合に、アルコール発酵が行われた場合、二酸化炭素だけが発生し袋がふくらみ始めます。これは、パンをふくらませるのと同じ理屈ですが、家にあるものを利用して可視化してみます。

用意するもの
ドライイースト, 風船, フィルムケース, グラニュー糖

今の時代にフィルムケースが家にあるにはなかなかないと思いますが、100均にありました。
ドライイーストと砂糖をいれます。これの倍くらい入れてください。
水を入れて混ぜます。もっと混ぜてください。

フィルムケースにドライイースト(3g)とグラニュー糖(3〜5g)と水を入れてよく混ぜます。その後、風船をかぶせて40℃くらいのお湯につけます。2,3分で二酸化炭素が発生し始めます。

こんな感じで膨らみます。

5分くらいでふくらみ始めます。それだけです。

発酵のチカラを舐めてました

片付ける時に、中身が飛び散ることがあるのでお気をつけください。

自由研究への応用

この発酵の観察方法は簡単ですが、実験や研究としては不適切です。一番の問題は、発生した二酸化炭素の量を測れていないところです。まずは、使用するドライイーストと砂糖の量を同じにして、お湯につける時間を決める必要があります。
また、お湯の温度を変えたり、エネルギー源の有機物を砂糖以外のものに変えて、風船のふくらみ具合を比較すると少し実験になります。
この実験は化学の実験のようですが、ドライイーストは酵母と呼ばれる立派な生物をしようしているので、生物の実験です。そのため、「酵母はどれくらいの温度でよく働くのか?」「酵母がどの有機物が好きなのか?」などの仮説を立てて、条件を変えて仮説が正しいか証明すれば立派な研究になります。よろしければ参考にしてください。

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