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読書記録

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私が読んだ本の記録です。
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#読書

今あるものが何もない世界で生きることになったら?『本好きの下剋(第一部)』をAudibleで聴きました。

Audible の今月のボーナスタイトルは『本好きの下剋上』。これは2013年9月から2017年の3月まで、小説投稿サイト「小説家になろう」で連載投稿されていた、香月美夜さんのたいへん長い小説です。(全5部677話) この小説はアニメ化もされていて、非常に有名な作品だと思うのですが、私は予備知識全くゼロで聴き始めました。 今回聞いたのは第一部なので全体の1/5にあたる部分なのですが、私はそれに気づいておらず、最後まで聴いて、あれ終わらないんだ!と思いました。笑 この物語

誰にも壊せない幸せ【後編】

カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』をAudibleで聴いた感想を、2回に分けて書いています。後半のこちらはちょっとネタバレを含みますので、知りたくないという方は、ここで止めておいていただければと思います。 この小説の舞台となっている世界には、明確な分断があります。 もし私達がこの社会において、自分たちの家族や仲間の命を救うため、健康を守るために、「臓器を提供してくれる、ある種の人間がいてもいい」という考え方が当たり前になっていたらどうしますか。 この小説の中

山田詠美 著『つみびと』

あらゆる犯罪に対して、「どんな理由があろうと許されない」という言葉は正しいのだろうけれど、この場合の「理由」においては、すべて想像の範囲内だという意味も含まれているように感じる。 『つみびと』は2010年に大阪で起きた、二児置き去り死事件を元に書かれた小説だ。 虐待を受けて育った人間は自分の子供も虐待してしまう 周囲に頼れる人間が誰もいなかった 無知で社会のルールを知らなかった なぜ防げなかったのか 当時、たとえば数分~数十分のニュースの中で出てくるこういったコメ

佐々木典士著 『ぼくたちに、もうモノは必要ない。[増補版]』

いきなり全然違う人の話をするけれど、先週福岡に行って『途中でやめる』というファッションブランドを手がけている山下陽光さんに会ってきた。そして山下さんと話をしているなかで、改めて実感したことがある。 人が、物や思想や映像など誰かが手がけた何かに対して「あ、いいな!」と感じる理由は多くの場合、物体そのものの後ろに超絶なバックボーンがあるからなのだと思う。(当たり前だけれど。そして、そうじゃないこともたまにあるけど。「なんでこれ流行った?」みたいな。) 山下さんの服は、世界的メ

池井戸潤 著『シャイロックの子供たち』

「シャイロック」とはシェイクスピアの戯曲『ヴェニスの商人』に登場する、強欲で非道な金貸しのことで、その末裔のような銀行員がたくさん登場する銀行の裏側が描かれている小説。 これが連載されていたのが2003年と、今から16年も前だということに少し驚く。「家族のためには、どんなに辛い仕事も耐えるしかない!」というような気持ちで生きている人は、少しずつ社会が変われども、未だスタンダードだと思っているので。 池井戸潤さんも元銀行員なので、銀行や、融資を受ける会社にまつわる小説が多い

薬丸岳 著『Aではない君と』

この本は、息子が殺人事件の容疑者となってしまった父親の話です。以前読んだ窪美澄さんの『さよなら、ニルヴァーナ』も少年犯罪を扱った小説で、加害者・被害者の親・加害者に恋をする少女・それらを取材する小説家の視点でリアルに描かれていましたが、息子が加害者かもしれないと思う親の視点もまた、自分にはとても想像が及ばなかった心理だと、深く感じました。 昔、『「少年A」この子を生んで』という、神戸連続児童殺傷事件の加害者少年Aの両親の手記を読んで、自分の子どもが加害者となってしまったとき

小説の効能

最近小説をよく読むようになった。ここ2年くらいは、エッセイやビジネス書や自己啓発書を読むことが多かったし、フィクションより現実世界で起こっていることが知りたいという気持ちがあったのだと思う。 でも、先日ラジオで落合恵子さんの講演を聞いたときに、落合さんは、ノンフィクションで書ききれない事実を小説なら詳細に表現できるという趣旨のことを仰っていた。同じようなことを、はあちゅうさんも最近ツイートか何かで書いていたと思う。 小説は時に、事実を我々が手に入れられる情報以上に、目を覆

