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『瞬く命たちへ』<第6話>クリスマスの行方 それぞれのプレゼント

 ラブラブなカップル二組に刺激的な場面を見せつけられた僕は、鈴音ちゃんと二人でクリスマスパーティーから逃げるように抜け出した。
「瞬音たち、すごかったね…。」
「うん…。いくらバツゲームとは言え、私たちがいても、あんなことできるなんてね…。私たち、ゲームに勝ったはずなのに、あんなシーン見せられて、まるで逆にバツ受けてるみたいよね。」
「たしかに、僕らの方がバツゲームさせられてるみたいだったね。」
帰り道、鈴音ちゃんと二人で歩きながら、そんなことを話していると、
「光くんも…男子だからやっぱりああいうことは興味あるの?」
彼女からきわどい質問をされてドキっとしてしまった。
「ぼ、僕は別に、ああいうことはまだ興味ないかな…。」
まさか好きな子に、自分もエッチなことに興味があるなんて言えるわけもなく、はぐらかした。
「そうなんだ。それなら良かった。光くんみたいに落ち着いてる人の方が私は安心できるから。」
それって僕のこと、多少は好意を持ってくれているのかなと心の中で喜んでいると、ちらほら雪が降り始めた。
「雪…降って来たね。風邪引くといけないから、早く帰ろう。」
「うん、そうね。」
分かれ道に差し掛かった時、彼女は僕に何かを差し出してくれた。
「あのね、良かったらこれ、光くんがもらってくれない?ほら、みんなでプレゼント交換することになってたから準備したんだけど、結局使わなかったから…。」
みんなで交換したら、誰のプレゼントが当たるか分からなかったけれど、先に二人で帰ったおかげで思いがけず、鈴音ちゃんのプレゼントをもらえることになった。
「ありがとう、うれしいよ。僕の用意してたプレゼントは鈴音ちゃんがもらってくれないかな。」
誰に当たるか分からないのに、読書家の鈴音ちゃんに渡せたらいいなと思って、僕は本を用意していた。
「うれしい。ありがとう。じゃあ遠慮なく、光くんのプレゼントは私がもらうね。これって、もしかして…本?」
彼女はプレゼントの厚さや重みから中身を言い当てた。
「そう、当たり。鈴音ちゃんは読書家だから、もしかしたら持ってる本かもしれないけど…。」
「ううん、持っている本だとしてもうれしいわ。大切にする。私のプレゼントはね、スノードームなの。」
「そっか、ありがとう。これはスノードームなんだね。僕も大事にするよ。」
雪のちらつく中、プレゼント交換した僕らは笑顔でそのまま別れた。こんな時、幸人や瞬音だったら、彼女にキスくらいするんだろうけど、僕の場合、鈴音ちゃんとはただの友だちだから、そんな真似できるわけがなかった。でも好きな子とプレゼント交換できただけでも、小学生レベルの恋しかできない僕にとっては十分だと思えた。バツゲームのおかげで、クリスマスイブにわずかでも鈴音ちゃんと二人きりの時間を過ごせて、僕は幸せだった。
 
 お説教する芽久実先生が帰った後、俺たちは六人でクリスマスパーティーを再開していた。
「さて、芽久実先生も帰ってしまったことだし、残っているのはカップル三組だけだし、気兼ねなくパーティーを楽しもうか。」
さっきまで芽久実先生や香ちゃんに浮気していた命汰朗は結椛ちゃんにべったりくっつきながら、パーティーをしきり始めた。
「そうね。ちょっと想定外のこともあったけど、これからがパーティー本番ね。カードは没収されてしまって、さっきのゲームはもうできないし、何する?」
「命汰朗やナオリンさんはエッチなことばかりしようとするから、とりあえずほら、プレゼント交換しない?」
結椛ちゃんが命汰朗を自分から引き離しながら、提案した。
「そうだね、プレゼント交換がいいよ。高校生らしい健全なパーティーをしよう。」
俺も隙あらば俺の腕に胸をくっつけてくるナオリンを遠ざけながら、結椛ちゃんの話に乗った。
「そう言えば、プレゼント交換用のプレゼント持ってきてねって言われてたっけ。」
香ちゃんと幸人くんもラッピングされたプレゼントを各々の鞄から取り出した。
「じゃあまずは結椛の提案通り、プレゼント交換しようか。」
「ちょっと、命汰朗、さっきからしきろうとするのやめてくれない?これは私たちが主催してるパーティーなんだから。」
ナオリンと命汰朗は時々険悪なムードになるものの、テーブルの上にそれぞれが用意したプレゼントを置いた。そしてくじ引きして各自にプレゼントが渡った。
 
