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『ガタカ』は私たちの未来なのだろうか

現在Netflixで、私の大好きな『ガタカ(原題:GATTACA)』(1997)が配信されています!
ということで・・・時には『ガタカ』の話をしようか〜♪
(※大まかではありますが物語の内容に触れているので、何も知らずに観たい方にはオススメしません!)

1. 『ガタカ』との出会い

私は、大学生になったばかりの2017年の夏に、この作品と出会いました。きっかけは、従兄弟の映画好きな幼なじみにオススメされたから。

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『ガタカ』を私に薦めてくれたその人は、ただ「これを観ると、何だか元気が出る」とだけ言っていました。そのシンプルな言葉にドキドキワクワクして、登録したばかりのamazon prime(※現在配信されているのはNetflix)で『ガタカ』を観たのです。

すると・・・本当に元気が出ました。

静かに、でも確かに、この映画はある勇気を私に与えてくれました。

それに加え、前の記事でも触れたけど、映画の美術や建築物の美しさに衝撃を受けたのは『ガタカ』が初めてでした。

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色んな意味で、私が映画を好きになるきっかけとなった作品です。
ちなみに、大学で倫理学(特に生命倫理)を学ぶことにしたのも、この映画が1つの理由です。

2. 『ガタカ』を観ると、なぜ元気になるのか

では、なぜ『ガタカ』を観て元気が出たのでしょうか。

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宇宙局ガタカでの出勤シーン。このゲートで指から血を採られ、「適正者」と判断されれば通過できます。「不適正者」の場合には、ブザーが鳴ります。(というか、出勤の度にプスプス刺されるの嫌だな笑)

『ガタカ』で描かれる世界は、"the not-too distant future"、「そう遠くない未来」です。この未来では、遺伝子操作をした子どもをつくることが「自然」な行為とされています。そんな世界で、主人公であるビンセント(イーサン・ホーク)は遺伝子操作を受けないまま生まれてきます。

産声をあげたその瞬間に、看護師が告げるのは、ビンセントが罹患する可能性が高い病名の数々、そして心臓の障害により長くて30年しか生きられない、という彼の遺伝子が告げる冷酷な事実です。

『ガタカ』の世界では、遺伝子が全てなのです。

生まれも、肌の色も、社会的地位も関係ない。遺伝子さえ良ければ、その人は「優れている」のです。遺伝子の優劣による差別は"Genoism"と呼ばれ、表向きには禁止されるものの、ビンセントのように「劣った」遺伝子の持ち主に明るい将来はありません。

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宇宙局ガタカで清掃員として働いていたビンセント。
毎日打ち上げられる宇宙船の近くにいるほど、自分がそれに乗ることができない現実を突きつけられていた。
"My real résumé was in my cells" 
僕の本当の履歴書は、自分自身の細胞に刻まれていた。
"We now have discrimination down to a science"
今や差別は科学の域に達している。

どれほど努力しようと、自らの身体を形づくる細胞を、流れる血を、遺伝子を変えることはできません。

差別は、科学の領域になってしまったのです。

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ですが、ビンセントには「宇宙に行く」という夢がありました。
もちろん、宇宙へ行くことができるのは優れた遺伝子を持つ一部のエリートだけ。誰もが「できるはずがない」「無駄な夢は見るな」と、ビンセントに言います。

それでも、ビンセントは夢を実現しました。宇宙局ガタカに入り、見事土星の衛星の1つ、タイタンへのミッションに参加が決まったのです。

覆すことのできない真実とされていた遺伝子を、彼の意志が裏切りました。そして、それは彼の意志に希望を託した人々の意志でもありました。

血の滲むような努力を続け、後ろは振り向かず、ただ夢だけを必死に追いかけて、彼は宇宙へと旅立っていきます。


そんなビンセントを見て私は、「自分だけが自分にできること、できないことを決められるのだ」という勇気をもらったのです。

ビンセントは、自分の正体を知った同僚のアイリーン(ウマ・サーマン)に言います。

"You are the authority on what is not possible. They have got you looking so hard for any flaw that after a while, that's all that you see"
君だけが、君にできないことを決められるんだ。欠点ばかりを探すことに必死で、君にはそれしか見えなくなっている。

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アイリーンはもちろん、宇宙局ガタカで働くエリートにふさわしい遺伝子の持ち主ですが、ビンセントと同じように心臓の持病を抱え、宇宙船に乗ることは許されていません。

そんなアイリーンにビンセントが言ったこの言葉は、いつ聞いても私に元気と、そして深い勇気を与えてくれるのです。

3. 『ガタカ』は私たちの未来なのだろうか

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イーサン・ホークとジュード・ロウ、最高。
ちなみにジュローム・モロー役は、当初ジョニー・デップにオファーが来ていましたが、他作品への出演のために辞退したそうです。

「そう遠くない未来」を描いた『ガタカ』。

この映画にはもう1人のキーパーソンが出てきます。
ジュード・ロウ演じる、ジュローム・モローです。(※なぜキーパーソンであるかは、映画を見て確認してみてください)

