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長期経営計画のすすめ Ⅲ.事業戦略_現状分析 3. 外部環境を分析する



1.市場分析

既存事業において、これまで順調に伸びてきた売上が低迷したとき、これは市場の影響か、競合の影響か、と悩む事業責任者は多いでしょう。市場分析にはいくつかの方法がありますが、私が重要視している「市場規模・市場成長率」と「顧客ニーズ」について紹介していきます。

「市場規模」とは対象となる製品やサービスの価値に対する顧客の支払額の合計であり、顧客として顕在顧客や潜在顧客を含めるかどうかで規模は変化していきます。まず市場規模を把握する方法として、調査会社が該当する市場のレポートを発行しているかを確認します。専門機関の調査結果であり信用力がありますので、レポートがあれば、ぜひ購入して分析の材料にすることをお勧めします。

合わせて、既存事業には既に購買してくれた顧客がいるため、そこから試算していく方法をお勧めします。『Ⅲ.事業戦略_現状分析 2. 内部環境を分析する』の中で、「顧客を業種別・規模別・地域別などに分類・グルーピングし、それぞれ売上・限界利益を合計した上で、3〜5カ年において増加・減少しているグループはどこか?」というチェックポイントを紹介しました。おそらく多くの企業において、自社の製品やサービスを購買してくれる代表的な顧客分類や顧客像があると思います。「大企業の製造業」ではなく、「食品製造業で従業員1000人以上」ぐらいまで絞り込み、それが国内に何社あるか調査します。1社あたりの購買金額も既存の取引から確認できるので、その掛け算で市場規模が試算できます。前述した調査レポートが存在する場合は、自らが試算した市場規模と比較すると小さくなる場合が多いでしょうが、それがより現実的な市場規模になると思います。

現在の市場規模が確認できた次には、その市場が伸びるかどうか、つまり今後の「市場成長率」が気になるでしょうまずは自社の売上における過去3年や5年間の成長率から今後の成長率を推測できるでしょう。ただこれだけだと、自社だけの推測に過ぎないので、次に競合他社の情報を参考にします。

競合が上場企業であれば事業ごとのセグメント情報として売上を開示している場合も多いため、3~5年間分の有価証券報告書や決算説明資料を調べていくことで過去の競合他社の成長率が判明し、今後の成長率を試算することができるでしょう。

前述した調査レポートが存在する場合、多くのレポートには今後の成長率が試算されています。自社情報、競合情報、調査サポート等を照らし合わせながら、今後の市場成長率の導いていきます。

一定の市場規模や成長が見込まれるとしても、それは過去のデータに基づく試算であり、将来、「顧客のニーズ」が大きく変化することはないだろうか?と気になります。顧客のニーズは顧客にしか分かりませんし、顧客自身もわかっていないかもしれません。よって自社であれこれ詮索しても答えが見つかることではありません。よって顧客ニーズを確かめるには、顧客に聞く、顧客と会話する方法をお勧めします。

定期的に顧客満足度調査を実施していれば、そのデータを活用しましょう。前述した代表的な顧客分類や顧客像の過去のデータやフリーテキストを活用し、総合評価結果だけでなく個別項目の結果についても経年で確認し変化を探します。ただ顧客満足度調査は評価の低い顧客への対策が目的になっている場合も多いので、顧客ニーズを把握するには限界があります。

そこで顧客先に訪問し、直接ヒアリングしましょう。ここでのヒアリングの目的は「顧客ニーズの調査」です。これまで、なぜ当社の製品を購入してもらったのか(ニーズ)を改めて確認し、その上で、これからの顧客の事業方針を踏まえた将来の購入について、継続して購入する計画なのか、何らかの変化があった場合、もっと大量に購入することがあるのか、その逆で急激に減少することがあるのかを聞いていきます。

「価格を安くしてほしい」という要望はよく聞くと思いますが、この要望は重要であって、逆質問が必要です。
「安くすれば、もっと買ってくれるのか?」
顧客の顧客への提示価格がもっと下がれば、市場は拡大する可能性があるのか?自社として単価を下げて数量を増加させる可能性があるのかを探る必要があります。

