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忘れるのか、還るのか、思い出すのか、

「もうやめておいたら?トーマ」

「ほっといてくれよレム。俺たちから唯一の楽しみを奪う気か?なぁサラ」

「あんたと一緒にしないでよ。あたしは嗜むお酒が好きなの。あんたはただのアル中じゃない」

「まぁまぁ2人とも、それにレムも。別にいいじゃないか。トーマにはトーマの外し方があるのさ」

「外し方?何言ってんだナクル。俺は別にハメを外してるんじゃない、忘れたいんだ」

「うん、そうだね。僕もトーマがハメを外してるとは思ってないよ」

「"外す"ってなんなんだい?」

「レム、それじゃあ君はどんな時が一番気持ちよくて自分らしくいられると感じる?」

「えぇ、僕?そうだな。山や川で自然を眺めたり動物の声を聞いたりしている時かな」

「あらぁ、キレ〜な答えねぇ」

「そう言う君は?ライラ」

「そうね、私にとってそれは歌かもしれないわ。あなたは?エド」

「僕は自転車に乗ってる時かなぁ。走りながら考え事をするのが好き」

「じゃあ甘いものでもいいの?わたしは新しいお店を探したり大好きなものを食べるともう美味しいどころか気持ちよく感じたりするわ」

「リーファはほんと甘いものに目がないな。ロイは?」

「オレは体を思いっきり動かして飛び回っている時。サラは...踊りかな?」

「もちろん!あたしは踊ってる時。一番自分の体が思い通りに動いてるって気がする。あなたは?ケイト」

「僕は一人でいる時。一人で何も考えず、何もしていない時」

「そう、みんないろいろなんだ。体が喜び、生きていることを、自分であることを心地よく感じられる瞬間は」

「本当は皆、常にそうである状態が本来なのかもしれないし、何かに依存することなく手段やシーンを選ばずに常にその意識を持てたらそんなもの必要ないのかもしれない」

「だけど私たちは知性を持ち、社会の中で生きることを選んでしまった」

「選んだことで得られたものは大きくて、だんだん薄れていくその意識をどうにかして"元に戻す"、その行為をそれぞれ何かのツールを用いてやっているのかも」

「忘れたいのではなく、逆に何かを思い出す行為なのかもしれない」

「それが"外す"だ。日々気づかぬうちにまとって重たくなったしまったものから離れること」

「それが歌を歌うことだったり、体を動かすことだったりする。陽の光を浴びて本来の自分を取り戻せる人もいれば、何かを摂取したり、心を動かすことで思い出している場合もある」

「そう考えると酒はやっぱりずるいよ。食べるもそうだけど物を使ってるじゃない。それは本来と言えるの?」

「それを言うなら自転車だって物を使ってる」

「定義はそれぞれだけど、人によって一番身近な方法というのは違うかもしれないね」

「あたしの踊りとあいつを一緒にしないでよ。それにあたしは見る人に夢を与えているわ。あいつが酒を飲んだって何のためにもならないじゃない」

「一緒さ。その手段による二次的要素ではなく、己の意識を動かす手段という意味においてはね」

「じゃあ普段蓋をしていることに気づいていない人は?」

「意識的に選択する人もいれば、無意識的に選び取れる人もいる」

「どう感じたいのか、どう自分を表したいのか」

「無に帰りたいのか、それとも解き放たれたいのか、逃れたいのか」

「その意識はきっと楽しい半面、ここまで"考える"ことを常に行うようになった人間には普段の自分を手放す、解き放つ瞬間のようで怖いのかもしれない」

「だから"何かを忘れるように"という表現になったりするのかも」

「なぁ。お前らの考え方がぶっ飛んでて俺にはよくわかんねーよ、何言ってんの?」

「そんなことはない。一緒だよ」

「誰かが特別感覚が秀でているなんてことはなくて、きっともとは一緒なんだ」

「むしろ一番繊細な感覚を持っているのは君かもしれないよ。だからこそ君はいつも鉄の鎧をまとって生活をして、その荷を頻繁に下ろすために身近で手軽なものを用いることで、無意識のうちに対処しているのかも」

「そんな大それたことかなぁ」

「大それてなんかいない、自然なことさ。それぞれのルーツや環境、見てきたものや体が反応するポイントが今までの過程によって細分化されて、各々が自然と自分にそぐうツールや手段を選んでいるだけなんだ」

「言ってることはわからなくないけど、そんな考えに及ばなかったな」

「それでは僕の"手段"は言葉なのかもしれないね。今僕はとても心地良いもの。もともとの体に還るのに、一番今の手段に頼っているのは実は僕かもしれない」

「ねぇわかった。じゃあとりあえずみんなで海へいこうよ。そこで各々の感じることをやればいい」

「森でもいいし、山でもいいよ」

「歌って、何かを奏でて、踊って、飲み食いして、語って、自然と触れて?」

「確かに手段が違えどそこでそれが共有できたら、それってきっとすごく心地が良いかも」

「そう聞くと、ちゃんと人間は自然とその場を案外設けているのかもね」

「そうね、だってそんなことそこらじゅうでやってるじゃない」

「いや僕は無理だね。一人でいないと、"そこ"にはたどり着けない」

「そうか。じゃあ君とはここに還ってきた時に、また会おう」

「そうだね。一人の時にそうしたいか、考えておくよ」

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