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エッセイ、100。

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100本、エッセイ書いてみる。
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記事一覧

【10/100】さらば、乳歯よ

【10/100】さらば、乳歯よ

30歳、乳歯を全て抜き終えた。

記憶の箱を開けると、どうやら歯が抜けにくい子どもだったようだ。自然に抜けるよりも先に歯医者でゴリゴリ抜かれた。診察台から逃げないよう、ネットでぐるぐる巻きにされ、抜歯。もはやトラウマな絵面である。

その歯医者がトラウマになったのか、気がつくと別の歯医者に通い始めていた。新しい先生は自然に任せるタイプだった。自然に抜けるのを待った結果、成人しても乳歯が4本も残って

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【9/100】濁りの中で踊る言葉

【9/100】濁りの中で踊る言葉

心が濁っている。

どろりという言葉がぴったりの濁りっぷりだ。原因はわかってる。心を休ませることなく、次から次へと予定を入れすぎたのだ。自業自得。さらには妙に湿度が高い日が続いたことで、体力もゴリっと削られた。端的に言えば、わたしは疲れている。それだけなのに、いやだからこそ、思考がぐるぐるとした。

「誰かに話を聞いてほしい」と心が叫ぶ。
「誰に?何を聞いてほしいの?」と脳が問いかける。

わたし

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【8/100】残らない餞別を

【8/100】残らない餞別を

この春は、誰かを見送るばかりだ。

この街を離れ、新しい街へ。
どうか元気で、体に気をつけて。
そんな気持ちを込めて餞別を選ぶ。

残るものではなく、残らないものにした。
お茶に、お菓子に、お花、そしてフィルム。
さささっと使いきって欲しい。
そのうちにもらったことも忘れてほしい。
それくらい新しい街での暮らしが楽しいものになりますように。

この2つのエッセイに登場している彼女もまた新しい街へと

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【7/100】かぼちゃプリン讃歌

【7/100】かぼちゃプリン讃歌

料理ができる人は、
人を幸せにする力を持ってると思う。

(こちらの続き)

相変わらずぎこちなく名前を呼び捨てる。
呼んでみて、心の中で照れるまでがワンセット。
そんな不思議な関係性を築いている。

ひょんなことからプリンの話になった。
ドラマで見たプリンが脳裏をよぎる。
かぼちゃを丸ごと使ったプリン。
いつかこんなプリンを食べてみたい。
そんな話をすると「作れるかも」と返ってきた。
思わず目を

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【6/100】呼び捨て讃歌

【6/100】呼び捨て讃歌

人を呼ぶとき、
だいたい「さん」付けで呼ぶ。
時々「ちゃん」も付ける。
呼び捨てにすることは滅多にない。
人を呼び捨てにするのが得意ではないのだ。

最近知り合った子と名前の呼び方の話をする。
彼女は「呼び捨てがいい」と言うので、
言われた通りに名前を呼ぶ。
呼んでみると不思議とドキドキして、
「思春期か!」と思わずセルフツッコミを入れた。
その気持ちを素直に彼女に伝えると、
「お!って思いました

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【5/100】孤独に浸るーのきしたおふるまいの話ー

【5/100】孤独に浸るーのきしたおふるまいの話ー

犀の角は、安心して孤独になれる場所だと思う。

冬休み最後の日、のしきたおふるまいに出かけた。たくさんの人々が忙しなく、あるいはゆったりと、談笑したり、ご飯を食べている。知り合いに「こんにちは」と挨拶し、しれっとすみっこに座る。

無理に輪の中に入らなくても良いという安心感。ほどよく放っておいてもらえるので、無愛想に雑煮をすすった。エネルギー量が少ないので、時々、無愛想という名の省エネモードを発動

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【4/100】断捨離パーティーをしました。

【4/100】断捨離パーティーをしました。

連休最終日、片付けという名の断捨離パーティーを開催。Pharrell Williamsの「Happy」をBGMにしながらしゃにむに手を動かしました。

なんて呟きながら、自分を鼓舞した。ちなみに「売れるかも」マインドは捨てられませんでした。メルカリ見ちゃったよ。修行不足。

断捨離を通してわかったことは、わたしは定期的に日記を始めては辞め、新しい日記を買っては途中で辞めるを繰り返してる人間だという

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【3/100】新しい靴と散歩

【3/100】新しい靴と散歩

パートナーが突然「高くて良い靴を買おう!」と言い出した。意図が読めず、考えに考えた末、「お揃いの?」と聞いてみたが違った。曰く「高い靴は1日履いてても疲れない」ということに気付いたらしく提案したという。特に新しい靴が欲しいとも思っていなかったが、そこまで言うのならとちょっと高くて良さそうな靴を買ってみた。

わたしは今、感動している。新しい靴にしてしばらく経った。パートナーの言う通り、全然疲れない

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【2/100】書きたい、書きたくない。

なんとなしに、100本エッセイ書いてみようと思ったものの、書けずにいる。正確には書いてはいるものの、人様に読ませたくないようなトラウマの話ばかり筆が進む。noteの下書きには、ヘドロのような感情の塊が溜まり続けている。書いてみたいことと、書けることの乖離がすごい。

右目でこの世界の美しさを、左目で残酷さを捉えているような感覚がわたしの中にある。美しく愛おしく感じたものを書き留めたいと思うのに、悲

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【1/100】あの宇宙兄弟は、

【1/100】あの宇宙兄弟は、

ふいに、あの宇宙兄弟を思い出した。ただの宇宙兄弟ではない。「あの」宇宙兄弟だ。

初めてのアルバイト先は、本も取り扱ってるレンタル店。そこで出会った漫画好きの先輩が「おもしろいよ」と貸してくれたのが、小山宙哉先生の『宇宙兄弟』だった。読み終えるやいなや、当時の最新刊まで大人買いした。もちろん、バイト先で。にやにやしながらレジ打ちしてくれた先輩の顔を思い出す。

しばらくして、母が入院した。乳がん、

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