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栄養の「バランス」とは何か(3) 糖質制限の考え方

一頃に比べれば糖質制限はかなり人口に膾炙してきている言葉だと思う。糖質制限に関する書籍も多数出版されている。しかし、私が「糖質制限をしている」と周囲の人に言うと、いまだに意外な反応が返ってくることがある。一番戸惑うのは、「そんなことをしたら健康を害する!」「私なら絶対そんなことはしない!」などという感情的な反応である。なぜか糖質制限は一部の人々を刺激するらしい。しかし私にとって糖質制限は今や完全に日常の一部であり、ただただ当たり前のことになっている。ここでは私個人の糖質制限に関する考え方について、簡単に触れてみたい。


「糖質制限」とは


糖質制限とは文字通り、糖質を制限することだ。糖質とは、三大栄養素である炭水化物の構成成分である。糖質制限では砂糖などの甘いもののみならず、米や小麦などの糖質を多く含む炭水化物をも制限することになる。

出典:Tarzan https://tarzanweb.jp/post-229764

私が邪推するに、糖質制限に対して感情的に反応する人は、まず自分が大好きな「スイーツ」や「ご飯」や「パン」を否定されたように感じている、あるいはそれらが大好きでいつも食べている自分自身を否定されたと感じているのではないかと思う(私は彼らに糖質制限をしろなどとは1ミリも言っていないのだが…)。

「糖質過剰」社会


私は「糖質制限」をしているが、自分自身が糖質制限をしているという意識はあまり無い。私が糖質制限をしているというよりは、現在の社会が圧倒的に「糖質過剰」社会なのだ、と感じている。

現生人類と極めて似た特徴を持つホモ(ヒト)属が地球上に現れたのは約250万年前、そして人類の直接の祖先であるホモ・サピエンスが誕生したのは約20万年前だと言われている(ユヴァル・ノア・ハラリ,サピエンス全史~文明の構造と人類の幸福~,河出書房出版社,2016,p9)。

出典:レタスクラブ https://www.lettuceclub.net/news/article/1067787/

250万年前から長い間、人類は狩猟・採集の生活をしてきた。狩猟・採集の時代に人類が摂取していた糖質はごくわずかで、その食生活は「スーパー糖質制限」と言ってもよいものだったと考えられる。

そこに大きな変化があらわれたのは、人類が農耕を開始した約1万年前である。この時代を境に、人類は糖質の摂取を次第に増加させていったことだろう。そして19世紀末から20世紀初頭にかけて、製糖工場の近代化に伴って砂糖の生産量が飛躍的に伸びた(矢ケ﨑典隆氏地理学で読み解く世界の砂糖生産地」)。この頃から多くの人々が精製された砂糖から作られた「スイーツ」を口にすることになっていっただろう。

ここで仮に人類の歴史250万年を1年365日に短縮してみると、農耕を開始した1万年前は12月30日の昼頃。そして砂糖が大量生産されるようになったのは150年ほど前だから12月31日の23時30分ごろだ。すなわち、人類の歴史の圧倒的大部分は「スーパー糖質制限」だったということになる。

だから糖質制限は何ら特別なことではなく、「糖質過剰」こそが最近出てきた特殊な現象、流行り物だと言える。人類の歴史を踏まえれば、現代人は「糖質をどこまで摂取できるか」という実験の被験者に見えてくる。

なぜ「糖質制限」をするのか


糖質制限は、人類の歴史の中で大部分を占める食生活の形態だった。昔と今の違いといえば、昔は最初から自然界に糖質がまばらにしか存在しなかったが、今は糖質がふんだんに含まれた食品が多数市場に出回っている、ということだ。

ではなぜ、そんな糖質過剰な現代社会で、祖先に近づくような糖質制限の食生活を選択するのか。端的に言えば、「糖質過剰は万病の元」だと考えられるからだ。下の図は、慶應義塾大学の伊藤裕教授が提唱した「メタボリックドミノ」に糖尿病専門医の山田悟氏が改変を加えたものである。


