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広井良典「人口減少社会のデザイン」を通読して:政治に興味ない人こそ読んでほしいかもしれない本

一般常識としてご存知の方が多いかもしれないが、日本政府の債務残高ないし借金は1200兆円を超えている(2022年段階)。これは国内総生産(GDP)の約2倍以上という気が遠くなりそうな額である。

そして、僕が寡聞にして知らないだけかもしれないが、現代の政治家がその点に具体的な対策を打ち出している例を聞いたことがない。乱暴に言うと、手がつけられないから後回しにしようぜ的な感じに見えるよね。
庶民的な感覚で言うと5兆円くらいで手を打てよという話で、ここまでがこの本の前段。

前段

今回、広井良典氏が東洋経済新報社から2019年に出版した「人口減少社会のデザイン」という本をこの度通読した。

内容としては最初に述べた国の借金の未来の世代への先送り、タイトルにもある人口減少に加えて、少子高齢化社会保障医療福祉都市圏と農村部という各地域がそれぞれ抱える問題、と現代で危機的とされている各種問題(コロナ前の書籍なので残念ながらそこには触れていない)を非常に広範囲な視点且つジャンルを超えた様々な学問から引用した論説で、解決のための提言を行う、という現代の政治家が指摘出来ていないことを指摘できているとても面白い本だった。
この本の感想を批評文という形で書き留めてみたいと思う。

評価点

批評文とはいったものの、まず最初にお伝えしたい点として、なんども言うが書籍の内容自体は超面白い
本文では書籍の具体的な内容に関しては触れないが、いくつか評価したい点を羅列したいと思う。

まず、著者の広井良典氏は現在京都大学こころの未来研究センター教授という役職に就いており、東大→厚労省勤務→千葉大学法経学部助教授→同大学教授→並行してMIT客員研究員→現職という凄い経歴である。専攻が公共政策及び哲学なのだが、社会保障・環境・医療・都市/地域に関する政策研究・時間/ケア/死生観などの哲学まで非常に幅広いジャンルで活躍しており、著作も多く残している方である。

タイトルの「人口減少社会のデザイン」というのは、広井氏が日本が現在抱えている諸問題に関する提言を行う際のテーマとなっていて、このテーマを土台として、日本が今後未来に渡って持続していくために前述した各分野の社会問題に関して、経歴が由来するのであろう非常に広い範囲からデータや書籍引用を行って、諸問題の

  1. 論点に関する前提知識を解説

  2. データや書籍から図式や写真などを事実やケーススタディとして提示・引用

  3. それらを踏まえて日本での現状と問題点を指摘

  4. 広井氏の観点から問題解決のための提言

といった論理的な流れかつわかりやすいテキストで構成されているので、むしろあまり政治に興味がない or 知らない若者こそ面白く読めるのではないかと思わせる文章だった。

また、引用元がユニークであり、日本を含めた諸外国の統計データ、書籍、論文、実体験として海外に在住していた時の経験などを始めとして、映画雑誌特集のテーマ江戸時代まで遡った日本文化など、「人口減少社会のデザイン」という難しく包括的なテーマに対して、様々なアプローチを試みている点が非常に印象的且つ、読みやすさを助長しているように思える。

批判点

批判点だが、書籍の内容については少し難しいので、突っ込んだものは言えないのだが、一つ気になった点がある。
内容の批判ではないが、「人口減少社会のデザイン」というタイトル自体が書籍の内容とリンクしていないように思ったのだ。

というのも、「人口減少社会のデザイン」は確かに本書で取り上げられる論点と提言のベースとして非常に重要なキーワードなのだが、

  • 人口減少社会というワードから連想される事柄以外の事例も扱っている

  • デザインというワードが一般的なイメージだとグラフィックよりなのではないかと思える

という2点が引っかかる要因で、「人口減少社会のデザイン」だとどうも抽象的なイメージが拭えないため、これをサブタイトルのような扱いにして、
もう少し人々の注意を引ける & 内容に直接リンクするタイトルにしたほうが良かったのでは?という風に考えてしまった。

また、表紙自体も結構フラットなデザインで、抽象的なタイトルもあいまって、この書籍のターゲット層はどこなのだろうか?という疑問が読んでていて湧いてきた点である。

内容は大学生以上の成人だったら誰が読んでも関係性がある、是非通読をおすすめしたいものなのだが、この本が本屋さんに置いてあって or 電子書籍サイトにあってクリックするかと言うと微妙に手が伸びないのではないかと思える。

ただ、前述の通り広井氏は京都大学教授且つ著作がかなり多いため、あえてネームバリュー推しで、デザインはフラットでという方向性だったのかもしれない。

まとめ

という訳でほぼ内容に触れていない読書感想文になってしまったが、日本人だったら無視できない問題にも積極的な提言をしており、若い世代の人にこそ読んでもらうと政治観が変わる、もしくは形成されるということもあるかもしれない。

僕は初めて広井氏の本を読んだが、また別の作品も追って読んでみたいと思える素敵な本だった。

では。

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