 俺は、手作りリースと手作りクッキーが入ったプレゼントを引き当てた。手作り系だから女の子からのプレゼントだなと思った。
「そのリースね、クリスマス用に見えるけど、裏返すとお正月飾りにもなるリースなの。」
そう説明してくれたのは結椛ちゃんだった。やった、俺は結椛ちゃんのプレゼントをゲットしたぞと心の中で喜んでいた。
「そうなんだ、お正月まで使えるなんて便利だね。ありがとう。」
結椛ちゃんが当てたのは俺のプレゼントだった。
「私のは…かわいいお人形。誰からのプレゼントかな。」
そのドールは俺が用意したプレゼントとは言いにくくて黙っていた。
「私のはねーあっ、マフラーだ!長いから瞬音と二人で使えるね。」
ナオリンはマフラーを自分の首と俺の首にくるくる巻き付けた。
「ちょ、ちょっとナオリン、こんなところでやめてくれよ…部屋の中じゃ暑いし…。」
「そっか、じゃあ外歩く時、一緒に使おうね。」
ナオリンは上機嫌で微笑んだ。
「私のプレゼントはナオリンちゃんに当たったのね。私も中、開けてみようっと。」
そう言いながら香ちゃんが開けた小さな箱から出てきたものは…。
「えっ、ちょっと、待って…これって…。」
それは明らかに大人のおもちゃだった。
「俺からの愛のこもったプレゼントは香ちゃんが引き当ててくれたんだね。うれしいな。幸人くんとどこまでしてるのか知らないけれど、もしも幸人くんじゃ満足できない時は、是非それを使って。それでも満足できない時は…俺が香ちゃんを喜ばせてあげるよ。それも含めて俺からのプレゼントだから。」
恥ずかしがることを知らない命汰朗はウィンクしながら、香ちゃんに説明していた。
「ちょっと、命汰朗くん、さっきから俺の香にちょっかい出すのやめてもらえないかな。そんなプレゼントは香には必要ない。そうだ、俺がもらったプレゼントと交換しよう。」
また不機嫌になった幸人くんも自分のプレゼントを開けてみると…。
「これって…女物の下着?」
かわいらしい袋の中からセクシーな下着が飛び出した。
「あっ、ごめんね、それは私からのプレゼント。まさか男の子に当たるとは考えてなくて…。」
そのプレゼントの主は予想通り、ナオリンだった。
「なんか…命汰朗もナオリンさんもエロおやじみたいな趣向よね…。」
結椛ちゃんは幻滅しているような表情だった。
「いーじゃん、大人のおもちゃもセクシー下着も、大人になってからでも使えるものだし。利用価値あると思うよ。俺はふざけているわけじゃなくて、真面目に考えて選んだんだからさ。」
命汰朗は大真面目に言い切っていた。
「まぁ…別にいいけど…。この下着は香にあげるよ。だからそのおもちゃは俺にちょうだい。」
「えーどっちも私が持ってていいでしょ?両方、幸人と会う時にだけ使うから。」
結椛ちゃんと違って、香ちゃんはどちらのプレゼントも喜んでいる様子だった。
「仕方ないな…じゃあ俺と会う時にだけ使ってよ。一人で使うのは禁止だよ。」
「うん、分かってる。」
って、二人の会話から察すると、二人はもうそういうことしてるってこと?さすが、俺たちみたいに偽カップルとは違って、本物のカップルは違うなと少し感心してしまった。
「さて、俺のプレゼントは何だろう…けっこう重みがあるな。」
命汰朗が開けた箱の中には二つのマグカップが入っていた。
「ペアのマグカップか。誰からのプレゼントか分からないけど、ありがとう。結椛と二人で使わせてもらうよ。」
おそらくそれは幸人くんからのプレゼントで、無言の彼は、よりによって命汰朗くんに当たったのか…というような微妙な顔つきをしていた。
 
