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句集を読む

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句集を読み、収録句の中から印象に残った句を何句かpick upさせて頂いています。
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句集を読む:『月と書く』

『月と書く』 池田澄子 2023朔出版 著者は1936年鎌倉生まれ。本書は著者の第8句集。 [章立て] 朋 露 光 水 星 霧 蝶 [好きな句10句] 大空を区切るすべなく敗戦日 どの家も遺影は微笑ささめ雪 万両や実の鈴生りに日々耐えて 冬木の芽さぞやこの世の怖からん 鶏病めば急ぎ殺して人の春 御降りや遺言書くには字が下手で 鶯かスンとも声を出さず去る 寝て覚めて此の世暑くて寝返りぬ 春寒き街を焼くとは人を焼く 蝶よ川の向こうの蝶は邪魔ですか

句集を読む:『海図』

『海図』 佐藤郁良 2007ふらんす堂 著者は昭和43年東京生まれ、「銀化」副編集長。本書は著者の第1句集、第31回俳人協会新人賞受賞作。 [章立て] 調律師 海図 点景 最後の客 手話と劇薬 花野の駅 設計図 [好きな句 15句] 梅が香や禅寺の門閉ざされし いくたびもポストを覗く花の雨 短日や窓に母待つ子の指紋 そんなには生きまい四万六千日 書初の手に遺伝子の流れをり 新雪へ踏み込む悔いに似たるもの 大寒をせつせと蒸かす中華街 風鈴の乱れて誰か来る予感 揚げたてのコロ

句集を読む:『人類の午後』

『人類の午後』 堀田季何 2021邑書林 著者は「楽園」主宰。本書は第72回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作 [章立て] 前奏 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 後奏 [好きな句20句] 本書の漢字表記は基本的に正字・旧字だが、以下の列記では原則として新字体を使用している。 戦争と戦争の間の朧かな 鳥渡るなり戦場のあかるさへ ぐちよぐちよにふつとぶからだこぞことし 自爆せし直前仔猫撫でてゐし 花疲するほどもなし瓦礫道 花の樹を抱くどちらが先に死ぬ 花降るや死の灰ほどのしづけさに 懇ろにウラン

句集を読む:『天球儀』

『天球儀』 春日石疼 2019朔出版  著者は昭和29年大阪生まれ、昭和57年より福島市在住、医師。「小熊座」同人。 [章立て] Ⅰ月光の檻 平成10~20年 Ⅱ未完の驟雨 平成20~26年 Ⅲ鳥の道 平成26~30年 [好きな句12句] 鳥雲に地図から消えし生地の名 杖百本齢千年滝桜 さざなみの畦より生まれ畦に消ゆ 花野踏む間も幼子に死は育つ 地下街をつなぐ地下街寒の入 原発爆発映像医院待合冴返る 廃炉まで蛍いくたび死にかはる 動くものをらぬ帰宅や冬燈 進化とは遺失のひ

句集を読む:『むかごの貌』

『むかごの貌』 小谷迪靖 2023ふらんす堂 著者は1939年東京生まれ。「海棠」同人、本書は著者の第2句集。 [章立て] 氷頭膾 2017年 皮蛋 2018年 九絵 2019年 定家煮 2020年 漉油 2021年~2022年2月 [好きな句10句] 鱈づくし先づお澄ましの白子から 留守電に在りし日の声冬桜 とは言へどバレンタインのチョコレート 登りきて投入堂の涼しさに 余生いましをりのやうに吾亦紅 ひとつとて同じ貌なきむかごかな 負け牛をさすりゐる勢子隠岐の秋 人の死

句集を読む:『思ってます』

『思ってます』 池田澄子 2016ふらんす堂 著者は1936年鎌倉生まれ。本書は著者の第6句集。 [章立て] 思ってます ひとりのとき 居る あーだーこーだ 此処 ともしび 幸いなれ [好きな句7句] 春寒の灯を消す思ってます思ってます 花は葉にそれとも花はなかったか 入ってはならない村も此処も雪 津波以前此処に家々人々東風 夜は雪になるかそれとも誰か死ぬか 朝晩の寒さを嘆く元気かな 仏壇のメロンを今日も押して嗅ぐ

句集を読む:『拝復』

『拝復』 池田澄子 2011ふらんす堂 著者は1936年鎌倉生まれ。本書は著者の第5句集。 [章立て] Ⅰ  Ⅱ  Ⅲ  Ⅳ  Ⅴ  [好きな句5句] 鰻重を奮発させるに異存なし 前兆は過去にのみあり実千両 いつか死ぬ必ず春が来るように 暖房や延期をすると老けてしまう 気が済んだらしや雲雀の落ちきたる

