住まい
本好きにとって、「澁澤龍彦」は避けて通れない作家である。本道の文学史からは溢れがちであった海外文学を数多く翻訳し、「幻想文学」「エロティシズム」の普及に貢献した。
熱心な読者も多く、例えば私の友人は澁澤のことを「闇の百科全書」「歩くダークウェブ」と評している。この評価が正確であるかはおくとしても、ニュアンスは伝わる。澁澤が読者に、独自の世界観を提示していたことは間違いない。
私の周りではこの世界観を「澁澤龍彦っぽい」という言葉で形容する。雑貨屋や古書店を訪れた際、棚の商品のラインナップを見て、「このコーナー、澁澤龍彦っぽいな」と感じる。
面白いのは、その棚に澁澤龍彦に直接関係のあるもの(彼の著作や訳書)がなくても、「澁澤龍彦っぽい」と感じることである。それだけ彼の提示した世界観は個性的であった。
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「さっきから、世界観、世界観言ってるけど、そもそも澁澤龍彦の世界観ってどんな感じなの?」と思われている方もいるだろう。そういう人にぜひ、見てもらいたいものがある。
それは、澁澤龍彦の住まいだ。
平凡社刊行の『作家の家』という本の中で、澁澤龍彦の住まいとそれにまつわる文章が紹介されている。
本書には澁澤の他に、14人の作家・芸術家の住まいも特集されており、どれも風情があって味わい深いが、こと「作家の世界観の表出」に視点を絞れば、澁澤の住まいは他に抜きん出ている。
家具の上の置き物、壁にかけられた絵、部屋の一隅に佇む人形。一つひとつの物が、ただお洒落というだけにとどまらず、きちんと澁澤の表現してきた世界観と結びついている。
引用したのは、澁澤龍彦が住まいを建築するにあたって立てていた方針。
クラシックかモダンかの一方に没中することなく、そのあわいを行くような空間設計を目指す。この徹底したこだわりが、これまで陰の中にあった事物に光をあて、その存在を読者の知るところとした。澁澤が単なるトレンドウォッチャーであったならば、このような貢献を果たしえなかったであろう。
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作家の住まいを眺めながら、「この部屋から、あの作品が生み出されたのか〜」と空想してみるのは楽しい。
「澁澤龍彦のもいいけど、この作家の住まいもイケてるよ」というのがあれば、ぜひ教えてもらいたいものである。
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