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長期経営計画のすすめ Ⅲ.事業戦略_現状分析 2. 内部環境を分析する



1.顧客分析

Ⅲ.事業戦略_現状分析 1. 事業業績を分析する」において、事業における収益性と労働生産性について、主に会計数字を元にして分析しました。売上や限界利益といった数値結果は把握することは出来たのですが、その理由を探るには、もう一段数値を分解する必要があります。

内部環境分析において重要となる顧客分析と製品・サービス分析(以下、製品分析)の方法について実務的に紹介していきます。顧客分析や製品分析方法は業種や取引形態によって異なります。例えば、小売業の顧客分析では客数や客単価、購入点数や新規・リピート顧客数や来店頻度などが主な指標となり、製品分析では製品販売数や製品単価、既存・新規製品数などが主な指標になります。今回は『製造業の B to B のケース』を題材として紹介していきます。

まず顧客分析です。顧客分析では過去3〜5期分の顧客別売上を用意します。各期ごとに売上の大きい順番に並べていきます。その上でチェックポイントは以下となります。

チェックポイント①:売上全体の80%を占める顧客群の確認
✔︎ わが社にとって重要な顧客はどこか?
✔︎ 3〜5カ年において、その顧客名は同じか、変化しているか?
✔︎ 3〜5カ年において、売上が増加している顧客、減少している顧客はどこか?
✔︎ 80%を占める顧客数は減っているか、増えているか?
✔︎ 特定の顧客への依存度は高くないか?上位顧客の業績状況は?

チェックポイント②:既存顧客と新規顧客を確認
✔︎ 3〜5カ年において、既存顧客と新規顧客の各件数および割合は?
✔︎ 新規顧客には業種や規模など、どのような特徴があるか?
✔︎ 3~5年前に獲得した新規顧客において、売上を増加させている顧客名やその特徴は?
✔︎ 3〜5カ年において、売上を大きく減少させている既存顧客やその理由は何か?

チェックポイント③:その他の確認事項
✔︎ (売上だけでなく限界利益まで算出できれば)、売上全体の80%を占める顧客群の中で、利益率の高い顧客と低い顧客はどこか?その理由は何か?
✔︎ 顧客を業種別・規模別・地域別などに分類・グルーピングし、それぞれ売上・限界利益を合計した上で、3〜5カ年において増加・減少しているグループはどこか?
✔︎ (顧客ごとに使った経費を算出できれば)、経費額を大きい順番に並べて、売上額の順番と比較して問題はないか?

これらを確認することで、売上や限界利益が増加している、もしくは減少している理由を顧客の観点から深ぼることができます。


2.製品・サービス分析

製品分析は顧客分析と同様に過去3〜5期分の製品別売上を用意します。製品は数が多い場合がありますので、その際はカテゴリーごとに集約して分析します。まずは各期ごとに売上の大きい順番に並べていきます。その上でチェックポイントは以下となります。

チェックポイント①:売上全体の80%を占める製品群を確認
✔︎ わが社にとって重要な製品は何か?
✔︎ 3〜5カ年において、それらの製品は同じか、変化しているか?
✔︎ 3〜5カ年において、売上が増加している製品、減少している製品は何か?
✔︎ 3〜5カ年において、製品ごとの単価と販売数をリスト化した上で、単価が増加している製品、減少している製品は何か?販売数が増加している製品、減少している製品は何か?
✔︎ 80%を占める製品数は減っているか、増えているか?
✔︎ 特定の製品への依存度は高くないか?

チェックポイント②:既存製品と新規製品を確認
✔︎ 3〜5カ年において、既存製品と新規製品の各件数および割合は?
✔︎ 3~5年前に販売開始した新規製品において、売上を増加させている製品名やその特徴はあるか?
✔︎ 経年変化において、売上を大きく減少させている既存製品は何か?その製品は単価が下がっているのか、販売数が下がっているのか?

チェックポイント③:その他の確認事項
✔︎ (売上だけでなく限界利益まで算出できれば)、売上全体の80%を占める製品群の中で、利益率の高い製品と低い製品はどこか?その理由は何か?
✔︎ (製品ごとに使った経費を算出できれば)、経費額を大きい順番に並べて、売上額の順番と比較して問題はないか?
✔︎ (製品ごとの発売時期とその時期から現在までの毎年の売上が把握できれば)、売上全体の80%を占める製品群の製品を、発売時期の古い順番に毎年の売上と合わせてリスト化し、製品ごとのライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)を可視化する。

これらを確認することで、売上や限界利益が増加している、もしくは減少している理由が製品の観点から深ぼることができます。


3.顧客・製品分析から真因を探る

製造業の B to B のケースとして、顧客分析では上位80%の顧客動向や既存と新規の顧客動向、利益率の推移や顧客分類を主に定量的に分解してきました。

では、仮に年間売上金額がNO.1顧客の売上が減少している場合の理由はどんなことが考えられるでしょうか?

自社から購入していた製品を他社で購入するようになったことは一つの理由として候補に挙がるでしょう。

では、なぜ他社から購入するようになったのでしょうか?

他社の価格が下がったことや他社の品質が上がったことなどが理由の候補に挙がるでしょう。

他の理由として、顧客の方針転換によってそもそも、その製品を購入する必要性が減少していることも理由の一つになるでしょう。

内部環境分析によって、売上が増加・減少していることや、もう一段分解した要素は確認できるのですが、その理由は自社の内部環境ではなく外部環境にある場合や、内部と外部の両面から作用しあっている場合が多く、それらを踏まえて分析を進めることで、真因を突き止めることができます。次回では外部環境の分析方法を紹介した上で、その方法を具体的に紹介していきます。

最後に、内部環境分析は顧客分析や製品分析だけではなく、自社の生産能力に関する分析や品質管理に関する分析、在庫管理に関する分析や物流能力に関する分析などがあります。全てを網羅的に分析する方法もありますが、時間やコストは限られていますので、自社の業種特性を踏まえた重要なテーマを選択し、分析を進めることをお勧めします。

今回は以上となります。次回は「3. 外部環境を分析する」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する  ←今回
3. 外部環境を分析する  ←次回

4. 現状分析のまとめ

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 目指す事業ポートフォリオを決める
4. 成長戦略を決める
5. 新規事業・M&A戦略を決める
6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 全社一次要員計画を策定する
9. TOPマネジメントを決定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


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