「プレゼント交換も終わっちゃったし、ケーキとか食べながら、みんなでカラオケしようか。」
そう言って、ナオリンはいつの間に準備したのかマイクと家庭用のカラオケ機器を広げた。
「このアパートは私たちの他に住人はいないし、少しくらい大声出してもきっと平気だから。瞬音、私と一緒にデュエットしよう。」
すっかり忘れていたけれど、この世界は両親の高校生時代という過去だから、カラオケから流れてきた曲はどこかで聴いたことのある程度のよく知らない懐メロだった。
「えっ、俺…こんな曲、あまり知らないんだけど…。」
「いーから。私が歌うから適当に合わせてくれたら大丈夫。」
なかなか歌唱力のあるナオリンは曲に合わせて、まるでアイドルのように流暢に歌っていた。
「ナオリンちゃんたちの次は、私たちがデュエットしよう。私たちがいつも一緒に歌ってるあの十八番を。」
香ちゃんと幸人くんもその気になって、今流行しているというラブソングを歌い始めた。俺からすれば少しだけ聴き覚えのあるやっぱり古い曲だった。
「じゃあ、次は俺たちの番だな、結椛。」
命汰朗も強引に結椛ちゃんを誘うと、懐かしいデュエットソングを歌い出した。俺と同じ時代から来た結椛ちゃんも古い選曲に少し戸惑っている様子だった。
「なんか、デュエットばかりじゃあ、行ったことないけど、スナックとかバーみたいじゃない?歌いたい人たちがソロでも歌えばいいよ。」
ナオリンに付き合わされてばかりで少しくたびれた俺は休憩しながら、同じく疲れた様子で休憩していた結椛ちゃんと二人きりで小声で話し始めた。
「昔の曲ばっかりで、よく分かんなくてさ。」
「私も。そう言えば昔、親たちがカラオケでよく歌ってた曲かもって思った。」
俺たちをよそに、命汰朗は香ちゃんともデュエットしようとしていて、また幸人くんから、にらまれていた。
「そう言えば、今さらだけど、幸人くんと香ちゃんは結椛ちゃんの親ってことになるよね。仲良しなんだね、結椛ちゃんのご両親。てか娘からすれば、親たちのいちゃつく姿なんて見たくないか。」
俺は仲睦まじい結椛ちゃんの両親になるはずの二人を遠目に見つめながら言った。
「仲…良かったみたいね。たしかに親たちがいちゃつくところなんてそんなに見たくないけど、でも険悪な二人よりはマシかも。」
結椛ちゃんはなぜか少し寂しそうに微笑んだ。
「もしかして…今、ご両親がうまくいってないの?だから消えたいなんて思ってるとか…?」
彼女は俺の質問に答えることなく、少し沈黙すると、話題を変えた。
「瞬音くんのご両親になるはずの、光くんと鈴音ちゃんは健全な高校生よね。うちの両親も瞬音くんのご両親みたいだったら、良かったのかも。」
同じ室内にいるはずなのに、マイクを奪い合うように楽しそうに歌い続けている四人と俺たち二人はまるで違う世界にいるみたいだった。
「ねぇ、私たちもデュエットしましょうか。」
結椛ちゃんが突然そんなことを言って俺の手を取った。
「えっ?俺と?」
「うん、だって今、この世界にいて一番、私のことを理解してくれるのは、瞬音くんの気がしたから。」
彼女にそんなことを言われてうれしくなった俺は、よく知らない曲なのに、彼女と二人で歌い始めた。
「瞬音、俺の結椛と二人でひそひそ話した挙句、デュエットするなんていい度胸してるな。」
命汰朗からにらまれてしまったけれど、結椛ちゃんと少し通じ合えた気がして幸せだった。
「おまえの方こそ、結椛ちゃんだけじゃなくて香ちゃんにも手出してるじゃないか。」
「そうだよな、瞬音。命汰朗にもっと言ってやってくれよ。」
命汰朗のおかげで幸人くんとも親しくなれた気がした。
「男子たち、ケンカばかりしないで仲良くこれ食べて。」
ナオリンが用意してくれたクリスマスのご馳走を食べながら、みんなで笑い合っていたら、何のためにこの世界にタイムスリップしてきたのか、分からなくなったし、気にならなくもなった。このおかしな時間が永遠に続けばいいとさえ思い始めていた。俺の両親をくっつけるとか、結椛ちゃんの両親を引き離すとかそんなことをナオリンや命汰朗が忘れて、ただみんなで過ごせるこの幸せな時間を一秒でも長く、満喫できたらいいのにと思うようになった。
 
