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伊東のTUKUNE 13.5話 脱色のすゝめ実践編

▼前回

https://note.com/fuuke/n/n8c4f13d0e4d1

▼あらすじ

進学した僕はなんとなく不良になり、恥ずべき人生を送っていた。ある日の帰り道、僕は村上紫という少女に出会う。そしてなぜか紫の兄としてアルバイト面接の同伴者にさせられ、お礼にしゃべるハムスター♀をもらった。彼女は生命を何らかの波動で視認するらしい。

「ところで髪の毛を脱色してらっしゃるなら、その御年で美容室にかかる出費を捻出するのは大変ではないですか」と彼女に尋ねられた。

僕は髪を長髪と短髪のちょうど間ぐらいの長さにしていて、さっき話したように脱色していた。脱色には手間がかかり、たしかに彼女の言う通り専門家に任せたほうが手短に終わるのだろう。だけど僕は変なので自分で脱色していることを伝えた。

「変なのですか」

彼女は僕が自己脱色している動機についてうまく中身が掴めず、不思議に思ったという。だから僕はいわゆる不良とされる者が、わざわざ理髪店や美容室に押しかけて色をつけてもらうなんてちょっと社会的示しがつかないからしない、という旨のことを伝えた。言語化してしまうと、自分はどれだけアホすぎる生き様を晒しているのかが浮き彫りになる。

「ははぁ……不良には不良なりの労苦があるんですね」

我ながらバカみたいな人生を送っている。

僕は彼女に、でもご自分で髪色を変えられるなんてあなたは珍しい人間なんですね、カメレオンの子孫ですかといった趣旨のことを言われたので、そのなんとなく存在していそうな誤解を解く必要がある気がした。

つまり僕が髪色を変えられるのは別に僕が何らかの能力を有しているわけではなく、そのへんで売っている脱色剤を買うだけの話だということを伝えたのだった。彼女はそれでもうまく納得できなかった様子だったので説明を加える必要があると思った。

さっきみたいに、百円で何でも変えるような店の同種に薬品の系統ばかり売っている店(もちろんドラッグ・ストアのことだ)があることを彼女は知らなかった。百円ですべて買えるとは限らないが、脱色剤が売っている。脱色剤も薬剤に含まれるだろう。大抵はブリーチがどうたらという名称で売っている。メガブリーチ。

あらゆる薬剤とはドラッグ・ストアに集まって然るべきなのだろう。おそらく主力商品である化粧だって薬剤の塊だ(わざわざコーナーが造られ、会計が別に設置され、通常より圧倒的な数・質の照明が設置され、遅い時間になるとわざわざ同じ店内にも関わらず閉鎖されるような場所に置かれた商品が主力でなくてなんだろう?)。

ドラッグ・ストアは薬剤の専門店の割に結構どこにでも点在し、庶民でも手が出る値段でかなり何でも売っている旨を伝えた。すると彼女は驚きを見せたが、ハムスターが薬局に行く用があるとも思えないのでいまの今までそれを彼女が知らなかったのだとしても無理からぬことだろう。

ブリーチには男向けと女向けがあり、どのような性別だろうと女用を買う。理由は値段の安さにある。

当時の僕は短髪でもない長さであり、仮に短髪だったとしても毛量がそれなりにあるんだけどブリーチ剤の全量を投与すると逆に危険だった。量が過剰すぎてこぼれ落ちるから。

ブリーチに使われうる材料として液体、粘土体、粉があるとする。それぞれA(液体)、B(粘土)、C(粉)とする。

僕の経験からすると、Aは溶媒に過ぎなく極端に言えば水でも代用できるんじゃないかという体感がある。もちろんメーカーはそんなこと絶対に推奨しない。環境によってはABCいずれかとよろしくない化学反応を起こし、発生した気体なりなんなりが即座に人体に影響を及ぼす可能性があるから。単純にそれが怖いから、僕だってやったことはない。

ブリーチ剤を造る時、まず付属の透明手袋をはめなければならない。上にあげたAはそんなに薬害がなさそうに見えるが、B<Cという順番的イメージで凶悪さが増す。

僕が脱色し始めた幼少の頃は、あるいは人に手伝ってもらったこともあったが―――先にAとBを混ぜて、ここでヤバそうな香りが漂っていた。

そしてCを混ぜるのだが、Cからは凶悪な香りがし、開封した途端に目が刺激物特有の「はじけ」みたいなものを食らった感じになっていた。粉である特性上、即座にエアロゾルと同化し、周囲の生き物の粘膜に貼り付くのだろう。脱色初心者の頃の僕はよく失明せずに済んだと思う。

最近のブリーチ剤は――別に僕は頻繁に脱色せず、脱色した部分と新たに生えてきた髪が次第に混ざり合い、いつしか明るい色から自然に茶色になっていく感覚をすら楽しめていたので、そう頻繁にブリーチを購買することはなかった。だから「最近の」みたいな批評をするには圧倒的に知識と使用経験が足りていない。つまりその都度使ったごとにおける体感だ―――AとBを混ぜた後にある粘着性のある物体に粉であるCを混ぜないようになった。

つまりAに対して先にCを溶かしてやる。この変化にはどのような意味があるんだろう?Cをより溶媒に溶かしやすくするという面においては特化したようにも思える。A+Bの冷えたマグマのような物体に今までCを溶かしていたけど、そちらよりは溶けやすいイメージが抱ける。

僕の中でAよりもBよりもCが刺激物として厄介、つまり薬剤の種としてより危険物だと認識している。僕だって当然、慣れた当時でさえも説明書に従い、ABC各種を開封する瞬間から透明手袋を絶対に使うようにしていた。

さてAとCを溶かし(溶かす、と言っても別にコーヒーみたいな棒が付属されているわけではない。頑丈な蓋を締めて80回=30秒振ってやる行為を「溶かす」という。これはACの場合も、ACにBを混ぜて薬剤を完成させるときでも同じだ)、Bを混ぜるんだけど彼女はいかにも眠そうだった。

「刺激物であるというCに俄然興味が沸いてきました。わたくしの胃袋と戦わせたいですね」

僕の説明に飽きたのか、物騒なことを言っていた。

▼次回

▼謝辞

(ヘッダ画像をお借りしています。)


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