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映画

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映画コラム 某ブログでも書いています。
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#エッセイ

日記: 日々と娘と映画と

桜がヒラヒラと散る様をみたら、2000年代の岩井俊二映画を思い出した。 松たか子主演で北海道から上京した大学生一年生の瑞々しい姿を捉えた『四月物語』。制服似合ってないね、などといいながら桜並木を駆けながら高校に進学する2人の可笑しくも美しい映画『花とアリス』。どちらも何度観たか数えきれない程に偏愛している作品である。 昨日、初めて生後5ヶ月になった娘を連れて地域の子育て支援センターという場所に行ってみた。 当たり前のことだけれど人間は行動あるのみなのだなと、些細なことな

映画 PERFECT DAYS

PERFECT DAYS 良かった。映画館で観てほしい映画だった。 エンドロールの最後までぜひ見てほしい。 余白を感じさせる映画だが 冒頭で彼の職業がよく分かる会社名の入った作業着の背中を写し出す、観る人への配慮 The Tokyo Toilet (スリーT良い…) 作業着の青色がとても良い絶妙な青で ダサさを感じさせない真っ青なブルー むしろカッコよさを感じさせる青さ。 彼が使用するバンも同じ青 この青色は緑(自然)の多い中でも人混みでも良く生えていた。 セリフが少

ひとり、の渦に呑まれる

 手を奥へできる限り伸ばすと、ヒヤリとした冷風に突き当たる。使い始めてから早15年が過ぎていて、とっくに標準的な耐年数は超えているのに、いまだに微かな呼吸音を立てながら室内の果物や野菜、私が作った料理などを冷やし続けている、健気なやつ。日常的に、私が生きていくために、そっと息を吐き出している。 *  相変わらず、少し前から朝方の日が昇らない時間帯に目を覚ましてしまう。真っ暗闇の中で突然夢から放たれて、なぜかわからないけれど、再び眠ろうとしても途端に瞼が軽やかにパチパチと振

映画「SAND LAND|鳥山明」見てきた。ネタバレ無し

原作めちゃくちゃ好きだったんだよね。 どのキャラが好きとかっていうよりも雰囲気が。 で、来場者プレゼントあり!!! ってことで、封切り日に珍しくいってきたわけなんだけれども。 グッズとかあんまり買わないんだけど、このサイズ感くらいのものならちょっと欲しいなってw とはいえ、今更ノーマーク過ぎて「君たちはどういきるか」を見にいって予告で知って、本編どうこうよりも「SAND LAND」がやるって情報を知れたのが一番良かったという感じが、この記事にもwwww このころの鳥山

日々と少女映画 | オン・ザ・ロックとバービーと

時々訪れる実家の父親の不用意な発言に苛立ちと悲しさを感じることが増えている事に最近になって気がついた。父の明るく陽気で優しくて面白い側面が今の私には見えなくなってしまい、反対に亭主関白で家父長制の権化的な父にもやもやとすることが増えてそのことに悲しさを感じてもいた。 でも、最近になりその事に少しだけ自分の中で良い方向に折り合いがついてきたようなきがしているので書いておこうと思う。 思えば賢明な両親の献身的な教育のおかげで、子供の頃にははみ出しもので親に苦労をかけてしまった

かつて人魚に憧れたわたしと映画「リトルマーメイド」

いつからだろう。 水や魚が好きになったのは。 幼少期、家庭用ビニールプールやお風呂にて、腕を通す用の小さい浮き輪に両脚をつっこんで尾ひれに見立て、1人人魚ごっこをして大層楽しかった記憶が朧げにある。 今思えば、水深さほどもない水の中で、びっちゃんばっちゃんと跳ね続ける絵面は、完全に釣りあげられた魚である。 また、プールに行けば、息の続く限り底に潜った。 頭上にゆれる水と煌めく光の筋を見上げては、海からの景色もこんな感じだろうか、とうっとり眺めるのが好きだった。 人間か

映画『イニシェリン島の精霊』自分の人生を問われる哀しくも美しい人間の物語

中年期以降の人間ならば誰にでも思い当たるであろう「誰かとの分かれ道を感じた瞬間」の寂しさとやるせなさをこの『イニシェリン島の精霊』が恐ろしくも可視化してしまったのかもしれない。私自身は去ってしまったことも、去られてしまったこともどちらも経験がある。多くの人がそうであろう。 また同時に、この作品では「人生を豊かに生きるとはどういうことか」ということについてとても真剣に考えさせられる。価値観が多様になり様々な生き方や暮らし方が肯定されているように思えていても、実は人間の根底にあ

