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そもそも "シンクタンク" って何?ー課題解決の非営利シンクタンク

言論NPOのプロフィールを見て「非営利シンクタンクってあるけど、どんな組織なんだろう?」と思った方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、何かとイメージがつきにくい “シンクタンク” について、私がインターンとして言論NPOに関わる中で感じたことも交えながら、掘り下げていきたいと思います。



1. シンクタンクはthinkする?

"シンクタンク"と検索すると、一般的に下記のような説明が出てきます。

シンクタンクとは政治や経済、軍事、技術、文化など様々なテーマに関する研究や政策提言を主に行う研究機関である

また、シンクタンク (think tank) を直訳すると「頭脳集団」と表されることからも、専門的な知識を集結させて、

今起きている現象をどう分析するのか困難な課題にどう対応すべきか将来予想される影響は何なのか

などといった見識を社会に提供する組織であることがイメージできるかもしれません。

実際、シンクタンクに就職したいと考えていた私は、当初そのようなイメージを抱いていました。

そして言論NPOのホームページでインターンを募集していることを知り、「面白そう!」と思ったんです。

ですが、憧れのシンクタンクでインターンができるかもしれない、と張り切って臨んだ面接で工藤代表に言われたのは、

日本と世界のシンクタンクは全く違う」という強い言葉でした。

世界のシンクタンクは、政府や特定の企業から独立した立場から課題解決をしているが、日本にはそんな仕組みはない、と。

初めはその言葉の背景についてなかなか掴めずにいました。

"独立" や "非営利"であることが何を意味するのだろう?
非営利シンクタンクはどのようなアプローチで課題解決を行うのだろう?

そんな疑問がありましたが、インターンとして言論NPOに飛び込んでから目にしたのは、多様なネットワークを築き、世界や日本の課題に当事者として挑んでいく光景。

今まで抱いていたシンクタンクに対するイメージをことごとく覆されました。

2. 社会課題に「挑む」非営利シンクタンク

日本でよく知られているシンクタンクといえば、金融機関や商社のグループ会社であることがほとんど。

クライアントとなる企業や自治体などから委託を受けて調査研究を行い、その成果物が利益となります。

このような営利シンクタンクが日本には多い一方で、海外では非営利団体のシンクタンクが主流です。

というのも、「社会の課題を解決するために、知識層が役割を果たせないか」と立ち上がったのが欧米のシンクタンクの起源で、現在もその多くが、政府や特定の企業から独立し、非営利で活動しているのです。

言論NPOもその一つ。

当時、東洋経済新報社に勤めていた工藤代表は、既存メディアの報道が社会課題に本格的に取り組まずに

"どうしたら売れるのか" を追い求め、真面目な言論が形骸化していることに危機感を覚えていたそうです。

そして、

"市民が政治や将来について自己決定できるような適切な判断材料を提供する、質の高い、かつ参加型の言論の場を非営利でつくりたい"

という強い思いのもと、その意思を共有する幅広い知識層と共に言論NPOを立ち上げました。

このように、独立・非営利の立場から市民とともに課題に向き合うという新しいサイクルを日本で起こそうとする言論NPOは、徐々にグローバルな繋がりを広げていきました。

2023年「東京会議」での一コマ


一通の手紙… 


2012年、一通の手紙が言論NPOに届きました。

世界を代表するアメリカのシンクタンク、外交問題評議会の会長 リチャードハース氏からの手紙でした。

国際社会の課題に挑むシンクタンクの「G20」会議と呼ばれるCouncil of Councilsの創設メンバーとして、日本を代表して選ばれたのです。

リチャードハース氏(左)との写真。
Council of Councilsの創設メンバーへの招待状が届いた。


以来10年以上、日本のシンクタンクの代表としてグローバル・ガバナンスや世界の課題解決の議論に関わっています。

現在のCouncil of Council (CoC) のメンバー。
言論NPOは、日本のシンクタンクの代表として参加しています。


規模が大きく、有名なシンクタンクがいくつも存在する中で、なぜ日本の代表として言論NPOが選ばれたのでしょうか。

それは、国際的なシンクタンクと同じように、非営利で独立した立場から社会の課題に「立ち向かう」言論NPOの姿勢が、多くのグローバルパートナーに届いたのです。

2013年の東京-北京フォーラムで「不戦の誓い」を中国と合意した際の写真

シンクタンクに就職したいと考えていた私ですが、当時は、シンクタンクの課題について “思考をする(think)タンク” という側面しか見えていませんでした。

分析や研究はあくまでも課題解決の手段にすぎず、「社会の課題を解決するために市民として何ができるのか」を常に問い続けながら実際にアクションを起こす。

そんな “do-tank” とも呼べるような言論NPOの存在には目から鱗でした。

下では、私が実際に言論NPOに参加してから経験した、印象的なエピソードをいくつか紹介したいと思います!