ジュロームはビンセントとは対照的に、非の打ちどころのない最上級の遺伝子の持ち主です。ちなみに彼のミドルネームは、ユージーン(eugene:良い遺伝子)です。

彼は水泳選手でした。
金メダルを獲るために生まれたと、そう彼も自覚していました。

"I was still second best"
それでも俺は2位だった。

しかし、ジュロームは2位どまりでした。

生まれ落ちたその瞬間より「劣っている」と烙印を押されながら、
宇宙への夢を実現したビンセント。

生まれながらに「優れている」と誰からも認められながら、
金メダルには届かずに夢を諦めたジュローム。

2人の生き様が、遺伝子ではない、自分だけが自分自身のauthority、支配者であるということを、私たちに教えてくれます。

だからこそ私は、これは私たちの未来ではないのだと言いたいです。
この作品と出会ったからには、生まれながらにその人の全てを決定づけてしまうような基準を生み出さない社会にしたいと、そう思います。

4. 私たちの生きる世界の問題について

『ガタカ』は「もしも」の世界の話ですが、現在の私たちが生きる世界でも既に様々な問題が起きています。

2018年の秋、中国で遺伝情報をゲノム編集技術により改変した受精卵から、子が誕生したというニュースが世界をざわつかせました。

エイズウイルスにかかっていた父のウイルスを、子に伝えないようにするため、遺伝子に手を加えたというのです。この発表をした研究者は世界中から非難を受け、後に懲役3年の実刑判決を言い渡されました。

この騒動を受けて日本でも、ゲノム編集技術に関する具体的な法規制のあり方が検討され始めています。

実際、ゲノム編集技術は私たちの想像している以上に容易に扱うことができるようになったと言われています。

・・・2012年に第3世代の改良型ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス9)」が登場すると、状況が一変した。狙った配列を簡単に、しかも安く切りはりできるようになり、世界各国の大学や研究機関、企業へと一気に普及した。
(上東麻子・千葉紀和(2020), 『ルポ「命の選別」誰が弱者を切り捨てるのか?』第4章 構図重なる先端技術 ゲノム編集の遺伝子改変どこまで,
文藝春秋)

だからこそ、私たちがどのような態度・姿勢を持って、この技術と向き合ってゆくのかを考えることが、重要ではないでしょうか。


また、2013年から日本での実施が開始されている新型出生前診断(NIPT)も私たちにある「現実」を突きつけています。

NIPTとは、妊娠中に母体の血液を検査して、胎児の染色体異常を調べる検査のことです。従来の出生前診断よりも母体にかかる負担が軽く、精度の高い検査をできるため、更なる普及が見込まれています。

本来、NIPTは事前に胎児の疾患を知り、出産までに治療計画を立てたり、家族の心の準備を可能にするための検査だとされていました。

しかし、実際には「中絶をするのか判断するための検査」と言われても仕方のない現状があります。

開始から2019年3月までに7万2526件を実施し、「陽性」は1.8%に当たる1299件。確定検査をしたのが1092件、本当に陽性だったのは984件(陽性的中率90.1%)で「偽陽性」が10%近くあった。「偽陰性」4例出たことも明らかにした。
妊娠を続けたのはわずか15例にとどまり、陽性が確定した人の中絶率は9割を超えていた。
(上東麻子・千葉紀和(2020), 『ルポ「命の選別」誰が弱者を切り捨てるのか?』第1章 妊婦相手「不安ビジネス」の正体 新型出生前診断拡大の裏側, 文藝春秋)

NIPTで陽性が確定した人の9割が中絶を選んだ、その背景には様々な理由があると考えられます。しかし「障害と共に生きる人にとって、今の社会が優しいのだろうか、生きやすいのだろうか」ということを考え、中絶を選んだ人も少なからずいるではないでしょうか。


「もしも自分がこの立場ならば」と考えると、本当に答えを出すのが難しいトピックです。それでも私は、ビンセントのようにどんな困難を抱えて生まれてきたとしても、自分の夢を持ち、それを追いかけることを支えられる世界を守りたいと強く思います。

長くなったけど、おわり(・・)/

☆追記

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溜息が出るような美しさ、ウマ・サーマン。

今回、改めてNetflixで『ガタカ』を観て感じたことがあります。

日本語字幕が、もったいない気がする!!

私は英語字幕と日本語字幕を切り替えながら観ていたのだけれど・・・
そこで、あまりにも日本語字幕の情報量が削ぎ落とされていることに気づきました。特に会話では、「自然さ」を保つためなのか、本当にニュアンスしか日本語字幕に反映されていないことが多っかったような。

”Don't know why my folks didn't order one like that for me"
(なんで私の親は、そのようなものを私にも注文してくれなかったんだろうね)
日本語字幕:「うらやましい限りだ」

尿検査を担当する医師が、ビンセントの立派なモノを見て言ったセリフです。こんなジョークになるほど、この世界では子どもの特徴を親が選ぶことが自然であることが、この言葉から伝わってくるのに・・・日本語字幕はあまりにもシンプル。

”Our parents both died thinking they’d outlived you"
(父さんも母さんも、お前より長生きしていると思って死んだよ)
日本語字幕:「まだ生きていたとは」

ビンセントの母親は彼が生まれた時に、"You'll do something"(あなたは何か成す)と囁いていました。もしも、彼女がビンセントが夢を実現したことを知ったら・・・そんな背景もあるのだから、もう少し文字数増やしても良いのでは泣

もちろん誰にでも伝わる簡潔で自然な訳であることが、字幕のあるべき姿であると理解しているけれど。
そういうものなのかな・・・。

それでは!

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#イーサンホーク  

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