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松井五郎さんにきく、歌のこと(月2回更新)

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松井五郎さんにきく、歌のこと 10通目の手紙「最後の質問」松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 10通目の手紙「最後の質問」松井五郎→水野良樹

水野良樹様

 この書簡もいよいよ最後になりました。この期間はそのままコロナ禍の一年と重なります。自由を奪われる形での自粛や延期に苦しい思いをしている仲間も多く、閉めざるをえなくなったライブハウス、職を変えなければならなくなった人たちも少なくありません。周囲がそんな状況の中で、この書簡を書く時間が、改めて「なぜ作るのか」を自身に問うた時間になったことは言うまでもありません。読み物として第三者がどれ

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松井五郎さんにきく、歌のこと 10通目の手紙「最後の質問」水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 10通目の手紙「最後の質問」水野良樹→松井五郎

松井五郎様

この手紙のやりとりも10通目になりました。

往復書簡として続けたこのやりとりは、新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の嵐のなかで交わされたもので、やがて振り返ったときに、この特殊な日々の空気を匂わせるものになっているのだと思います。まるでタイムカプセルのようで実は今から楽しみです。

歌と同じように、こうやって人と人とが交わし合った会話もまた、長い時のなかで雪が降り積もるように

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松井五郎さんにきく、歌のこと 9通目の手紙「僕らは”われわれ”のことを書いている」松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 9通目の手紙「僕らは”われわれ”のことを書いている」松井五郎→水野良樹

水野良樹様

 明るい兆しの見えない日々。また厳しい状況になってしまいましたね。ライフラインの順列で言えば、音楽は優先順位が高くはないのかもしれませんが、それを生業としてる人たちの悲鳴も、他の業種の人たち同様、絶えることはありません。必要な所に声が届いていない気がします。一方で、苦しい状況にあっても頑張っているアーティストの歌声には励まされます。一日も早く、暗雲から光射すことを願うばかりです。

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松井五郎さんにきく、歌のこと 9通目の手紙「僕らは”われわれ”のことを書いている」水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 9通目の手紙「僕らは”われわれ”のことを書いている」水野良樹→松井五郎

松井五郎様

 また嵐がやってくる。
 テレビでも散々にそう言っていましたし、市井においても、みんな口々にそんな話はしていましたから、重々わかっていたはずなのですが、いざ実際に跳ね上がっていく感染者数、悪化していく医療現場の状況、それにともなって社会全体が憂鬱な雲に覆われていくこの感覚…それらを目にし、肌に感じると、どうにも戸惑ってしまうものです。

 春に緊急事態宣言が出された頃に巻き起こってい

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松井五郎さんにきく、歌のこと 8通目の手紙「あなたが、あなたの言葉を手にするために」松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 8通目の手紙「あなたが、あなたの言葉を手にするために」松井五郎→水野良樹

水野良樹様

 梢だけはいつもの年と変わらず秋の気配を湛えているのに、街は未だどこか重々しい空気に沈んでいます。水野君の書簡にあった、季節の移り変わりのグラデーションさえ、日々更新される数字のせいで、暗色へ流れていくようにも思えます。コロナ禍のせいもあるのでしょうか、これまでの仕事とは変わってしまった加重に生活のペースを乱してしまい、返信の期日を守れず申し訳ありません。水野君はお変わりありませんか

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松井五郎さんにきく、歌のこと 8通目の手紙「あなたが、あなたの言葉を手にするために」水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 8通目の手紙「あなたが、あなたの言葉を手にするために」水野良樹→松井五郎

松井五郎様

かなり厚手の上着を羽織っていないと街を出歩けないような日も増えてきました。
夏から冬へのあいだに、なだらかなグラデーションとして色“暖か”にあるはずの秋が、この頃はどうも簡単に飛び越えられてしまっているようです。これまで秋の名曲は数えきれないほどにあるわけですが、少し拗ねたように言ってみれば、ちょっと物語にしにくい季節になってしまったのかもしれません。

いささかこじつけが過ぎるかも

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松井五郎さんにきく、歌のこと 7通目の手紙 「書く道具、書かれた道具」松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 7通目の手紙 「書く道具、書かれた道具」松井五郎→水野良樹

水野良樹様

 数字は未だ安心とは言えませんが、街は少しずつ日常を取り戻しつつあるようです。ただ、撤退せねばならなくなった店も目につき、空き家になったテナントのウインドウが映し出す現実は、胸に迫るものがありますね。そこに集った人々はどこでどうしているのでしょうか。そこにはどんな歌が流れているのか?水野君の周囲も変化の時かもしれませんが、創作とどう向かい合っているのでしょうか?