句集を読む:『此処』

『此処』 池田澄子 2020朔出版 著者は1936年鎌倉生まれ。本書は著者の第7句集、全380句。第72回読売文学賞詩歌俳句賞受賞作。 [章立て] 体 何処 この道 ときどき どの道 中有 次 此処 [好きな句15句] 初蝶来今年も音をたてずに来 三月十一日米は研いできた 数の子の薄皮ほどの自愛かな 天高く柱枯れ立つ日本丸 出来かけのゼリー何回揺すられる 無花果や自愛せよとは何せよと たいがいのことはひとごと秋の風 雑煮用鶏を解凍しつつ寝る 三月寒し行ったこともなくもう無

句集を読む:『あの時 俳句が生まれる瞬間』

『あの時 俳句が生まれる瞬間』 高野ムツオ 写真・佐々木隆二 2021朔出版 著者は昭和22年宮城県生まれ、多賀城市在住。「小熊座」主宰。 2019年から2021年にかけて開催された「語り継ぐ命の俳句」展を機にまとめられた1冊で、同著者による『語り継ぐいのちの俳句』(2018年朔出版)の第三章「震災詠100句自句自解」を写真と共に再構成、加筆修正したもの。100句は著者の句集『萬の翅』、『片翅』からの句+新作。著者自身は「自解は避けるのが俳句本来のありよう」あとがきで述べて

句集を読む:『片翅』

『片翅』 高野ムツオ 2016邑書林 著者は昭和22年宮城県生まれ、多賀城市在住。「小熊座」主宰。 本書は著者の第6句集、全395句。 [章立て] 蝶の息 平成24年(2012年) 百燈 平成25年(2013年) 蕨手 平成26年(2014年) 甌穴 平成27年(2015年) 花の奥 平成28年(2016年) [好きな句15句] 大皿のパエリア太陽一個分 冬に入る笹蒲鉾の弾力も 欠伸してこの世に戻る冬日和 億年の途中の一日冬菫 福島の地霊の血潮桃の花 生者死者息を合わせて

句集を読む:『萬の翅』

『萬の翅』 高野ムツオ 2013 角川学芸出版 著者は昭和22年宮城県生まれ、多賀城市在住。「小熊座」主宰。 本書は著者の第5句集、全496句、第48回蛇笏賞受賞作。 [章立て] 樫の実 平成14年 蝦夷蟬 平成15年 凍れ日 平成16年 雪間草 平成17年 鯨の血 平成18年 緑の夜 平成19年 崖氷柱 平成20年 櫟落葉 平成21年 凍裂 平成22年 蘆の角 平成23年 鰯の眼 平成24年 [好きな句15句] 裸木となる太陽と話すため バーベルのような夏の陽病室に 息

句集を読む:『然々と』

『然々と』 伊藤伊那男 2018北辰社 著者は昭和24年長野県駒ヶ根市生まれ、「銀漢」創刊主宰。 本書は著者の第3句集、第58回俳人協会賞受賞作。 [章立て] 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 [好きな句12句] 分校を持ち上げてゐる霜柱 福寿草てふ睦まじき混み具合 静脈の色鎌倉の曼珠沙華 冬夕焼この色誰か死にたるか 初午や鳥居掘り出す雪の中 本堂に寝る子跳ねる子仏生会 黒潮のつくる縦縞初鰹 冬凪に潜水艦の甲羅干し 銃眼で

句集を読む:『つむぎうた』

『つむぎうた』 野村亮介 2020ふらんす堂 著者は昭和33年福岡生まれ、「花鶏」創刊主宰。 本書は著者の第2句集、第60回俳人協会賞受賞作。 [章立て] 瑞雲 平成19年まで 文遣 平成24年まで 純白 平成27年まで 黒潮 平成29年まで 遠弟子 平成30年以降 [好きな句7句] 登り窯火を噴かぬ日の蟻地獄 認印ひとつの暮し豆の飯 太眉のごとき下駄の緒青嵐 西瓜割る割つて余れる日暮かな 延命をせぬも裁量朝ぐもり ひと摘みの野花加へむ流し雛 草餅やあてにはならぬ父の勘

句集を読む:『磐梯』

『磐梯』 桜井たかを 2021文學の森 著者は昭和13年福島県生まれ、会津美里町在住、「宇宙」同人。本書は著者の第2句集。 [章立て] 耕人 平成10年~15年 早春 平成16年~20年 山荘 平成21年~25年 土偶 平成26年~31年 俳句エッセイ (「宇宙」第91号から第110号より転載) [好きな句7句] 除雪車のまた近づきて嵩を知る サングラスかければ気持ちあらはるる 地震の前暗くなるほど雪降れり 行く末を未だ決められず花いかだ どんど火に生命線をかざしたる 寒