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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」(2017/7/19)/山口周【読書ノート】


かつて、科学の領域で得られる知識は確固としており、その答えは変わることなく皆に等しく与えられていました。しかし、それは一面の真実であり、私たちの探求の結果が常に独自であるとは限りません。その一方、アートの深淵から生まれる独特の物語や世界観は、決して模倣されることのない、唯一無二のものとして存在します。
そして、現代の市場の風潮が変わってきました。私たちは単に物の「機能」を求める時代から、「自己実現的消費」を求める時代へと移行しています。この新たな流れの中で、人々は単に物の使い勝手だけでなく、より高い美意識や、自分自身の価値観や欲求を満たすものを求めています。
しかしながら、この急速に変化する世界のシステムに、現行のルールや法律は必ずしも追いついているわけではありません。法の文字だけを信じ、その範囲内で行動するだけでは、時には倫理的な観点から外れてしまうリスクがあるのです。このような状況において、私たちは「美意識」という一貫した価値基準を持つことが、より重要となってくるのです。

【本文より】
グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込む、
あるいはニューヨークやロンドンの知的専門職が、早朝のギャラリートークに参加するのは、こけおどしの教養を身につけるためではありません。
彼らは極めて功利的な目的で「美意識」を鍛えているのです。
なぜなら、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない、ということをよくわかっているからです。では、そのように考える具体的な理由はなんなのでしょうか?

【小見出し抜粋】
名門美術学校の意外な上顧客
「論理」と「理性」では勝てない時代に
「直感」はいいが「非論理的」はダメ/哲学を鍛えられていた欧州エリート
クックパッド紛争は「アート」と「サイエンス」の戦いだった
アカウンタビリティは「無責任の無限連鎖」
千利休は最初のチーフクリエイティブオフィサー
経営者はなぜデザイナーに相談するのか?
エキスパートは「美意識」に頼る
全てのビジネスはファッションビジネス化する
なぜマッキンゼーはデザイン会社を買収したのか?
システムの変化にルールが追いつかない世界
エリートを犯罪から守るための「美意識」
マインドフルネスと美意識
「偏差値は高いが美意識は低い」という人たち

トップリーダーと「美意識」の関連性

現代のエリート、特にグローバルなスケールで活躍する企業の幹部たちは、最近美術館やアート鑑賞プログラムへの参加を増やしている。これらの「エリート」とは、世界中での複雑な問題解決を目指す人々を指す。彼らには、論理や理性を超えた直感や感性を持つことが求められるようになっている。

従来の「分析」「論理」「理性」だけを基盤とした判断は、現在の社会の複雑性に応じるためには十分ではない。「美意識」、これは単なるデザインやクリエイティブだけを指すものではなく、企業の戦略や価値観、その他の決断基準をも指す。これは、常に数字や論理で説明することが難しい、より微妙な判断をする力を示している。

論理だけでは足りない時代

「論理」と「理性」には、対となる「直感」と「感性」が存在する。日本のビジネス界では、多くの意思決定が「論理」と「理性」を基に行われてきた。しかし、このアプローチの限界が現れている。
単に「論理」「理性」だけを信じることは、他の企業との差別化が難しくなり、競争力を失うリスクが高まる。日本のビジネスの強みはかつての速さや効率性にあったが、今はそれだけでは十分ではない。

「アート」の重要性

経営においては「アート」「サイエンス」「クラフト」の三つが調和していることが理想的である。しかし、現代ビジネスでは「サイエンス」と「クラフト」の部分が過重視されている。
過度な「サイエンス」の追求は、企業の不正行為や問題の原因となり得る。真の経営のビジョンや変革を達成するには、「美意識」、すなわち「直感」や「感性」の力が絶対に必要である。

現在の多くの日本企業には、魅力的なビジョンが欠けている。これを打破するためには、「感性」の力を引き出す必要がある。過度に「論理」や「理性」を重視してきた企業は、新しいバランスを模索する時期に来ているのだ。

巨大な自己実現欲求の市場

  • 現代の消費は自己実現を追求する側面が強くなっている。

  • 例として、アップル製品の価値は使用者の自己実現欲求の充足といえる。

  • 日本の美意識は世界的な競争力がある。

  • 美意識の高さは日本の強みだが、容易に失われる可能性もある。

システムの変化が早すぎる社会

  • 現代社会のシステムの変化のスピードは高まっており、法律が追いついていない。

  • 倫理と法律の間にグレーゾーンが存在する。

  • このような社会での判断基準として美意識が重要。

「邪悪にならない」という企業理念

  • 美意識は法律以上の信頼性を持つ判断基準として考えられる。

  • 例: グーグルの「Don’t be Evil」の企業理念。

  • 企業の常識と他の常識の違いを理解する能力が重要。

どのように美意識を鍛えているのか

  1. 見る力を鍛える

    • アートとサイエンスは相補的な関係にあり、アートの鑑賞は観察眼を鍛える。

    • VTS(Visual Thinking Strategy)は観察眼を鍛える方法の一つ。

  2. 哲学を学ぶ

    • 名門校では哲学が必修であり、それは思考のプロセスや世界への向き合い方を学ぶため。

    • 哲学的態度を持つ人はシステムを疑い、理想的な社会の実現のためにシステムを改変しようとする。


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