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青空見ると退職する症候群

空が高くて真っ青で雲も白くて全ての悩みが嘘のように小さく感じるくらいのいい天気に

私は退職してきた。

しかも一度や二度どころではない。
私はかなり転職を繰り返す言わば「転職家」
※そんな職業はありません。

そんなくだらない私の退職歴を今日は特別大公開しようと思う。

Case 1. 床屋さん

そもそも、私は床屋さんなんかになりたかったわけではない。

こんな擦り切れた靴底みたいな私にも壮大な夢があった。
当時、生命工学で前代未聞の大発見が発表された。皆さんは山中伸弥という人物をご存知だろうか?
そう、2012年にノーベル生理学医学賞を受賞した日本の誇る偉大な研究者だ。
彼がiPS細胞の研究で成果を出し始めた頃、私は狂ったようにその分野の研究記事を追いかけていた。

人生で二度目の沼だった。
因みに一度目はヴィジュアル系だ。


そんな私の進学の選択肢は一択。

大学に行って生命工学の勉強をしたい!!


でもそれは儚く消える。
まず遊びたいからと進学校をわざと辞退し、職業高校を選択した私は単位取得を忘れていた。
それでも受験勉強すれば十分間に合うのだが、これまたイイ選択肢を見つけてしまう。農業系専門学校がちょうどその春に開校し、しかも生命工学科があるではないか!!頑張れば短大編入ができ、短大卒が貰える!

こんな素晴らしいことがっ………(呼吸困難)

すぐさま母親のところへ飛んで行き、必死に説明した。よし、きっとわかってくれる!そう確信していた私に母親は意外な言葉を吐き捨てた。

「で、それはお金になるの?」

きょとーんとする私。
母曰く、その分野を勉強してどんな仕事へ就くことができるのか?との事だった。
爪が甘々な私はそんな事までは調べておらず、やっとで出た言葉は

「けっ…けっ…研究者とかぁ?!」

情けない。当時の私の頬を百往復くらいビンタしたい。もちろん母親の返事は"No"

「私がお金出すんだから私を納得させろ」

鋭い矢を放って母親は二階へ洗濯物を取り込みに行った。10代のひ弱なハートをそれが貫通した後はいじけるしかない。来る日も来る日もいじけた私を見るに見かねた母が口を開いた。

「床屋になれ」

きょとーんとする私。
次の日には願書を作成して送付。推薦入学で受験は終了。鶴の一声で私は美容の道へ進む事になる。意外と医学分野や物理、英語なども勉強しなければならないファッショニスタへの道は意外と面白く、国家資格も一発合格してしまった。
そう、軽い自慢である。

そうして私は晴れて理容師免許持ちの床屋さんになるのだが、また難関が私の行手に憚る。

やだ、どうしよう。仕事したくない。

そう。元々生命工学科に興味津々の私が勉強を除いて原色カラフルマリモ頭軍団の中では馴染めるわけもなく、友達も出来ず、ふわふわとしたまま卒業の日を迎えたのだ。

行き着いた先は…コンビニエンスストア。

廃棄のおにぎりを食べては太りを繰り返すこのアルバイトをしながら、何とか人生の軌道修正をしようとしている私に、またまたあの母上が立ち憚る。

「仕事先、話つけておいたからココ行きなさい」

私は何度きょとーんとすればいいのだろうか。
しっかりと敷かれた線路をトー◯スのように直走った私は田舎でそれなりに力を持つ美容室のような理容室へ就職が決まった。もしかしたら母はトップハム・ハット卿なのかもしれない。
※因みに私は幼少期の頃トムハムハット卿だと思っていた

仕事先は田舎なのでノホホンとしており、それなりに愛想良しな私はホイホイと仕事をこなしていたのだが、私の体にある異変が静かに忍び寄っていた。
腰椎椎間板ヘルニアの参上だった。
理美容関係はもとより腰をいわす仕事の人の最大の敵が私に襲い掛かったのだ。
シャンプーをしたままの姿勢で病院送りになったのだが、何となく心の中でガッツポーズを決めた。


さらっと一年休業して。

復帰した日から十日後。
私はシェービングで使うフェイスタオルを汗だくになりながら干していた。店主の用事の為に午後から二日間休みになるので、全ての布製品を天日干しする事になったのだ。もちろん下っ端ミジンコ野郎な私がそれを押しつけられる事になる。
先輩たちが次々と帰路につき、私一人が取り残された。

- 季節は真夏-

蝉の声が絶え間なく鳴り響き、向日葵が揺れる。あー、暑いな。そう思いながら空を見上げた。
あれ、空見たのっていつぶりだっけ?すごーい青いんだなぁ空って。吸い込まれるような青ってこの事なんだなぁ。

あ………仕事辞めよ。

休みが明けたその日。私はめちゃくちゃ明るい顔で退職届を店主へ差し出した。それまで弱腰な私だが、その日は聞く耳を持たずに辞めるの一点張り。首は横にしか振らず、店主も奥様も先輩も呆れ顔。綺麗さっぱり、しっかりと退職をしてきた。敷かれたレールから脱線したのだ。親の顔に泥を塗った記念日でもある。そんな何も考えてない私の転職家人生の幕開けが今始まったのだ。

つづく


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