小説ハイスクール物語 1 僕が卒業した高校の伝統の緑色のカレーと生姜焼きカレー

1978年、僕は高校生になった。地元の高校で
男子高だった。
僕が入学した高校では、1年生は先輩方に1年坊と呼ばれていた。1年坊主の略だ。
入学して最初の土曜日に、各出身中学ごとに、新入生歓迎会が行われた。僕が入学した高校の伝統行事だった。

1年生の僕たちから見ると、先輩方、特に3年生は大人の男に見え怖かった。先輩方に逆らうことは許されなかった。

学校の校門に集合すると、僕たちはまず、すぐ近くにある女子校に連れて行かれた。
女子校の正門まで来ると先輩が、

「今、この女子校にいる好きな女の子の名前を大声で叫び、その後、愛してま〜す。と大声で叫べ。
この女子校にいない女の子の名前を叫んだ者は、先輩方から制裁を受けるものとする。また、声が小さい場合は俺たちが認めるまで何回もやり直しをさせる。分かったな!」

毎年恒例の行事だったので、女子校の女の子たちも知っていて、僕たちが到着すると正門近くに集まって来た。窓から見ている女の子たちも大勢いた。
皆、自分の名前が呼ばれるかもしれない、誰の名前が呼ばれるだろうと、興味津々で見ていた。

皆、顔を真っ赤にして叫んだ。声が小さいと本当に何回もやり直しをさせられた。
僕は前日に違う女子高に通う中学の同級生の女の子に、この高校に通うその子のお姉さんの名前を叫ぶ許可を取っていたので、その子のお姉さんの名前叫んだ。

「3年生の藤島由紀恵さん、愛してま〜す。」
「鈴原、合格! だがお前、ちょっとこっち来い!」

後で知ったことなのだが、僕の中学の同級生のお姉さんはその高校1の美人で、先輩方のマドンナ的存在だったのだ。

「鈴原、どうしてお前、藤島由紀恵を知ってるんだ?」
「はい、僕の中学の同級生の女の子のお姉さんだからです!」
「1年坊のくせに生意気だ! 腕立て50回!」
「はい!」

僕は女子校の正門の前で腕立て伏せを50回やった

この恒例の愛してますの後、僕たちは駅に行き
改札口のところに並び、仕事帰りの人たちが電車から降り、改札口から出て来るたびに全員で、
「1日のお勤め、ご苦労様でしたー!」
と言って、ひとりひとりに頭を下げた。

その後、約5kmをランニングし、新入生歓迎会の会場に着いた。会場は公民館だった。
僕たちはひとりひとり小部屋に呼ばれ、3年生の先輩方から説教された。
2年生の先輩方は厨房でカレーを作っていた。

僕たち全員、食堂に行き座らされた。
すると2年生の先輩方が、小さめのお皿に盛った
緑色のカレーを置いて行った。そして、氷の入った大きなグラスに水を注いで行った。
その緑色のカレーは異臭を放っていた。
この時のカレーは今でもよく覚えている。
具は、煮干し、ゴボウ、納豆、コンニャク、人参、
蓮根、長ネギ、らっきょうで、そして食紅で緑色にしてあった。

3年生の先輩が、
「先輩が作ったカレーだ!有り難く食べろー!」
と言った。
僕たちは、
「先輩、頂きます!」
と言って食べ始めた。

一口食べると涙が出るくらい不味かった。
だが、先輩方が腕を組んで怖い顔をして僕たちを見ていたので、食べないわけにはいかなかった。
僕は氷の入った水を飲みながら、目をつぶって食べた。最後の一口を水と一緒に飲み込み、
「先輩、ご馳走様でした。」
と言った。
すると、先輩が普通のカレーを持って来て僕の目の前に置き、
「これでお前も俺たちの仲間だ!」
と言った。

全員が食べ終わると、
「全員、よく我等が伝統の緑色のカレーを食べた。
今年も全員、無事、我が校の仲間になった。
次は、我が校自慢の伝統の生姜焼きカレーだ、
今度のは旨いぞー!
飯の上に豚肉の生姜焼きをのせ、カレーをかけた物だ。何杯おかわりしてもいいぞー! 全員、好きなだけ食べろー!」
「先輩、頂きまーす!」

生姜焼きカレー、美味しいと思った。
僕も皆も夢中になって食べた。
食べていると先輩が来て、
「ほら、ジュースを飲め、口の中が不味いだろ。」
「腹減ってるだろ、遠慮なくおかわりしろ。」
怖い先輩方が、いつの間にか、みんな優しい、いい兄貴たちに変わっていた。
最後に皆でスクラムを組み校歌を歌った。
僕は、この高校に入学して良かったと思った。















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