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プリズム/貫井徳郎(1999/10/01)【読書ノート】

小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入された箱詰めのチョコレート。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んだ衝撃の問題作。

複合的な視点から展開される推理の駆け引きは、まさに読者を虜にする物語の醍醐味です。章を追うごとに変化する犯人像、それぞれの推理者が辿り着く異なる「真実」がこの物語の核心を成しています。初章では、一人のキャラクターが犯人と断定されますが、物語が進むにつれ、新たな視点が加わり、新たな「犯人」が浮上します。この繰り返しによって、読者は絶えず新しい疑問に直面し、続きを読むことへの好奇心が掻き立てられます。

さらに、この物語は単なる犯人探しにとどまらず、人間の多面性や複雑な心理を巧みに描き出しています。それぞれの推理者が持つ先入観や偏見が、真実を見誤る原因となる場面は、現実世界における人間関係の複雑さを反映しているかのようです。そして、章の終わりごとに訪れる誤解や誤認の連鎖は、物語に緊張感と予測不能な展開をもたらし、読者の興味を一層引きつけます。

特に印象的なのは、物語のクライマックスにおいて明らかになる意外な繋がりと真相の発覚です。これらの展開は、読者に衝撃を与えると同時に、推理小説としてのこの作品の巧みさを改めて実感させるものです。貫井さんの作品が提示する「誰もが犯人になり得る」というテーマは、社会における個々人の複雑さと、表面だけでは人を判断できないという重要なメッセージを投げかけています。

本作品は、単純な謎解きを超えた、人間心理の深淵を探るミステリーとしての魅力を持っています。各章で展開される独自の推理は、読者に多角的な視点から事件を考察する楽しみを提供し、物語の深みを一層増しています。しかしながら、結論が明示されないことで感じられる物足りなさは、この作品が持つ「真実は一つではない」という哲学的な問いかけへの挑戦でもあるのかもしれません。読者一人ひとりが自らの解釈を加え、物語を豊かにしていくことが、このミステリーを読む醍醐味と言えるでしょう。

登場人物

山浦美津子:殺された小学校教諭。ミツコ先生。
小宮山真司:小学校五年生。ミツコ先生はクラス担任。
小宮山茂樹:真司の父親、医師。美津子と不倫関係に。
山名さん:小学校五年生の女子。美人でしっかりしている。
村瀬さん:小学校五年生の女子。おとなしい。
南条:小学校の男性教師。ミツコ先生の同僚。イケメン風?だが卑劣な奴。
桜井:小学校の女性教師。ミツコ先生の同僚。南条は元カレ。
井筒:医師。山浦美津子の元カレ。大学時代、美津子と同じサークル仲間だった。
大峰ゆかり:美津子の友人、美津子のサークル仲間。井筒は今カレ。
佐倉:医師。美津子のサークル仲間。美津子の妹・杏子の交際相手。



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