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保育士が友人の子を一日預かった。

平日の休みに、友人の子ども(4歳)をフルタイムで預かった。

経緯

少し前に、友人の子の通う保育園に感染症が発生し休園になった。
その子自身は濃厚接触ではないけど、休園なので預け先がない。

最初は1週間の予定だったが、途中で延長になった模様。

正社員として働き、職場には他に代わりのいない仕事をしている友人。

有給休暇を使っていたが、休んだ分、仕事はたまっていくし、有給にも限りがある。
自分の親にお願いした日もあるらしいが、親も働いているそうで、一時保育や託児所も複数使いながら、毎日が綱渡り状態らしかった。

同じようなケースが多いのか、そもそも受け入れを制限しているのか、とある1日だけ、預かってくれる施設が見つからなかったそうで、たまたまその日に休みだったので、私が面倒を見るよ、と申し出た。

保育園は土曜日も開園しているため、土曜日に勤務予定があると平日に代休を取ることになる園が多い。

あまり親しい間柄ではないが、私の職業が保育士だから&預け先の綱渡りが限界!ということで、友人はすぐにOKを出した。

友人のお子さんと私は未対面。
LINEのアイコンになっていたのでこちらは顔は知っていたというレベル。
「人懐っこい子だから平気だと思う」と友人は言っていた。

とはいえ、我が家に来てもらったところで何時間も遊べる気がしないし、友人宅で過ごすのも私が気を遣うから避けたい。

このチャンスを何か活かせないかと「子連れでしか行けないところ」を考え、以前から行きたかった動物園に行くことにした。

ひとり水族館は全然気にしない私だが、なぜかひとり動物園はものすごくハードルが高く感じる。
かといって、誘ったらわざわざ来てくれるような友達も見当たらない。

なので、友人に、お子さんに「動物園に一緒に行きたい人がいるんだけど、一緒に行ってくれない?」と訊いてもらうようお願いした。

本人からもOKが出て、まるまる1日、その子と過ごすことが決定した。


当日

友人の勤務時間の8:30~17:30にあわせて、8:00に駅で待ち合わせをした。

事前に本人に了承を得ていたし、「動物園に行く」という見通しができており、とてもスムーズにバトンタッチした。

時間は8:00。

長い長い一日が始まった。

再び電車に乗り、終点の駅へ連れていく。
駅番号やひらがなを読んで、現在地と降りる予定の駅を確認したりして、あっという間に終点へ。

マクドナルドとミスタードーナツのある駅で、どちらがいいか本人に選ばせる。
ハッピーセットのおまけについて話していたけど、まだ朝マックの時間帯なんだ という話をしたら、ドーナツがいいとのこと。

朝ごはん控えてもらえばよかったなーと思いながら、たまにはこんな日があってもいいでしょ、とドーナツを2個選んで、半分こずつして食べた。

「わーい、はんぶんこ」とはしゃぎ、ドーナツを食べながら
「ねぇ、動物園行く?」
と何度も訊かれた。

「行くよ。動物園、まだあいてないから、ドーナツ食べてから行こう」

まだ8時台だった。

通勤客で混雑していた電車内よりも穏やかな時間が流れる店内。

「前に、ママと〇〇見たの」
「〇〇ちゃんのおうちに**あるよ」
初対面でも臆せず、よく話す子だった。
よく会話を聞けば親子ではないと分かる。

私たち2人は、声の聞こえない場所から見たら親子に見えるのだろうか?
親戚くらいには見えるかな?
やはり他人の顔をしていて、私はベビーシッター??


動物園は基本、屋外だ。
1月の寒さは4歳児にも私にも厳しい。
そんなに長くは滞在できない。

「長い針が6になったら電車に乗るよ」
9:30までなんとか時間をつぶし、もう一回電車に乗り、動物園へ向かう。
アナログの腕時計がこの日一日を支えてくれた。
持って行って良かったものランキング 第一位。

この辺では一番大きな動物園へ向かう。

園内を一緒に走り、目的の動物を見に行く。
ドーナツ食べたし、お昼ごはんは遅めでも大丈夫だろう、とおおまかな一日の予定を考える。
17:45に友人に引き渡すまでに、とにかく時間がありすぎる。
どこかでお昼寝か、それに近いこともさせた方がいいだろうと考える。

あれが見たい、今度はこっち、と私が見たい動物を見に行く。
でも、滞在時間の主導権は子どもで、どんどん消化されて行く。

一番長く同じ場所に留まったのは、動物園の一角にあった公園だった。
これは動物園あるあるで、よく保育園の連絡帳にも書かれているエピソードだ(笑)
あとは、鳩とカラスに見入ってました、とか。

2時間近く歩き回ったところで、「疲れちゃった」と言う。
ちょうど近くに屋内休憩所があり、入る。

ベンチと机の他に、板張りのコーナーがあり、靴を脱いであがれるようになっていたので、しばしそこでくつろぐ。
床暖房が入っていて居心地がよかった。
園内マップを見て、見る予定だけどまだ見ていない動物へのルートを考え、お昼ごはんの目星をつける。