エゴイストを観た

(映画の感想ではありません、すみません) 電車のドアが閉まって、座席からホームに目を移すと、母に似た女性が立っていた。 もちろん母ではないけれど、背中の感じとか髪がよく似ていた。 その人はホームの階段を降りてゆく誰かに手を振っていた。振り終わってからもずっと階段の上から眺めたまま、動かなかった。 電車が動き出した。 誰を見送っていたんだろうなと考えながら、車内に視線を戻す。 若いカップルがドアの近くに立っている。 男性はすごく背が高い。頭ひとつぶんよりもっと下にかわいらしい

日々と恋愛映画

変わる時は一瞬だ。後で振り返ればなかなか大変だったとか長かったとか思うのだろうが、その瞬間に見える景色はあっという間に変わっていく。 新しい場所で働きはじめて10日が経った。 数ヶ月ぐらいが経っているような気分だけれど、間違いなくまだ10日だ。人間の時間の感覚なんて、全く当てにならないものだ。 10月の退職の当日、その日出勤ではなかった人達まで私のために会社に来てくれていた。 ある人からは小説を3冊もらい、花束と一緒にスターバックスのカードやゴディバのチョコレート、それ

2022年の東京から、香港を想う

私は学生時代、たびたび海外旅行に行っていた。 コツコツと旅行のために貯金し、出発の2ヶ月ほど前から鬼のようにバイトのシフトを入れて怒涛の追い込みを仕掛け、十分に楽しめるだけのお金を握りしめて海外に行く。必死にバイトに明け暮れる日々も、異国の地へ行ける喜びを想像すれば、なかなかに楽しかった。 社会人となったいま。あらためて考えれば、お金のない学生時代に頑張って行かずとも、社会人になって安定して稼げるようになってから行く、という選択肢もあったのかもしれない。そのほうが、経済的

メリーバッドエンドの物語「星の子」を観て、映画を観る意味を考えた。

映画『星の子』を観た。 2020年に大森立嗣監督によって映画化された、芦田愛菜主演・今村夏子原作の、宗教二世のお話である。 『もし、自分が物心ついた時に、両親が宗教信者だと分かったら』 この映画を観るまで、私は、この状況を想定したことが一度もなかった。宗教二世問題が、旧統一協会の騒動で明るみになる前の鑑賞だった。自分の周りにも、親が宗教に熱心だと漏らす友人はいなかった。 もし、映画・星の子を、あの騒動の後に知って観ていたら、得た感想は、異なっていたのだろうか。ネットの

映画「わたしは最悪。」世界で1番最悪なわたしの人生も、全部まるごと引き受ける

この映画を観ながら、過去の自分の愚かな経験や行動もパッとしない人生もそんなに全然悪くなかったかもしれない、いや、悲しくてムカついて後悔して夢でうなされたあのつらい出来事すら、本当はむしろ何ひとつ全部、私は忘れたくないのかもしれない。と思えていた。 自分の不注意で他人を傷つけたことも、欲にまかせてしまった誰にも言えないあの夜も、大人として恥ずかしい失態も、たくさんあったかもしれない。 でも、それだって消えて忘れる必要なんて、全然ないのではないだろうか。 ノルウェーの首都、

映画『犬王』を見る

映画『犬王』を観に行く。平日の昼間、TOHO系列は7割程度埋まっていたので、慣れたシネ・リーブルを選ぶも選択肢が少ない。20代~の若い女性が目立つ。 なるほど、これは様々な「推し」の存在を彷彿とさせる。「推し」とは何かについての最大公約数をみるような映画で、熱狂する人々と熱狂させる人々と、設定を平家滅亡後の世にうつすことでちょうどよい距離感をもたらす。今、どこか別の時代に転生しても好きに生きてもいいよな、とか、時代が移ろってもそんなに動揺しなくてもいいな、とか。ストーリーは

『フレンチアルプスで起きたこと』【映画は観たけれど】

夫の定時は22時のはずだが残業があるそうで、帰宅時間が23時をまわっている。 わたしも寂しくならないように週に2~3回はそのあたりまで仕事しているので、0時前から夕食もとい夜食をとりはじめる。最適なバラエティ番組や動画をザッピングしても、疲労と食事と刺激的な笑いをなかなか難しい。そんなある日沖田修一監督の『南極料理人』を見はじめたら結局最後まで見てしまう出来事があった。(そして観た人はわかると思うけど、無性にラーメンが食べたくなる。)すでに5回は観てる。やっぱり沖田さん映画