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やわらかな強さ/もちはこび短歌(9)

文・写真●小野田光

スニーカーの親指のとこやぶれてて親指さわればおもしろい夏
陣崎草子春戦争』(書肆侃侃房、2013年)

 この歌に出会ったのは2014年のこと。書店で見つけた書肆侃侃房の短歌の無料冊子で陣崎さんの歌を知り、さっそく歌集『春戦争』を購入。そこで見つけたこの歌は、以来わたしの脳裏に住み着いて持ち運ばれることになった。
 一読して、この歌が好きになった。短歌は「おもしろい」ものを見つけたら、それをそのまま「おもしろい」と思った心で詠めばいいのだ。たとえ個人的な「おもしろい」であっても。そうすればただの「夏」も「おもしろい夏」になる。そういうことを教えてもらった一首だ。
 わたしはネガティヴなこともポジティヴに捉えなおすということを、無理のない範囲でやっていきたいと日々思っている。その理想がこの歌にはある。「スニーカー」が「やぶれて」しまうことはネガティヴなことだ。でも、そこでめげずに、飛び出た「親指」を「さわ」る。すると「おもしろい夏」を発見できる。この発想が生まれるやわらかくて強い心が好きだ。
 ほんとうに「おもしろい」と感じることを、どんどんアウトプットしていくことで、心のやわらかさも強さも磨かれてゆく気がする。わたしも見習いたいと、いつも思っている。

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3月22日(金)19時から
福岡の本屋さん&カフェ「本のあるところ ajiro」で、トークイベント「『蝶は地下鉄をぬけて』ともちはこび短歌のこと」を開催していただくことになりました。
「もちはこび短歌」を10首ご紹介し、その短歌の実生活における効用などもお話しする予定です(noteではご紹介していない10首をご用意するつもりです)。お近くの方、よろしければご来場くださいませ。お会いできること、たのしみにしています。
当日は20時からの「ajiro歌会」に、わたしも参加する予定です。
お申し込み(要予約)はこちらからどうぞ。

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