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親が楽しむ「読み聞かせ絵本」10選!

この投稿を「おカネの教室」を担当してくれたミシマ社の編集アライと、すべての子育て世代の方々に捧げます。
がんばれ、パパ&ママ!

「もう1回読んで」無間地獄

小さな子どもがいる親御さんなら同意していただけると思うが、「絵本の読み聞かせ」というのは、時になかなかの苦行である。
膝に子供を載せて、あるいは布団でごろごろ寝転がって、一緒に本を読んで、一緒に笑って、子どもの反応に成長を感じる。
おむつ替えたり、ミルクやご飯あげたり、病院連れて行ったりといったパートに比べれば、「読み聞かせ」は子育てのなかではラクチンで、楽しい部分なのは認める。醍醐味の1つと言っても良い。

しかし、何事にも「ほど」というものがある。
春から中・高・大と、もうでっかいけど、高井三姉妹は本が好きなチビッ子たちだった。
面白い本を読んであげると、すぐ「もう1回読んで!」とせがまれる。
「お気に入り」は余裕で数百回、モノによっては私と奥様で累計4桁に達する回数読んだと思われる。
もう、これはほぼ、読経だ。苦行という表現に語弊があるなら、修行と言い換えても良い。

この無間地獄の負担を少しでも軽減するため、数百冊の絵本を読んだ(図書館とか入れて、ね。買ったのは100冊ぐらいだと思う)経験から、おすすめの10冊を紹介したい。

先にお断りを。
以下のベスト10は「オトナが何度も読んで楽しい」という視点で選んでいる。情操教育だとか、英才教育だとか、そんなものは知ったことではない。
でも、どれも面白い。子どもにもウケる。結果、苦行の負担が減る。そういうラインナップである。ナンバリングは「オススメ順」ではない。
では、参りましょうか。

1.「めがねうさぎ」 せな けいこ

「読み聞かせ道」は、せなけいこから始まる。否、始まるべきである。
私は知人に子供が生まれると、ちょいちょい、この4冊入り2セットをプレゼントする。

そして、こう言い添える。
「あなた、これ、それぞれ100回ずつ読む羽目になるから
私自身、三姉妹合計でシリーズ累計数百回を軽く超えるレベルで読んでいる。
何冊かは暗唱できると思う。「もじゃ もじゃ」でためしてみよう。

もじゃもじゃはなあに
おにわのき
うちのコロ
ほどけたけいと
もっともっとすごいの ルルちゃんのあたま
うえきやさんがチョキチョキ
コロもチョキチョキ
けいとはまきましょう
ルルちゃんは?
やっぱりチョキチョキ
かがみにうつったきれいなこ だあれ

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(修復に修復を重ねた我が家の「もじゃ もじゃ」)

ひらがな・カタカナ表記以外は完璧である。「ねないこだれだ」も「いやだいやだ」も行けると思う。この定番は「マスト」として、私がオススメしたいのは「めがねうさぎ」である。

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夜になってメガネをなくしたのに気付いたうさぎが、昼間に遊んだ山に探しにいくと、そこには誰かを驚かそうと待ち構えていたおばけがいて……という筋立てで、オチはあるけど、なんの教訓もない。
それがいい。

なにも考えず、ゆるふわなストーリーと、ヤマ場とも言えないシーンで繰り出される「べろべろ、ばあー」を、せな先生のご指示通り、「おおきなこえで」読むだけで、頭を空っぽにして楽しめる。
意味など不要なのだ、読み聞かせに。

どうでもいいが、この「おおきなこえで、べろべろ ばー」は、いまだに退屈なときにふと叫ぶ、私の口癖だ

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「せなワールド」の2大スター、めがねうさぎとおばけの競演モノには「おばけのてんぷら」もある。こちらも素晴らしくくだらない。超オススメ。

2.「11ぴきのねこ ふくろのなか」 馬場のぼる

巨匠・定番続きで恐縮だが、馬場のぼる先生も外せない。略歴や親しかった手塚治虫とのエピソードなどはWikipediaをご参照のこと。

馬場のぼるといえば、「11ぴきのねこ」シリーズである。
もう、これはどれを読んでも面白い。最高としか言いようがない。
その中でもイチオシはこちら、「ふくろのなか」である。

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出てくる怪物の名前だけで、読み聞かせていて楽しい。
だって、「ウヒアハ」ですよ?
ウヒアハ。
ネーミングしたとき、馬場先生、絶対、酔っぱらってただろ
このシリーズの大半は最後、「おお!11ぴきのねこ」で始まる文章でオチが付く。
これが、ほんとに、くだらない。