3. 当事者として社会課題に向き合うということ


とある広報戦略の打ち合わせで、どのような投げかけでウクライナ戦争についての投稿を作成するのか話し合っていたときのこと。

"ウクライナ戦争はいつ終わるの?" はどうか。そんな案が出されました。

多くの人が抱きそうなそんな問いかけに、私は特に違和感を感じずにいました。

しかし、これに対して工藤代表は「そんな他人事のような投げかけはあり得ない」と強い口調で切り込みました。

「もし、あなたの目の前で子供が暴力団に殴られているとして、そんな状況の中で、『これいつ終わるんだろう?』と呑気に考えるのだろうか。

そうではなくて、『なんとかして止めないと』と思うんじゃないか。

世界の課題もそう考えなくてはいけない。社会で起こっている現象を自分のこととして考えるためのメッセージを投げかけないといけない。」と。


近頃インターネットに溢れる、他人事の空気。

多くの人が評論家のようになって政府や企業を批判したり、あるいは "自分には関係ない"、"どうしようもない"、と誰かに日本や世界の将来を依存していたり。


そんなネット空間に一矢を投じるメッセージは、どのように投げかけられるのか。


見た人の心に、「勇気を出して行動してみたら、自分も何かを変えられるかもしれない」と火を灯すコンテンツはどう生み出せるのか。


そのために一切妥協しない工藤代表の姿からは、非営利シンクタンクである言論NPOのプラットフォームを単なる「学び」の場にするのではなく、

一緒に課題解決に「挑む」場 にするという強い決意を感じました。


”なんとしてでも平和を取り戻さないといけない”

そんなふうに社会の課題に当事者としてぶつかる言論NPOは、実際の議論の現場でも、課題解決の意思を持つ世界中の人々を繋いでいます。

そこで、下記では世界のシンクタンクが東京に集結し議論する「東京会議」を紹介したいと思います!

4. 世界のシンクタンクが議論し、提案する「東京会議」


"市民が強くなれば、社会を変えることができる"

そのように考えていた言論NPOは、専門家同士で閉ざされた議論を行うのではなく、市民とともに 課題に向き合う議論展開を大切にしてきました。


そんな取り組みに世界から関心が集まり、国際社会の課題をオープンな形で議論するプラットフォームを東京に作ろうと、各国のシンクタンクから声が上がりました。

そして誕生したのが「東京会議」。

世界で強い影響力を持つ10ヵ国のシンクタンク代表者が東京に集まってグローバルな課題について議論を交わし、

会議内での主張や意見をG7議長国に提案するという、日本初の国際会議です。

2017年、国際秩序が不安定化する中で国際協調と多国間協力を推し進めようと、言論NPOが立ち上げました。

2023年の「東京会議」ではどのような議論が行われた?


「東京会議」2日目のセッションでは、ウクライナ戦争が長期化する中、世界の平和秩序をどう修復するのか、10カ国のシンクタンクの代表者によって議論が行われました。

「東京会議2023」公開会議


各国の登壇者は、戦争の状況の解説や様々な分析をし、その上で「今は停戦を持ち出すタイミングではない」と多くが口を揃えました。


そんな中、工藤代表は「国連総会の決議で、日本と中国とドイツの3カ国でPKOを出す」という提案を持ちかけました。

  • 1956年のスエズ動乱の際に、国連総会の決定で国連軍をエジブトに派遣したこと

  • 1992年のカンボジアPKOに日本の自衛隊と中国、ドイツの軍が参加したこと

  • 言論NPOが行なった中国での世論調査で明らかとなった、中国国民が抱く”平和をつくる意思”

に触れながら、「平和秩序をどう修復できるのか」についての具体的な提案を、工藤代表は持ち出したのです。

何かの形で環境をつくれるとしたら、歴史的な大きな変化をつくれるかもしれない


多くの登壇者が「停戦交渉は時期尚早」「国連は機能不全」と、平和秩序の再構築についての議論をやめている状況に切り込む、

この具体的な提案は、会場の雰囲気をガラッと変えました。


「今起きている現象を解釈するだけでは足りない。それに対して我々は何ができるのか。課題解決の意識を持つ議論をし、提案をする。そうじゃないと世界は動かない。


工藤代表のそんな真っ直ぐな発言は、会場にいた一人一人の心に突き刺さりました。


そして、東京会議2023の議論を踏まえて、10カ国のシンクタンクなどの参加者でまとめた共同宣言文は、今年のG7議長の岸田首相に手渡されました。

その宣言文の中には、

一刻も早く和平交渉に持ち込むためには、より多くの国が力を合わせなくてはいけない。その目的の達成のためにも、G7各国は関係国との対話を急ぐべきである。

と、中国を念頭にした文章が入れられました。

そして、5月に行われた広島サミットでのG7首脳声明では、中国との対話を求める姿勢が打ち出され、

言論NPOの民間レベルでの取り組みは政府間外交の環境づくりに貢献しました。

つまり、シンクタンクというのは専門家が高度な社会分析を行う研究機関であることにとどまらず、

それらの英知を集結させて世界や国内の課題を解決するために、当事者として解決策を模索し続ける組織、なのです。


自らの利益を超え、課題解決の意思でつながる市民とともに縦横無尽に動き回る姿こそ、

“非営利シンクタンク” の魅力なのだと、インターンとして関わる中で見えてきました。


私は、元々シンクタンク業界に興味があったにも関わらず、そのような課題に対する姿勢を全く理解できていなかったなぁと日々痛感しています。


5.まとめ

いかがだったでしょうか?

インテリな人たちがいろんな分析や研究を行なっている、といった堅く冷静なイメージから、

「どうしたら社会の課題を解決できるのか」と強い情熱を持って取り組む、シンクタンクの違った側面が伝わっていたら嬉しいです。


また、東京会議のエピソードの中で少し触れましたが、言論NPOは日本や世界での世論調査を行なっています。


今後の記事では、その「戦う世論調査」についても紹介しようと考えています。

そこでも、一般的なシンクタンクのイメージとは異なる、課題解決に向けた取り組みについてお伝えできたら幸いです。


最後までお読みいただきありがとうございました!
次の記事でまたお会いできるのを楽しみにしています!


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