オーバーテクノロジー

僕が世界の敵になった理由(わけ)。

3.

「えへへー」
「偉い?」
「偉いさ、この数値ならもう実戦でも通用するよ」
 割って入った同僚の声に、オルゲルトは少し顔をしかめて背後を振り向いた。
「セルゲイ、あんまり甘やかさないでくれ。それに、俺はこの子たちに自分の力の使い方や制御方法を覚えて欲しいだけで、別に軍属して欲しい訳じゃあない。この子たちの未来は自分で選べる、そう思ってる」
「だとしても、十二分に優秀だってことさ。さすがはオル

もっとみる

僕が世界の敵になった理由(わけ)。

2.

 獲物であるラスカーの認知から起動、攻撃に移るまでものの三、四秒。
 普通の人間であれば、それを察したとしても咄嗟に初撃を躱して体勢を立て直し、なおかつ反撃に転ずるなどと言うことはほぼ不可能だろう。ペイント弾をもろに浴びて、ジ・エンドだ。
 しかし、ラスカーは飛び退って距離を取りたいところを逆に懐へ飛び込み、銃身を一閃した。べきりと紙細工のように折れ曲がるそれには目もくれず、返した掌を容赦

もっとみる

僕が世界の敵になった理由(わけ)。

1.

 パシュッ! ヒュン……っ、パシュッ!
 間断なく鼓膜を打つ、消音器(サイレンサー)付きの全自動(フルオート)機銃が弾丸を射出する微かな音と、それが空気を切り裂いてこちらへ迫る気配。
 無論鋼の実弾ではなく、訓練用のゴム製ではあったが、同じ弾速が出るように調整されている。当たればそれなりに痛くはあるだろうが、怪我をするほどではない。もしかしたら痣くらいは残るかもしれないが、数時間もせず消え

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒18

 黒髪切れ長一重の緑眼、顔立ちは東洋系。記憶力はよい方だと自負しているが、閃光は初見だった。無論狙われる理由は思い当たり過ぎて枚挙に暇ないが、今男が殺気を向けていたのはこちらではなくミツキの方だった。
「ダミアンさん……何で、ここに……」
 同じように一応麻酔銃を手にはしていたものの、撃つ気はないのだろう。目を丸くしたミツキがその名を呼ぶ。
「ダミアン? お前……パリスの時の文保局

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒17

「……あのね、」
「悪かったな」
 言いかけた言葉を封じるように先手を打つ。
「怪我とか……その、してねえか? 薄っすらとしか覚えてねえんだが……随分酷ぇ真似をした。詫びてどうなるでもねえけど……すまねえ」
 今ここで、ミツキが踵を返すなら、まだ間に合う。彼女を傷つけずにすむ。手にかけ失くす恐怖から逃れられる。ミツキが拒んでくれたなら、諦めることが出来る。
――駄目だ、それじゃ駄目

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒16

――何やってんだかな……
 外へ出て生温い風に当たりながら、自己嫌悪の溜息を吐く。
 誰一人例外なく近づけまいと決めたのは自分のはずなのに、不用意に踏み込んで来るミツキの熱がいつの間にか嫌ではなくなっていた。貴方の作った壁など知らないとばかりに、頑なに他人を拒絶する柔らかな部分に触れられるのが、気持ち悪くはなかった。
 懐を探り、煙草をくわえて火をつける。
 立ち上る紫煙が乱れた訳

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒15

 ふ、と鼻先を掠めた甘い匂いに消えかけていた意識を引き戻されて、閃光はゆっくりと双眸を開いた。しばらく死線を彷徨っていた反動でか、焦点が合うまでいつもより時間がかかる。
 見覚えのない部屋――と言うよりは、物置の片隅を無理矢理空けて使用している、と言った方が正確な、埃っぽい空間で窓はない。
 足元に置かれた小さなランタンだけが唯一の光源で、それも最小限に絞られている。
――ここは李

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒14

 そっと納屋の古びた扉を押し開けると、錆びた蝶番がぎい、と歯の浮くような軋んだ音を立てた。閃光が目を覚ましてしまうのではないかと、冷たい手で背中を撫でられたようにひやりとしたが、そんなことで気がつくほど易い状態ではないだろう。
 足元に置かれた最小限に絞られたランタンが、そう広くはない空間を照らしている。普段頻繁に使われる訳ではないのだろう。所狭しと置かれた農具や、何だかよく解らな

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒13

 四、五時間ほどたった頃だろうか。
 ぐったりと疲れた様子で、ライラが母屋の方に戻って来た。いくら意識を失っているとは言え、ロキのサポートがあったとは言え、成人男性相手の手術をたった一人で執刀したのだ。ましてや閃光の身体は、何度も看ているはずの彼女でさえ、いつ何時予想外のアクシデントが起こるか解ったものではない。
 その緊張感は、通常とは比べ物にならないことだろう。
 いかに自己治

もっとみる

閃光のバレット3

四.覚醒12

 崩れ落ちる洞窟の悲鳴を背後に聞きながら、アクセルをベタ踏みで駆けた。
 いつ谷底へ転落したものか、被害がこちらに及んだものかと、肝を冷や冷やさせながらの峠の崖道走行も然ることながら、〈魔法術〉でどうにか呼吸と心肺運動だけは確保したものの、全く動かずちゃんと生きているのかどうか解らない閃光の状態に、ミツキは自分の心臓が止まってしまいそうだった。
 心なしか、ずっと握っている獣のまま

もっとみる