 さて、貴重な画像

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松井五郎さんにきく、歌のこと 7通目の手紙 「書く道具、書かれた道具」水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 7通目の手紙 「書く道具、書かれた道具」水野良樹→松井五郎

松井五郎様

本来であったら、まもなく訪れる9月19日にいきものがかりはアリーナツアーを始めるはずでした。予定されていたアリーナツアーの公演はすべて中止となり、旅に出ることもなく東京で過ごす日々ですが、何かできることはないかと試みた様々な施策のひとつとしてオンラインでのライブフェスを今準備しています。

思いを込め、ツアーの初日であった9月19日に行います。そのためここ数日はリハーサルスタジオに詰

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松井五郎さんにきく、歌のこと 6通目の手紙 「契機となった“決定的な作品”」 松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 6通目の手紙 「契機となった“決定的な作品”」 松井五郎→水野良樹

水野良樹様

 相変わらず良い見通しが立たない毎日ですが、日々示される様々な数字に少し鈍感になってきたような気がします。音楽産業も厳しい状況に変わりありません。しかし、経済的にも誰もが厳しいはずなのに、音楽を支えてくださるファンの人たちには感謝しかありませんね。まだまだ戦いは続きそうです。頑張りましょう。

 さて、水野君が接してきた音楽は僕も同時代的に体験してきたものも多く、時に送り手として関わ

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松井五郎さんにきく、歌のこと 6通目の手紙 「契機となった“決定的な作品”」 水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 6通目の手紙 「契機となった“決定的な作品”」 水野良樹→松井五郎

松井五郎様

時代の変化のなかを松井さんがどのように歩んでこられたのか。
頂いた返信につづられた数十年の音楽シーンの変遷はさながら絵巻物のようでした。次々に現れる音楽界の登場人物たちや巻き起こる社会状況の変化を落ち着いた筆致で紹介していきながら、それでいて、ただの歴史記述にならないのは松井さんご自身が書き手として、当事者のひとりとして、そのただなかに身を置いていたからに他ならないと思います。
 松

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松井五郎さんにきく、歌のこと 5通目の手紙 「器と水と、そして変わりゆくものと」 松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 5通目の手紙 「器と水と、そして変わりゆくものと」 松井五郎→水野良樹

作詞家の松井五郎さんに、水野良樹がきく「歌のこと」。
音楽をはじめた中学生の頃から松井五郎さんの作品に触れ、強い影響を受けてきた。
もちろん、今でも憧れの存在。
そんな松井五郎さんに、歌について毎回さまざまな問いを投げかけます。
往復書簡のかたちで、歌について考えていく、言葉のやりとり。
歌、そして言葉を愛するみなさんにお届けする連載です。

5通目の手紙「器と水と、そして変わりゆくものと」
松井

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松井五郎さんにきく、歌のこと 5通目の手紙 「器と水と、そして変わりゆくものと」 水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 5通目の手紙 「器と水と、そして変わりゆくものと」 水野良樹→松井五郎

作詞家の松井五郎さんに、水野良樹がきく「歌のこと」。
音楽をはじめた中学生の頃から松井五郎さんの作品に触れ、強い影響を受けてきた。
もちろん、今でも憧れの存在。
そんな松井五郎さんに、歌について毎回さまざまな問いを投げかけます。
往復書簡のかたちで、歌について考えていく、言葉のやりとり。
歌、そして言葉を愛するみなさんにお届けする連載です。

5通目の手紙「器と水と、そして変わりゆくものと」
水野

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松井五郎さんにきく、歌のこと 4通目の手紙
「新しい物語を書くこと」
松井五郎→水野良樹

松井五郎さんにきく、歌のこと 4通目の手紙 「新しい物語を書くこと」 松井五郎→水野良樹

2020.06.29

作詞家の松井五郎さんに、水野良樹がきく「歌のこと」。
音楽をはじめた中学生の頃から松井五郎さんの作品に触れ、強い影響を受けてきた。
もちろん、今でも憧れの存在。
そんな松井五郎さんに、歌について毎回さまざまな問いを投げかけます。
往復書簡のかたちで、歌について考えていく、言葉のやりとり。
歌、そして言葉を愛するみなさんにお届けする連載です。

4通目の手紙「新しい物語を書く

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松井五郎さんにきく、歌のこと 4通目の手紙
「新しい物語を書くこと」
水野良樹→松井五郎

松井五郎さんにきく、歌のこと 4通目の手紙 「新しい物語を書くこと」 水野良樹→松井五郎

2020.06.15

作詞家の松井五郎さんに、水野良樹がきく「歌のこと」。
音楽をはじめた中学生の頃から松井五郎さんの作品に触れ、強い影響を受けてきた。
もちろん、今でも憧れの存在。
そんな松井五郎さんに、歌について毎回さまざまな問いを投げかけます。
往復書簡のかたちで、歌について考えていく、言葉のやりとり。
歌、そして言葉を愛するみなさんにお届けする連載です。

4通目の手紙「新しい物語を書く

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