その子は広い空間にはしゃいで歩き回ったり、ゴロゴロ転がったり、歌を歌ったり。
電車では、大きな声でおしゃべりしたりゴソゴソしたりするを制止したけど、動物園は子ども連れが当たり前の施設。
私もほっと一息つけた。

途中で別の親子が入ってきて、お弁当を広げ始めた。
弁当を食べるべき子が友人の子と一緒になって窓の外を見始めて、親がイライラしだしたので、退散することに。

12:30ごろ、フードコートでお昼ご飯にする。
いろいろあるお店の中から、4歳児の食べやすそうなものを見極め、こちらで選択肢を絞り込む。
「ラーメン、やきそば、おにぎり、ホットドッグ、どれがいい?」と訊く。
保育園なら食べやすさ、栄養、ボリュームの考えてある給食食べてるんだよな~と思う。
意見を言うことはあるけど、保育士が1日のメニューを決めることはほとんどない。

割り箸、使えるかな?と思いながら、周りの家庭を見るとエプロンやスプーンセットを持参していた。
そうか、子連れは持参が必須なんだなぁ、と思う。
知識として知っているし、いつも見ているはずだけど、実際に自分が子どもを連れていると見えるものが違ってくる。

午後からも動物を見て、再び公園で遊んだ。

その子は「ウサギが見たい」と言っていた。

ウサギのタッチコーナーがあったが、このご時世で中止になっており、落ち葉が溜まってさびれた雰囲気になっていた。

うろ覚えで、カンガルーとネズミとウサギを足して3で割ったような動物がいたエリアにも行ってみたけど、いなかった。

飼育員さんに尋ねたところ「希少種が1匹いるけど一般展示していない」とのこと。

【○○(動物名)が見れるのは日本でココだけ!】という動物紹介に、「○○はいても、ウサギがいなーい!」とツッコむ。

仕方がないのでお土産コーナーでキーホルダーを購入。

水族館のお土産コーナーでは、その水族館が力を入れて飼育している生き物のグッズを買うことをマイルールにしていた。

美ら海水族館のジンベエザメ
名古屋港水族館のベルーガ
鳥羽水族館のジュゴン・マナティー
サンシャイン水族館のペンギン
などなど

飼育していない生き物のグッズを購入することは、抵抗があった。

でも、今回はウサギのキーホルダーに救われた。
そうか、こんなふうに飼育していない生き物のお土産もニーズがあるのか、と勉強になった。

他に「あとで買おうね」と約束していた動物の形のパンは売り切れていた。
自分用に実用性のあるお土産として買いたかったし、友人宅の明日の朝食になったら喜ばれるだろうと思っていたので残念。
潰れるかもと思って後回しにしたけど、午前に買った方がよかったみたいだ。
ラインナップにウサギはあったのかなぁ?

この時点でまだ14時台。

あと3時間以上もある。

「トイレに行きたい」と言うので連れていくと膝に血がにじんでいた。

さっき、坂道で走って転んだときに擦りむいたようだ。

そろそろ限界も来てるな、と思ったので、絆創膏を貼るという名目で建物内へ。

資料コーナーの片隅に大学ゼミ生が作った動物園の広報映像を見れる場所があったので、椅子に座って絆創膏を貼る。
傷の保護というよりも、メンタルケア。
持ってきてよかったものランキング 第三位。

そのままの流れで映像に見入っている。
ちょっと目の焦点が合っていない。
あえて声をかけずに私も見ているフリをする。

コクン

来ました。
眠気スイッチ ON。
初対面の子でも、保育士としての経験が役に立つ。

そのまま私の膝に乗せ、しばらく寝かせた。

ほっぺを赤くし、スヤスヤ寝息をたてる子どもを見ながら、涙腺が緩くなった。
数時間前に出会った大人をこんなにも信頼してくれてありがとう。

休園がなければ、親と(いつもの)保育園の職員に見守られて育つべき子が、毎日違う保育施設に預けられ、初対面の親の友人と一日を過ごしている。


エンドレスループの広報映像が3周ほどしたところで起床した。

来園記念スタンプがあったので、持ってきた裏紙に押す。


動物園を後にして、「おやつにしよう」とファミレスへ誘う。

時間は16:00。
あと1時間半ちょっと。
ゴールが見えてきたけど、ファミレスでどれだけ過ごせるかなぁ。

ゼリーとドリンクバーを注文した。

当り前のようなふりをして子ども用のコップを手渡したけど、実は初めて。
子連れの友人とファミレスに来ることもあるけど、最初の一杯目はその子の親がやるので、触ることはない。
(二杯目からはタイミングによっては私が一緒に取りに行くこともある。100%のジュースしか許可してないとか、炭酸は選ばせていいのかとか、一杯目の親子のやり取りでさりげなく把握しておく。保育士らしい??)

