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短編小説アナザーワールド

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約1万文字の短編小説です。曖昧な関係性の向う側にある、もう一つの並行世界。
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短編小説 アナザーワールド 後編

短編小説 アナザーワールド 後編

 翌日は雨だったので、バスで学校に行った。その日の夕方、部活が終わったあと遊佐と一緒にバスに乗った。バスを降りると彼は突然私に話しかけてきた。

「なんか、低い音が聞こえない?」遊佐は右手で耳を抑え、辺りを見回していた。
「え?」私は耳を澄ませたが、静かな雨音しか聞こえなかった。
「何も聞こえないよ。何が聞こえるの?」
「最近、地鳴りみたいな低い音が時々聞こえるんだ。なんだろうな。耳鳴りなのかな」

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短編小説 アナザーワールド 中編

短編小説 アナザーワールド 中編

 翌日も19時頃遊佐の家に行った。
 遊佐の家には縁側があるので、そこで話をすることになった。虫の鳴き声がうるさくて、離れているとお互いの声がよく聞き取れなかった。彼は何も言わずに私のすぐ隣に腰掛けた。その仕草はとても自然だった。

「おばさんはまだ仕事から帰ってこないの?」
「今日も遅くなるってさ。彼氏でも出来たんじゃない?」
「おばさんに?本当?」私は驚いて大きな声を出していた。
「わからない

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短編小説 アナザーワールド 前編

短編小説 アナザーワールド 前編

 19☓☓年、私は高校二年生になった。自宅から自転車で三十分ほどの距離にある私立高校に入学して、あっという間に月日がたってしまった。たいして活動をしていない吹奏楽部に所属し、放課後は適当にアルトサックスを練習した。

 10月下旬の晴れた日、私は吹奏楽部の朝練に参加するために朝早くに学校へ向かった。駐輪場に自転車を置いて校舎に向かっていたところ、音楽室からトランペットの音が聞こえた。すぐにわかった

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