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 (「わたるな」という標識を尻目に歩道橋を使う。「はし、渡るべからず」ほどの頓智もないナンセンス)

あー、今読み返しても最高だ。
これなら連続2~3回、2週間連続ぐらいのリクエストが来ても、余裕で耐えられるはずだ。3歳児ぐらいなら毎回ゲラゲラ笑うので、楽しさしかない。

3.「きょだいな きょだいな」 作・長谷川摂子 絵・降矢なな

個人的に10冊中、一番のお気に入り。
ページをめくると、何の脈絡もなく、

「あったとさ、あったとさ、ひろいのっぱら、どまんなか」

というフレーズと、野原のど真ん中に鎮座する巨大なピアノの絵が目に入る。次のページには、これまた何の脈絡もなく、

「こどもが100人やってきて」

から始まる巨大なピアノと100人のチビッ子の作り出すカオスが描かれる。

その後も、延々と「巨大なものが野原に出現する」ネタが続く。
せっけん、でんわ、トイレットペーパー、びん、もも、あわたてき、せんぷうき、が次つぎと姿を現し、100人の子どもがそれに絡む。
その「絡みよう」はひたすらナンセンスなんだが、文章のリズムがとにかく良いので、読み聞かせるほうがノリノリになってしまう。

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たとえばこの、巨大なトイレットペーパー。丘を転がり始めて、「あれ あれ ゴロンゴロン とまらない」って、もう、めちゃくちゃである。
しかも、オチは、子どもが100人、お尻をふいた、である。
「ひねれや!」と思うが、この恍惚とした表情を見ては、笑うしかない。

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最初から最後までこの調子。ノリノリで一気読みするしかない。
1日1回ペースなら、数か月リクエストされても、毎回楽しめる。

4.「わたしのワンピース」 にしまきかやこ

これも文章のリズムがよくて、中毒性が高い。

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「ミシン カタカタ」と「ラララン ロロロン」という繰り返しが癖になる。
ちなみにこの本、青山ブックセンターで買い求めた後、店を出てすぐに長女に「読んで」とせがまれ、奥様がそのまま連続30回ほど読み聞かせをさせられる無限地獄にはまったというエピソードがございます。

絵本や童話には「わらしべ長者系」の筋立てがちょいちょいある。
モノや属性の交換、あるいは人や自然の干渉によって、人物・持ち物のあり様が連鎖的に変化するタイプのストーリーだ。
これもその一種で、ワンピースの絵柄がどんどん変わっていく。

この手のは、なぜか読み聞かせがそんなに苦にならない。交易や変化に快感を感じる人間の本質に訴えるものがあるのかもしれない、というのはたった今、でっち上げた思い付きである。

5.「とりかえっこ」 作・さとうわきこ 絵・二俣英五郎

「交易快感論」は思い付きではあるが、この「わらしべ長者系」の1冊も、読み聞かせの負担が小さく、何度でも親子で楽しめる。

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このひよこちゃんが、散歩に出て、いろんな動物と「鳴き声」を交換する。「ちゅうちゅう」と鼠になったり、「ぶうぶう」と豚になったり、「わんわん」と犬になったりする。
最後の交換相手が亀。
亀の鳴き声って、知ってます?
答えはこれ。

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「む」、である。「む」。漢字をあてれば、やはり「無」なのだろうか。

読み聞かせとしては、この「む」が楽しい。低めの声で「む」と言っていると、すごい馬鹿馬鹿しい気分になってくる。子どももゲラゲラ笑う。
ちなみに「これでおしまい」である。
こうじゃないとね、絵本は!
教訓とか、教育とか、どうでもええわ!

6.「ありとすいか」 たむらしげる

「ちょっと素敵なのもまぶしていこうか」という下心で2冊ほど素敵なやつを。まずはこれ。

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タイトル通り、すいかをみつけたアリさんたちの創意工夫が描かれる。
今ググるまで知らなかったが、作者たむらしげるはこれがデビュー作で、その後、絵本作家・イラストレーターに転じた方のようだ。
それも頷ける。とにかく絵柄が素敵で、ディテールを見ているだけで楽しめる。
何より、絵で語るスタイルなので、文が最小限で読み聞かせの負担が小さい。

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このアリの巣のページなんて、「もういっぱいではいらないぞ」と読み上げたら、子どもは夢中で巣穴を一個一個チェックし始めるので、お父さん・お母さんはコーヒーを2口ぐらいすする余裕が持てる。

7.「よるくま」 酒井駒子

この投稿は、「本棚から『お気に入り』を選んできてから行き当たりばったりに原稿を書く」という段取りで書いている。
何が言いたいかというと、我が家には「よるくま」1冊しかないので知らなかったが、作者・酒井駒子さん、Wikipediaによると、巨匠なんですね…。びっくりした。

