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定年制の今後を考える(2)

先日、ある意見交換会で、米国をはじめとする外資系の有力企業、及び日本企業両方での経験が豊富な方のお話を聞く機会がありました。前回テーマの続きとしても関連して考えてみます。

「個人的な意見」と前提を置かれたうえでのお話の中で、印象に残ったのは次の3つでした。

・強力なトップダウンを進めるべき

昨今言われていることに、「人的資本経営」の重要性があります。そのことに関連し、次のように話しました。

「ヒトという資源を、モノではなく人材として認識して投資しながら、労使がWin-Winを目指していくことに異論はない。そのうえで、人的資本経営が、あたかも従業員の自由意志に(尊重を通り越して)任せきる、下意上達を文化とすべきだのように語られる場面を見かけることがあるが、とても違和感がある。米中をはじめ日本企業でも、株式の時価総額上位を占めている企業は、バリバリの上意下達企業である」

その方が直近まで勤めていたのは、世界経済で最も影響力を与えている企業のひとつと言われている米系企業です。そこも強力な上意下達の組織で、社員にイノベーションなど求めてなかったと言います。そういった経験からも、世界を変えるようなイノベーションは、下意上達ではなく、上意下達の強力なトップダウンで進めないと無理ではないかというのがそのお話の趣旨でした。

そして、「日本企業のミドルマネジメントの強さは、かつて最強だと言われた。上と下への双方向に対して力を発揮していた。今はミドル層が下位層を向きすぎているのではないか」とも指摘されました。

イノベーションにつながるような企画や行動を役割として社員に求めるべきかどうかは、事業の特徴や社員の保有スキルなどにもよりますので、一概には言えないと思います。そのうえで、人的資本への投資額を増やすなどもさることながら、投資した結果何を組織成果として求めていくべきかの方向性を強く示す、その点は成長性の高い外資系企業に優れたところが多いという指摘は、一考に値すると思います。

・企業には明確な解雇権を認めるべき

企業による解雇が市民権を得ていないことにも問題意識を持っているようでした。解雇権というより、契約解除の権利と言うほうが的確かもしれません。労働者側にしか労働契約解除の権利がないということへの問題意識です。

「日本企業の社員の力が、他国に比べて落ちすぎているのを実感する。その要因のひとつになっているのが、企業側の解雇権が極めて限定的にしか認められていないことにあると見ている。よって、(職場に対して前向きな従業員はよいが)後ろ向きな従業員は上司の言ったことをイヤイヤやりながら低パフォーマンスで残るか、反発し続けることができてしまう。しかし、米系企業ではそれができず、嫌ならやめてもらうことになる」というわけです。

前回、(一般的な傾向として)米国系などの企業では定年制がないかわりに、いつでも解雇の可能性があることを取り上げました。慎重に考えるべきテーマですが、今後の社会全体での論点になってくるのかもしれません。

上記指摘には正論の側面がうかがえます。
「トップダウン」や「上意下達」と言っても、「心理的安全性がなく意見が何も言えない」「理不尽なことに対して通報する自由がない」などとは違います。従業員が意見や現場の声をあげることは大切です。経営もそれら集めた周知を参考にしながら判断していくことが必要です。

そのうえで、最終的に組織の方針として決まったことは全メンバーが実行部隊となって遂行するべきである。このあたりのことが、外資系企業で成果を上げているところほど統治が行き届いている印象だというわけです。

・個人のモチベーションマネジメントは従業員自身が責任を負うべき

ある調査結果の内容、及びその方自身の外資系企業での経験からすると、米国企業と日本企業でエンゲージメントに求めている要素が違う傾向にあるということでした。

「米国企業では、企業のミッションや経営者が、従業員にとってのエンゲージメントに影響をもたらす一番の要素である。経営者がどんな人かで従業員のやりがいが変わってくる。一方の日本企業では、経営者よりも、残業時間が一定の範囲内で収まるかどうかなどが一番の影響要素になっているところが多い」というお話でした。

また、日本企業でモチベーションが過剰なほどテーマ化されやすいことにも違和感があるということでした。

「従業員のモチベーションは基本的に企業がつくるものではなくて、自分でつくるもので、個人の問題。本人が生み出す成果に基づいて本人の選択で働くのであり、そこからモチベーションが生まれてくるのであって、企業側に責任を持たされるものではないだろう。それができない環境ならば、別の環境を求めていくべき。逆に、マネジメントや企業のミッション・ビジョンが従業員にとって魅力的に映らない場合、外資系企業では従業員にすぐに去られてしまう。だからこそ、そこのメンテナンスにも注力している」というわけです。

上記の指摘が適切かは、「エンゲージメント」や「モチベーション」などの概念、何を意味するかの定義にもよりますが、一考の余地はある視点のお話だと感じた次第です。

すべての外資系企業で上記のようになされているというわけでもないと思いますし、外資系企業の取り組みをすべて踏襲する必要もありません。労働市場にどれだけ流動性があるかの社会環境の違いなどもありますので、国によって合うもの・合わないものもあります。

上記の3つの問いかけに対して決まった正解はありませんが、経済社会環境が変化し、労働市場もさらに流動的になっていく日本において、参考にするべき視点ではないかと思います。

<まとめ>
(前回に引き続き)何かの「前提」はもしかしたら、そこに必然性はなく、固定観念に過ぎないかもしれない。

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