 あのクリスマスイブから四日過ぎた、12月28日。今日は一般的に仕事納めの日だから、今年最後の仕事として、あの子たちの様子を見に行ってもいいよね…と思い立った私は、七緒鈴さんと瞬音くん、命汰朗くんと結椛さんが住むアパートに向かっていた。命汰朗くんたちが住むアパートに行けると思うと、なぜかうきうきしてしまう自分がいることに気づいた。あの日、命汰朗くんにキスされて抱きしめられて以来、彼のことを意識してしまうようになったせいかもしれない。転校してきた当初から気になる存在ではあったけれど、さらに興味が湧いてしまったというか…。時間があれば、芽生太より、命汰朗くんのことを考えてしまうようになっていた。担任なのに、こんな気持ちになってはいけないのに、これじゃあまるで彼に心を奪われてしまったみたいだ。
 
 「七緒鈴さん、瞬音くん、こんにちは。」
チャイムを鳴らし、まずはその二人が住む部屋に足を運んだ。
「あれ?芽久実先生。いらっしゃいませ。」
出迎えてくれた七緒鈴さんはなぜか裸にエプロン姿だった。
「ちょ、ちょっと、七緒鈴さん、なんて格好してるの。裸にエプロンなんて…。」
「裸じゃないですよ、ちゃんと下着はつけてますから。」
よく見るとたしかに下着はついていた。
「下着をつけていればいいってことではありません。そんなの裸も同然です。」
部屋の奥から瞬音くんも顔をのぞかせた。
「芽久実先生…言っておきますが、俺が彼女に強要したわけではありませんから。ナオリンが勝手にそんな格好しているだけで…。」
「だって今、持ち合わせの洋服、全部洗濯しちゃってるから、この格好しかできないんだもん。」
「学校の制服があるでしょ?」
私がそう尋ねても、彼女は
「制服はクリーニングに出してしまいました。」
と言って笑っていた。
「服なら俺の服貸すって言ったのに…。」
「ねぇ、瞬音、ちょっと冷えてきたから、布団にもぐって抱きしめてくれない?風邪ひいちゃう。」
七緒鈴さんは私の存在なんてお構いなしにそんなことまで言い出した。
「いくらご両親に認められているとは言え、まさかあなたたち…二人で寝てるわけじゃないでしょうね…。」
よく見ると、部屋にはひとつのベッドしか置かれていなかった。
「俺は一人で眠りたいのに、ナオリンが勝手に布団の中に入ってくるんですよ。」
「いいじゃない、別に一緒に寝るくらい。私たちは赤ちゃんができるようなことはできない運命だもの…。」
赤ちゃんができるようなことって…七緒鈴さんにはやっぱり厳重に注意しないといけない。いくら瞬音くんにその気がなくたって、彼女の方が積極的みたいだから、この二人の間に何が起きてもおかしくない。七緒鈴さんに大学生の頃の私のような思いはさせたくない。
「あのね、七緒鈴さん。あなたは少し性に関して開放的すぎるから、もう少し女性の自覚を持って、おしとやかに恥じらわないと。あなたの身体に何か異変が起きてからでは遅いのよ。もう少し、自分自身を大事にしてね。」
「芽久実先生、何を心配してるのか分かりませんが、私なら大丈夫です。瞬音とは恋人同士だけど、絶対結婚できない運命だから、そんなことにはなりません。」
「結婚できない…?それならなおさら瞬音くんとは距離を取らないと。いずれ悲しい思いをするのはあなたなのよ、七緒鈴さん。」
「先生、心配しないでください。私は瞬音が幸せになることを一番に願っているから、たとえ自分がどうなろうと構わないんです。」
七緒鈴さんが瞬音くんのことを愛していることが十分分かったら、彼女を注意していたはずなのに、話に入って来ようともしない無関心な瞬音くんに対しても叱りたくなった。
「七緒鈴さんの一途な気持ちはよく分かったわ。瞬音くんはどうなの?七緒鈴さんのこと、ちゃんと大事にしてる?これからも大事にできる?」
「俺は…ナオリンの言われる通りにしているだけで…。大事にしてると思います。」
彼の歯切れの悪い態度に少しいらっとしてしまった。
「まだ高校生だけど、身体は大人なんだから、くれぐれも間違いのないように。この前も言ったけど、節度ある交際をするようにね。」
「分かってます。私たちなら大丈夫ですよ、先生。安心してください。」
七緒鈴さんはそんなことを言いながら、裸エプロンのまま、瞬音くんに抱きついた。この子、全然、分かっていないんじゃないかしら…と不安を覚えながら、彼女たちの部屋を後にした。
 