「自分でやる」と言うので、やらせてみるとコップの半分しかドリンクが入っていない。
身長が低いとボタンは押せても、コップの中身は見えないのかーと新たな発見。

朝からドーナツ食べて、動物のカスタードまんも食べ、糖分を取りすぎているので、そのまま席に戻る。
本人はご満悦なのでよしとする。

スタンプした裏紙とシャープペンを渡し、お絵かきタイム。
裏紙は、持ってきて良かったものランキング 第二位。
これでだいぶ時間を使うことができた。

腕時計をはずし、見通しを伝えようと思ったら友人の勤務終了まで1時間以上あった。
分かりにくいので1時間を切るまで待ち、「長い針が6になったらママの仕事が終わるよ」と時計をそばに置く。

お絵かきした裏紙の余白に今日食べたものや転んだこと、ウサギがいなかった話をささっと書き込む。
これは普段の仕事と変わらない。保育士らしいな、と自分で思う。


「今日、何の動物見た?」と訊いてみる。

「うーんと、えっとー、うーん、あのー」

全然出てこないので質問を変える。

「今日、動物園で何した?何見た?」

「すべりだい!」「ライオンのやつ乗った」「ゾウさんのもしたよ」
スラスラ出てくる。
全部、公園の遊具の話である。

何個目かに見た動物もランクインし、その会話の一部始終も余白に記録しておく。

「ワニの上がキラキラだった」
水面に当たった陽射しが天井に反射してきれいだった。
これは一緒に見た人でないと分からないので、解説をつけて記入した。

ワニの上のキラキラ

時間が余ったら、駅のスーパーで私の買い物に付き合ってもらおうと思っていたけど、大丈夫だった。
店内を最新鋭の配膳ロボが動き回っていたのも楽しかった。
(ハイテク好きの私の方が興奮)


無事に出発時間を迎えることができ、電車に乗って駅へ。

17:45、友人と合流し、バトンタッチ。

長い長い一日が終わった。


実は…

この日の前、心配であまり眠れなかった。

「保育士なのに?」と思われるだろうけど、不安だった。

理由は3つ。


①自分しかいない

保育園なら、自分以外に同僚がいる。
例えば、子どもが親を求めて泣いて泣いてしょうがない時でも、別の人にバトンタッチするとうまくいくことがある。
赤ちゃんでも、抱き方一つに好みや相性があって、"この人ならいいよ"と泣き止むことがあるのだ。
泣き止まなくても大音量の泣き声を長時間浴び続けることからは回避できる。

でも、今回は代わってくれる人がいない。
全部自分でなんとかしないといけないのがプレッシャーだった。


②長時間

仕事だったら、保育士としてオンステージで過ごすのは原則8時間。
間に休憩もある。

今、働いている園では子どもと離れて休憩を取ることができる。(そうではない園もある。それって休憩??)
スマホを見たり、ウトウトしたり、コンビニにスイーツを買いに行くこともできる。

今回は、友人の勤務時間が8時間で、休憩も入れて9時間の拘束。
駅で待ち合わせしているので、私が面倒を見る時間は8:00~17:45。
実に9時間45分もオンステージになる。長い。


③アウェー

保育園であれば、1つのおもちゃに飽きても発達など状況に応じて別のおもちゃが出せる。
眠くなれば布団もある。
食器やカトラリーもトイレも子ども用だ。
長時間抱っこが必要になっても抱っこひもで負担が軽減できる。

必要なものは大体あるし、空調も快適に調整できる。
それに対して、今日はアウェーでのゲーム。
「動物園もう嫌」「おうちに帰りたい」と言われたらお手上げだ。
しかも屋外で空調はない。寒かったら機嫌も悪くなりやすい。


こんな理由で、保育士の私でも友人の子どもを一日預かるのは、よく眠れなくなるくらい不安だった。
ベビーシッターってこれが当たり前なの?すごいと思った。


考察

子どもと別れてから、長い時間預かったなぁ、と思ったけど、冷静に考えたら、子どもにとっては普通の話だった。
勤務する園にも、11時間預かる子がいる。

友人が8:30~17:30の勤務をするには、7時台に保育園に預けて、お迎えは18時を過ぎるだろう。
しかも、これは残業がなければ、の話。

大人は、残業がなければ8時間勤務で9時間拘束が原則なのに、子どもの拘束時間、長すぎやしないか?と思う。
起きて家で過ごす時間よりも保育園で過ごす時間の方が長い。

「□□しなさい」
「××しちゃだめ」
「今は**の時間でしょ」
こんな声掛けばかりでは窮屈なので、言わなくていいような配慮が必要だ。

いかに、家庭のように穏やかに気持ちよく過ごせるかを考えることも保育士の重要な仕事となる。






休日を子どもと1日過ごしてみたら、結局は仕事の話に行きついた。





あー、動物園楽しかった♪
今度はいつ行けるかな。







おしまい






毎度毎度、短くしたいのに長文になってしまう。
今回は6000字近い。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

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