出典:メタボ連鎖を断つ!万病の元「食後高血糖」防ぐ食事法

この図は文字通り「ドミノ倒し」をイメージしている。最初のドミノは「糖質摂取過剰」、次のドミノは「食後高血糖」、それに続くのは「糖尿病」・「飢餓感」となっており、最後のドミノは「肌の老化」、「がん」、「脳卒中」、「認知症」、「心不全」、「肝硬変」などが並んでいる。すなわち、「糖質摂取過剰」を放置しておくと、次々とドミノが倒れるように健康上の問題が折り重なっていく可能性が高いということである。

「私は健康診断の空腹時血糖値が正常だから問題ない」という人がいるかもしれないが、問題はこのドミノのひとつにもなっている「食後高血糖」だ。食後高血糖の怖さは、山田悟氏が説明してくれている。

実は、自分が血糖異常であることは、かなり深刻な状態になるまでなかなか自覚できません。血糖以上はまず食後高血糖として現れます。しかし、食後の血糖値が異常に上がってしまっている人でも、空腹時血糖値は最後の最後、本当に糖尿病になる直前まで上がってきません。そのため、空腹時血糖値だけを測定する通所の健康診断では、異常がみつかりにくいからなのです。

糖質制限の真実~日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて~,
山田悟,2015,幻冬舎新書,p21

またフランスの生化学者でニューヨークタイムス・ベストセラー作家のJessie Inchauspéは、2型糖尿病でない人の場合、血糖値のバランスを整えることによって、以下のような現象が回避できると言っている。

食欲、絶え間ない空腹感、疲労、ブレインフォグ(頭の霧)、ホルモンと生殖能力の問題、皮膚の状態、しわ、睡眠不足、更年期障害の症状、メンタルヘルスの症状、免疫系の症状、糖化(老化)、心臓病、アルツハイマー病、脂肪肝疾患、がん

https://www.glucosegoddess.com/science

では食後高血糖なるものが、なぜ様々な不調や疾患を引き起こすことになるのか。その大きな要因として2つのことが考えられている。それは「酸化」と「糖化」である。医師の宗田哲夫氏がそれぞれについて端的にまとめてくれているので、以下それを引用する。

「酸化」=錆びる老化
・酸化は、糖質などがエネルギーに変換されるときに発生する「活性酸素」が原因。活性酸素は、本来有用だが、多すぎると有害物質となる。
・インスリンが増えることが、活性酸素が増える大きな要因でもある。
・細胞を劣化させたり、遺伝子情報を傷つけ、老化を加速させる。
「糖化」=焦げる老化
・糖化は、血液中のブドウ糖と細胞や組織を構成するタンパク質が体温で加熱されることで結びついて起こる。
・インスリンを多く分泌させる糖質過多が、糖化を招く。
・糖化が進むと、「AGE(終末糖化産物)が発生し、皮膚や骨、血管などの弾力を保つコラーゲン繊維が切断され、細胞の劣化を起こす。

宗田哲夫,甘いもの中毒~私達を蝕む「マイルド・ドラッグ」の正体~,2018,p88

「酸化」と「糖化」は、相互に影響を与え合いながら、老化を進行させると考えられている。もちろん、糖質過剰の人々すべての老化が早くなって早死にすると断言することは出来ない。もしかしたら既に糖質過剰に適応した「ニュータイプ」の人間が出現している可能性だってある。しかし、私自身はあくまでも(糖質処理能力において)平均的な人間であると考えているので、体にダメージを与える食後高血糖を回避すべく、糖質制限を実施している。

ここまで読んで、「いや、糖質制限は厚労省の『食事バランスガイド』とは違う考え方だから誤っている!」という人は、下の記事をご一読頂ければと思う。

あるいは「糖質制限したら脂質過多になって健康に悪い!」という人は、下の記事をご一読頂ければと思う。

以上が私の糖質制限に対する考え方の簡単なまとめである。最後に断っておくが、これは私自身の考え方であって、他人にこれを薦めるという意図はまったく無いので悪しからず。

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