 そして隣の命汰朗くんたちが住む部屋のチャイムを鳴らした。すると返事はなく、留守のようだった。せっかく来たし、少しだけ待ってみようと、私はアパートの近くをうろうろしていた。四日前に訪問したばかりだし、別に今日家庭訪問する必要はないじゃないかと冷静に考えつつも、なぜか一目彼に会っておきたい気持ちに襲われ、私はしばらく待ち伏せしてしまった。すると手をつなぎながら、買い物袋を抱えた二人が帰ってきた。
「あれ?芽久実先生?本当に抜き打ちでまた来てくれたんですね。うれしいな。」
命汰朗くんがいつものように少し影のある笑顔でニコニコしながら近づいてきた。
「先生、こんにちは。どうぞ、中に上がってください。」
結椛さんもいつものようにしっかり挨拶してくれた。
 
二人の部屋に招かれた私は、命汰朗くんにある物を渡した。
「本当はこの前来た時に渡したかったんだけど…七緒鈴さんたちの部屋でドタバタしたおかげで、忘れてしまって…。命汰朗くん、お誕生日だったじゃない?だから、おめでとう。」
密かに私は彼のために誕生日プレゼントを用意していた。
「えっ?先生が俺に誕生日プレゼント?うれしいなぁ。誕生日覚えていてくれてありがとうございます。開けてみてもいいですか?」
彼はうれしそうに包みを開けて中を確認した。
「これは…もしかして、来年のスケジュール帳ですか?」
「たいしたものじゃなくてごめんなさいね。でも命汰朗くんはちょっと現実離れしているというか、もっと真剣に将来のことを考えてほしいから、それにしたの。いよいよ三年生になるんだから、進路のことも真面目に考えないとね。」
彼はスケジュール帳を見ながら、くすくす笑い出した。
「さすが、道を踏み外さずに正しい道を歩み続けている芽久実先生らしいチョイスですね。分かりました。プレゼントされたからには、少しは真面目に進路のことも考えますよ。そうだ…俺もほんとはあの日、先生に渡したいものがあったんだ。」
そう言って、立ち上がった彼は押し入れから何かを取り出した。
「これ、芽久実先生にクリスマスプレゼントです。クリスマス過ぎちゃったけど…。」
まさか彼からプレゼントをもらえるなんて考えてもいなかった私は心の中で喜んでしまった。
「えっ?命汰朗くんが私にプレゼントを準備してくれていたの?ありがとう。うれしいわ。」
開けてみると中に入っていたものは、私が集めているキャラクターのぬいぐるみだった。
「少し子どもっぽいかもしれないけど、俺の好きなキャラクターなので良かったら部屋に飾ってください。」
「実は私もこのキャラクターが大好きなの。本当にありがとう。」
「気に入ってもらえたなら、良かった。」
彼は満足そうに微笑んだ。
 
「ところで、先生の誕生日はいつですか?もらったスケジュール帳に最初に書くのは先生の誕生日にしようと思って。」
彼はそんな風に私に誕生日を尋ねた。
「先生の誕生日より、結椛さんの誕生日を先に書くべきじゃないの?」
「結椛の誕生日なら、書くまでもなく、頭の中に入ってますから。」
「そうなの、さすがね。私の誕生日は、9月12日よ。」
「えっ、なんだ、そうなんですか。結椛の誕生日と同じ日か…。やっぱり運命感じちゃうな。その日なら忘れないけど、でも一応ちゃんと書いておこう。」
そう言って、彼は来年の9月12日の欄に私の誕生日を記入してくれた。
 