大原扁理 著『なるべく働きたくない人のためのお金の話』【前編】

大原扁理(おおはらへんり)さんは現在台湾にお住まいなのですが、この本は大原さんが2010年12月から2016年9月まで、約6年間東京で隠居生活をされていた時のことが、詳細に書かれています。 ・家賃28,000(国分寺にてバス・トイレ付き) ・仕事は週二回、時々臨時アルバイト(年収90万円) この条件の中で、心から満足して毎日を楽しく、しかも丁寧に暮らしている様子が淡々と伝わってきます。 お金について考えるとき「自分がどうありたいのか」という問題を避けて通ることができません。

ちきりん 著『ゆるく考えよう ~人生を100倍ラクにする思考法』

ちきりんさんはこれまでに9冊(共著は除く)の本を出されていますが、どの本も内容がかぶっていないのと、いつ読み返しても古い感じが全くしないのが本当にすごいなあと思います。 もちろん、ベースにある物事の考え方は一貫しているのですが、それらを用いて切り取る社会のあらゆる場面が、本当に多様でおもしろいです。逆に言えば、同じような考え方を身につけることができたら、これから生きる上でどんな場面でもあまり悩まないんだろうなと思います。 この『ゆるく考えよう~人生を100倍ラクにする思考

坂口恭平 著『建設現場』

読みながら、わかろうとしなければわかる!ということに気がついた。 少し前の話になるが、10月21日に、青山ブックセンターで行われた坂口恭平さんのトークイベント「書かずにはいられない」に行ってきた。 定員は110名で、会場はほぼ満員だったと思う。 会場に着いて本を書い、席に着いてすこしページをめくってみたのだけれど、いきなり坂口さんの夢の中に入り込んだような書き出しだった。cakesの連載とも印象が似ている。 イベント当時坂口さんは鬱気味で、口も重く、結構弾き語りをはさ

稲垣えみ子さんの本から

昨日に引き続き、稲垣えみ子さんの『アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと。』のなかから、特に自分の心に響いた部分について書きたいと思う。 稲垣さんは『毎日が投票日かもしれない』(2015年1月3日)というコラムの中で、このように書いている。 ~「選挙=民主主義」だとすれば、我々が力を行使できるのはせいぜい数年に一度です。主権者とおだてられながら、なんと空しい存在でしょう。 そんなある日、近所のおしゃれな雑貨店でこんな貼り紙を見たのです。 「お買い

箕輪厚介著『死ぬこと以外かすり傷』

この本の感想を一言で言うと、好きでやっている人には絶対に叶わないということだ。 尋常じゃない好きという気持ちだけで突っ走っている人が、更に走りやすくなれるツールとしての本だとも思う。 でも、そこまで狂人的・圧倒的なレベルの「好き」ではなくても、「好き」をどうにかしたいなあと思っている人に役立つ部分も大いにあると思う。 たとえば編集者になりたいのであれば、「今やる」しかない。編集者なんて資格も何もないのだから、今すぐホリエモンにツイッターで「今までの名言をまとめて電子書籍

花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

著者の花田菜々子さんは、ヴレッジヴァンガードに12年勤め、店長も経験した後に、現在までもずっと本の販売に関わる仕事をされているとのこと。 花田さんは私の3つ上。中学時代からサブカルと本が大好きで、大学生の時、初めて下北沢のヴィレッジヴァンガードに行った時から、そこで売っているものや独特のポップさにとても惹かれ、ついには下北沢に住むようになったそう。 私も恐らくだいたい同じ時期に、下北のライブハウスに足繁く通い、ヴィレヴァンも好きだったので、あの頃同じ空気を感じていたんじゃ

辻山良雄著『365日のほん』

2016年1月西荻窪にオープンした本屋『Title(タイトル)』の店主辻山さんの著書。 辻山さんは、ウェブサイトで、1日1冊「毎日のほん」を紹介していますが、この『365日のほん』は、それとは別に、季節・その月に合った365冊の本を選び直したものが1冊にまとめられています。 Titleのウェブサイトには、こんな文章がありました。 ジャンルは満遍なく取り揃えますが、特に力を入れるのは「生活」の本です。Titleでは生活を「人が〈よりよく〉生きていくこと」だと考えました。衣