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【朗読】風と球体

文月悠光
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きみとひとつになれなかった、
わたしを壊されそうで。

互いの傷あとを包み合って
そとへ 手放せたなら
砕けてもいい。
わたしは軽くなる。

 *

割れない泡のようなこころ たずさえて
ふくらむのにまかせていたら
いつしか重くなっていた。
ふるえる輪郭は、鼓動のあかし。
潰さないで 潰れないで、と
願いつづけて今を見る。
行き先はまだわからない。
それでも恐れず
青い風にのりたい。

つめたい鏡の記憶を持てあます。
痛みを捨てられなくて抱えこむ。
きみとひとつになれなかった、
わたしを壊されそうで。
「さよなら」を口にする勇気もない。
だから、ひとりでに吹く
風のなかへ ぬくもりを求めにゆく。

転げ落ちたときの痛みは忘れない。
痛みを愛しい杖にかえて生きてゆく。
互いの傷あとを包み合って
そとへ 手放せたなら
砕けてもいい。
わたしは軽くなる。
それでも消えることのない、
己のかたちを守るから。
いつか 巡りあうとき
わたしと気づいてもらえるように。

詩「風と球体」文月悠光


*「婦人之友」2021年3月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍
写真:岩倉しおりさん

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