 それから二人と少し話をして、「良いお年を」と言って帰った。命汰朗くんは「来年もまたいつでも来てくださいね。待ってますから。」と笑って手を振っていた。
 
 「ねぇ、命汰朗…この前、芽久実先生が来てくれた時に気づいて、ずっと聞きたいことがあったんだけど、聞いてもいい?」
「もちろんいいよ。結椛が聞きたいことは心を読めば分かっちゃうけど、あえて読まないから。」
芽久実先生が帰った後、神妙な表情をした結椛が俺にそう尋ねてきた。
「命汰朗と芽久実先生ってどこか似てる気がして…気のせいかもしれないけど…。命汰朗がずっと恨んでるあなたのお母さんってもしかして…。」
「さすが、結椛は鋭いね。その通りだよ。俺が憎んで仕方ない母親は、俺を存在させて産まなかった母親は…芽久実先生だよ。」
彼女にバレるのは時間の問題だろうと思っていた俺は隠すことなく打ち明けた。
「やっぱり…芽久実先生だったんだ…。だから命汰朗はいっつも芽久実先生に突っかかっていたんだ…。」
「ただ不幸にさせるのではおもしろくないからね。少し幸せを味わわせてから、その後、どん底へ突き落すつもりだよ。」
「うぁ、ひどい息子。命汰朗ってやっぱりちょっと歪んでるよね。私もそうだけど。」
「今日渡したプレゼントだって、ただのプレゼントじゃないよ。あのぬいぐるみには魔法を仕掛けているから、部屋に置いてくれれば室内を見渡すこともできる。それにぬいぐるみを操って、動かしたり、彼女と話すことだってできる。あくまで動くぬいぐるみとしてね。」
「盗撮や盗聴みたいなことができるぬいぐるみってこと?あんなほのぼのしたキャラクターなのに、やろうとしてることはえぐいのね。」
「何しろ俺は、ちょっと悪い方の命の使いだからねぇ。悪のへその緒の化身というか…。母親を懲らしめるにはまずは彼女の暮らしぶりを偵察しないとね。学校にいる時だけじゃ、彼女の本当の姿は分からないから。」
魔法入りのぬいぐるみをターゲットに渡せた俺は、第一関門のミッションを達成できた良い気分で、結椛と二人きりの年の瀬をまったり過ごしていた。
 
 一方、瞬音とナオリンは…。
「あのさ…服なら俺のドールの服がたくさんあるから、それをまた魔法で大きくして着ればいいじゃないか。そもそもナオリンは魔法が使えるんだから、洋服なんていくらでも出せるはずだろ。いつまでそんな格好でうろうろしてるつもり?本当に風邪ひいちゃうよ?」
下着にエプロン姿の彼女を直視できない瞬音はうつむきかげんで彼女に言った。
「瞬音、ありがとう。私のことを心配してくれるなんてうれしい。でも前にも言ったけど、魔法はたやすく使うものじゃないし、これくらい平気だから。さっきは先生もいたから風邪ひいちゃうなんて言ったけど、実はね…命の使いって半分死んでる存在というか、本当はすでに死んだ存在に生を与えられてるだけだから、どんなことをしても病気にもならないし、怪我もしないの。簡単に言えばお化けと同じかな。命の使いの命は神さまに委ねられていて、魔法を使いすぎたり、掟を破ったりすれば存在を消されることもあるけれど、人間の力で死ぬことはないのよ。だから本当は冬でも裸で過ごせるの。」
「えっ?そうなの?病気にもならないし、怪我もしないなんてすごいな…。丈夫な存在なんだね。でも神さま次第で消されてしまうとかちょっと怖いね…。」
「よっぽどのことを仕出かさない限り、あっさり消されることはないから、心配しないでね。私は一秒でも長く、この世界で瞬音と二人の時間を過ごしたいもの。」
ナオリンはそう言いながら裸エプロン姿のまま、彼にひっついた。
「そんな格好でくっつこうとするの、ほんとにやめてくれないかな…。」
瞬音は意に反して反応してしまう下半身を必死におさえていた。
「いつもごめんね、そんな風にさせちゃって…。でも私、瞬音のことが本当に大好きだから、離れたくないの。ずっとつながっていたいの。中に入れてもらえない分、せめてぎゅっとしてたいの。」
「分かったから…じゃあせめて服を着て、そうしてくれる?」
観念した様子の彼はため息を吐きながら彼女に言った。
「服さえ着てればぎゅっとしてていいの?ありがとう、瞬音。じゃあお人形の洋服借りるね。」
「結局、ドールの服を魔法で大きくするのか…最初からそうすればいいのに…。」
ぶつぶつ瞬音がつぶやいているうちに、彼女が選んだ服は…。
「って、何でスクール水着?」
「えっ、これってタイトな洋服じゃないの?フィットするし着心地良くて私、気に入っちゃった。」
ナオリンは悪びれる様子もなく、スクール水着姿で瞬音の腕にしがみついて離れなかった。

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