顧客ニーズの調査では、顧客から将来に向けたニーズの変化を汲み取る必要があり、曖昧な話やセンシティブな話が多くなりますので、顧客と直接会話することでニュアンスを含めたインプットを行い分析を進めることがとても重要になります。


2.競合分析

競合他社とは常に新規顧客の獲得競争や既存顧客の奪い合いを行なっているのですが、私は意外と定期的に情報をアップデートし競合分析している企業は少ないと感じています。競合分析は競争に勝つために行うと同時に、自社の改善点や顧客の新たな動向も把握することが出来ます。では具体的に分析方法を紹介していきます。

まずは、社内の関係者からヒアリングし、競合する企業の会社名をリストアップしていきます。そして、それぞれの会社ごとに、製品やサービス名称、その仕様や機能、ターゲット顧客、顧客に提供している価値、価格、得意先数、販促方法、サポート体制などを一覧化していきます。社内の関係者からのヒアリング、競合会社のWEBサイト、その他インターネットで確認しながら情報を収集していきます。

また、競合他社の戦略の確認も重要です。上場企業であれば事業ごとのセグメント情報として戦略や重点テーマを開示している場合も多いため、過去3~5間年分の有価証券報告書や決算説明資料を調べます。また帝国データバンク社や東京商工リサーチ社などの企業調査会社を活用して情報収集することもお勧めします。

競合他社の情報一覧に自社の情報も加えて情報が整理できれば、自社が優れている部分や劣っている部分を評価していきます。競合他社が少なければ、1社ごととの相対評価でもいいですし、比較対象が多くあれば項目ごとのランキング形式でもいいでしょう。

競合他社の売上や販売数量が把握できるのであれば、市場規模と組み合わせてシェア分析が可能になります。市場における自社の立ち位置が明確になるので、今後の戦略が立てやすくなります。

競合分析はできる限り客観的に行うことが重要です。自社の方が優れていると過信したり、自社が劣っていると悲観的になったりせずに、事実を根拠として評価していきます。


3.環境分析から課題を特定する

市場分析と競合分析の外部環境分析について紹介してきました。『Ⅲ.事業戦略_現状分析 2. 内部環境を分析する』にて内部環境分析を実施しましたので、外部と内部の環境分析を組み合わせて、自社の課題を特定していきます。

製造業の B to B のケースを事例として紹介していきます。

顧客分析において、年間売上がNO.1顧客の売上が減少している【内部環境】

製品分析と組み合わせ、単価は横ばい、数量が減少していることが判明【内部環境】

市場分析において、市場規模は増加しており成長率も高いことが判明【外部環境】

競合分析において、低価格だが品質が悪かった競合他社の品質が部分的に改善されたことが判明【外部環境】

顧客にニーズ分析において、顧客製品のラインナップのうち、低単価製品の仕入れ先を自社から変更したことが判明【外部環境】

課題は製品・価格戦略の見直し

現状では顧客の一部の製品で競合製品に置き換わっただけだが、このまま競合製品の全体的な品質が自社を上回れば、すべて置き換わり大幅な売上減少になる可能性が出てきます。またこの動きはNO.1顧客に限らず、他の得意先に広がることも考えられます。

よって中期経営計画によって製品・価格戦略を策定する必要があります。原材料等のコストダウンによって低価格戦略を進めるのか、価格は維持し製品品質を更に高めて差別化を図るのか、製品ラインナップを拡大し低価格から高価格を幅広く対応するのか、などの計画が求められます。合わせて設備投資計画や資金計画も求められます。

外部環境分析と内部環境分析を丁寧に行い、連動させて分析を進めることが、これから策定していく経営計画の有効性を大きく左右していきます。


今回は以上となります。次回は「4. 現状分析のまとめ」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する  ←今回
4. 現状分析のまとめ   ←次回


Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 目指す事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を決める
5. 新規事業・M&A戦略を決める
6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 全社一次要員計画を策定する
9. TOPマネジメントを決定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


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