「よるみたいにまっくろい」よるくまと男の子が、夜の街をさまよってよるくまのお母さんを探す、というありがちなストーリーなんだけど、よるくまが泣き出してから「たすけて流れ星!」までの飛躍が素晴らしくて、何度読んでも感心する。こういうのがファンタジーってものだろう。
ちなみに「夜みたいに真っ黒」という表現、文豪・開高健が「髭」の比喩で使ってましたな。すいません、脱線しました。

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私は、この、母と再会した後のシーンを読み聞かせるのが好きだった。
子どもを抱っこしたお母さんクマがもらす

「ああ、あったかい。おまえは あったかいねえ」

というセリフを口にしながら、膝の上の長女のお尻の温かさを感じる幸福感。読み聞かせは「あぐらかいてチョコンと座らせて」が至高である。

8.「めの まど あけろ」 文・谷川俊太郎 絵・長 新大

谷川俊太郎が2冊続きます。そんな熱心なファンでもないんのだけれど。

これはもう、絵本というより「絵付きの詩集」に近いのだろう。
「さすが」という頭にこべりつくフレーズの宝庫。

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私が読むたびにうならされたのは、この一篇。

たらこ かずのこ さかなのこ
だんごの きなこは だいずのこ
たけのこ たけのこ なめこはきのこ
たまご かまぼこ れいぞうこ
しょくごは いちごか おしるこか
いたずらっこは はらっぺこ

こういう文章を声に出して読むのは、妙に気持ちよい。

余談だが、我が家ではなぜか「めのまどあけろ、まどみちお」と、「まど」つながりで別の詩人と紐づけしたフレーズが流行してしまい、本作が谷川先生の業績であるという認識が浸透していない。どうでもよいですね、はい、次。

9.「もこもこもこ」 作・たにかわ しゅんたろう 絵・もとなが さだまさ

もう、これは「読み聞かせ界のリーサルウェポン」と言ってよい。

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「しーん」から、「もこ」っとなって、「もこもこ」「にょきにょき」して、「ぱく」っとしたと思ったら、そこから怒涛の展開。

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この「ぷうっ」あたりで、子どもが身を乗り出す気配がする。
何がそんなにウケるのか分からないけど、幼稚園や保育園でも「ほとんどの子どもが夢中になる」というから、プリミティブな魅力があるのだろう。
読み聞かせる方からしても、ページを子どもにめくらせれば、あとはオノマトペ一発という、ほとんど労力ゼロの素晴らしいコンテンツである。

10.「アンパンマンのサンタクロース」 やなせたかし

我が家はアンパンマンは断然アニメ派だったのだが、この1冊は思い出深いので入れておきます。

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詳しくはこちらのnoteをご覧ください。

個人的な思い出は抜きにしても、クリスマスシーズンに読み聞かせるには最高の1冊だ。実にくだらなくて、それでいて夢のあるハッピーエンド。
お気に入りはこの、アニメの優等生的正義の味方ぶりと違った、アンパンマンの後先考えないアホさ加減が発揮されるシーン。

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(ここは読み聞かせてても楽しいです。愛すべきアホ)

番外編 読み聞かせ負担増系2冊

2冊だけ「読み聞かせ負担が増えちゃうけど良い感じ」を追加で。

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エリック・カールといえば「はらぺこあおむし」ですが、これも素晴らしい作品。ただし、これ、「仕掛け絵本」なのである。ページが広がるぐらいのギミックなのだが、毎回、本が傷まないように開いたり閉じたりするのは、正直、メンドクサイ。
その労を惜しまない余裕ができたら、どうぞ。

もう1冊は「HAROLD and the PURPLE CRAYON」。

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(ニューヨークのMOMAで買った50周年記念バージョン。今、Amazon見たら、60周年記念カバーになってた!)

これ、もう、ほんとに、ほんとに、絵もストーリーも最高の最高に素敵。
でも、英語なんですよね。即興で翻訳しながら読み聞かせるのは、楽しいんだけど、まあ、疲れてるときには勘弁してほしい。日本語バージョンは未読。どこまでこの「ええ感じ」を出せているのだろう。

以上、5000文字超と、また長々と書いちゃいました。

最後に一言。
「読み聞かせは苦行」とは書いたし、実際、子育ての大変さがマックスな時期には「勘弁して」みたいな気持ちになることがあったのは事実だ。
でも、振り返ると、その頃が子育てしていて無条件に幸福な時期でもあった。
このリストが、子育て世代の皆さんの気持ちの余裕と、子どもたちの楽しい「本との出会い」の一助になれば、幸いです。

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