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暮らしと感情

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東京と離島で二拠点生活中の人間が、暮らしとその中で生まれる感情について近眼気味に綴るマガジンです。週に3度は更新予定。役に立つことは書きません。
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記事一覧

一旦、感じた通りにやってみた

小学校高学年の頃、プロフ帳が流行っていた。少し厚手の紙に自分の自己紹介を書いて互いに交換するやつだ。そのなかには必ずと言っていいほど「得意なこと」を記入する欄があったのだが、わたしはそこにいつも「ディベート」と書いていた。多分きっかけは、五年生の頃の授業だと思う。 ディベートは確か道徳か国語の授業の一環としてなされていた。三人ひと組のチームを二つ作って、賛成派と反対派に分かれて「給食のあとにお昼寝タイムがあった方がいいか」とか「小学校と中学校は一緒になった方がいいか」みたい

ドールのホルン

ホルン、という楽器をあなたは知っているだろうか。まるくてカタツムリみたいな形をしており、お腹のところで抱えてやわらかく吹くと「ほーん」という音が出る金管楽器だ。そしてわたしはホルンを見ると、たいてい腸を思い出す。そう、消化器官の腸。お腹の中で絡まりもせず見事に収まっているあのくだは、全部引き伸ばすと6メートルの長さにもなるらしい。ホルンもそれと同じようなもので、あんなにちんまりとまとまっているのに管の長さは全長4メートルなのだという。 中学生の頃、オーケストラ部の体験入部で

蛹のなかのメタモルフォーゼ

過去の思い出が再生されるとき、そのシーンのほとんどには「わたし以外の登場人物」が現れる。

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島に帰る

上五島から福岡に帰ってきた。ここから、成田行きの飛行機に乗る。 島に帰るとだいたいいつもそうなるのだが、人知の及ばないものから厳かに諭されたような、そんな気持ちでいっぱいになっている。 いつ滞在しても、島で過ごす最初の二、三日は、心の大部分を不安が占める。普段、ハードワークな動き方にあまりに慣れすぎているので、スマホやパソコンを手放して、海にちゃぷんと足をつけたり友人と連れ立って港町のスナックに行ったりする、そんな時間の使い方におどおどしてしまうのだ。 けれどだんだん身体

【募集中】自分だけの暮らしを立ち上げるために。ちいさなコミュニティ「LEBEN」をつくりました

暮らしとコーチングをテーマにした、ちいさなコミュニティをつくりました。 名前は「LEBEN」。ドイツ語で、暮らし、という意味です。 自己紹介まずはかんたんに自己紹介をさせてください。 ライフコーチの、石岡佑梨(いしおかゆり)と言います。皆さんからは、ゆりさん、はちこさん、などと呼ばれています。東京の三鷹と長崎の五島列島のあいだで二拠点生活を始めた日から、もうじき三年になります。 二拠点生活が板につき、自分の暮らしとまっとうに向き合うようになってから、自身や他者の感情を健

三途の川と、青いトカゲ

毎年お盆の時期になると、母方の実家の墓参りをする。そこには、幼少期の私を可愛がってくれた人が眠っている。 彼女がこの世を去ってから二十余年が経ち、墓前で報告することも変わった。 「志望校に受かりました」「就職しました」「結婚しました」……かつての未来が現在になり、そして過去になる。思い出たちをぐんぐん引き離しながら、生きるものだけが勝手に年老いていく。 ならばせめて、心まですべて未来に持ち出してしまうことのないようにと、私たちは墓参りをするのかもしれない。そして、いっとき

米麹に出会い、一人の女が甘酒大好き星人になるまで

あなたは無いだろうか。 幼少期に苦手だった食べ物が、ある日を境に食べられるようになった経験が。 わたしはある。そしてその一つが、甘酒だった。 「甘酒好き?」と尋ねると、だいたい5割くらいの人が「積極的に飲みたいとは思わない」と返してくれる。「苦手だ」と言わないだけまだ優しい。ジェントルな気質を感じる。 かく言う私も、甘酒は「積極的には飲みたいと思いませんわオホホ」勢だった。発酵による、あの独特の香りが、どうにもこうにも……スッと受け入れられるものではなかったのだ。 と

ピザと、バック・トゥ・ザ・フューチャーと

わたしには好きな人たちがいる。 行きつけのブックカフェの店長さん夫妻、そして常連さんたちだ。 彼らと話すのは、だいたいの場合「どうでもいい話」。 例えばこの間は、『じんぼうちょう作文』をやった。 「じ」から「う」までを頭文字として七文字使って、作文を完成させるというものだ。 大のオトナが揃って「『ん』をどうやって頭文字に使う……?」なんて言いながら、エンピツ片手に四苦八苦していた。 みんな、遊びにとても真剣だ。 タモリさんの「まじめにやれ。仕事じゃねえんだぞ」の言葉を、

在野での学びとワイン

学びたがりだ、という自覚がある。 少しでも興味を持ったものは、ある程度かじらないと気が済まない。 とはいえ、在野だけ(研究機関外)で何かを学ぶことに抵抗感を感じていたのかもしれない。 なので、(至って個人的なレコンキスタとして)社会人学生として専門の学校に通ったりしていた。 しかしこの間、興味深い体験をしたので、今日はその話をしようと思う。 ・・・・・ 「ブショネ」というワイン用語がある。 細菌で汚染されたコルクが使われ、味が劣化してしまったワインのことを指す。

異邦の日々は続く

「ゆりさんってご自愛が得意ですよね!」と褒められたことがある。そしてわたしは、その言葉になぜかムッとした。自分で自分のご機嫌をとる、ということへの懐疑心が決定的になったのは、この瞬間だと思う。 かつては巷のご自愛ブームに則り、形だけお香を焚いたりしたこともあった。セレクトショップで適当に買った金木犀のお香は、むわっとする甘ったるい匂いを残した。全然好みの香りじゃなかった。あのときの自分は、自分を愛するということが何たるか、本質的にわかっていなかったんじゃないだろうか。 自

SNS離れをしているときの、インプットの在り方について

SNSをあまり見ない日々が、ここしばらく続いている。いっときTwitterやインスタを齧りつくように見ていたし発信もしていたのが、最近はメールやLINEを一日の決まった時間にチェックするとか、友人の音声配信を聴くとか、推してる作家さんの発信を見るとか、そのくらいになってきた。 わたしは何らかの教訓めいたものを完全に理解するまでに人の倍以上時間がかかる、という自覚がある。SNSもまた同様に、情報の受け取り方として必ずしもヘルシーな面ばかりではないといろいろ分かってはいても、い

120円のらくがき帳に、書きたいことだけを書く

無印良品でらくがき帳を買った。 コーチングのメモをとったり思考をぶわーっと書き出したりするのに、あまりにもちょうど良いので気に入っている。 メモ帳ってもらうことも買うことも多いので、自分の暮らしに定着しきれなかった使いさしの紙の束が、机の上に死屍累々と積みあがっていた。苦節数年、ようやくしっくりくる一冊に出会えたような気がする。 良い点は主に三つ。 ・心置きなく使えるお値段 ・適度な大きさ ・「らくがき帳」というネーミング 120円とお安いので、がしがし使える。 小さす

スペシャルなわたしとラーメン

「ラーメンは年に一度と決めているんです」と、とあるモデルさんが語っていた。 わたしは目の前に札束を積まれても無理だと思う。人生の大事なシーンに、ラーメンがあまりに登場しすぎる。 まだそんなにラーメンが好きでなかった当時、わたしは大学二年生で、オーケストラ部に入ってチェロを弾いていた。個人練と全体練を合わせると、活動は日曜以外ほぼ毎日。しかも授業もすっぽかさず、週に20コマ超の科目を真面目に受ける人間だったので、それはもう目が回るような忙しさだった。 そしてわたしは、忙し

灯油ストーブを買った

灯油ストーブを買った。 もともと、ストーブを所望したのはオットだった。エアコンと違って空気が乾燥しにくいし、広い範囲が短時間で温まるから良いのだ、と熱心にプレゼンされた。 一方のわたしはそんなに乗り気じゃなかった。だって、灯油代が馬鹿にならないし。燃料を切らすたびにガソリンスタンドまで行かなきゃならないのもおっくうだし。それに今回購入したものは、正直なところを言うと大きすぎる。狭い通路にストーブを置いた結果、脇を通ろうとして服を焦がしたこともあった。 ところがわたしは今