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著…トルストイ 訳…名越陽子『人はなぜ生きるのか?』

※注※
以下の文には、結末を含むあらすじを書いています。
この本をまだ読んでいない方で、ネタバレを望まない方はご注意ください。



 あなたは貧乏な靴職人です。
 働いても働いても大した収入にはならず、食べていくだけで精一杯。
 あなたは、生きているのか死んでいるのかも分からない裸の男を偶然発見しました。
 助けますか?
 →はい/いいえ


 あなたは素通りすることに決め、歩き出しました。
 でも、良心が疼きます。
 やっぱり助けに行きますか?
 →はい/いいえ


 …という問いをトルストイから投げかけられているかのような本。

 靴職人セミョーンは結局「はい」を選択。

 その男を助けることにしました。

 セミョーンは新しい服を買うこともままならない経済状況ですが、自分の着ている衣服をその男に分け与え、家に連れ帰ります。

 セミョーンの妻・マトリョーナは最初怒っていましたが、その男になけなしの食べ物を分け与えることにしました。

 男の正体に気づかないままで。

 実はこの男もまた、かつて重大な二択を迫られた人物なのです。

 実は、男の正体は天使。

 しかも、死をもたらす天使です。

 天使は神様から、夫を亡くしたばかりで、しかも双子の赤ん坊を産んだばかりの女性の魂を取ってくるよう命じられました。

 天使が地上に降りると、女性から、どうかわたしの魂を取らないでください、父親も母親も居ないのでは子供たちは生きられない、と懇願されました。

 天使は、

 →神様に従ってこの女性の魂を取りますか?
 はい/いいえ


 という二択を迫られたのです。

 天使は「いいえ」を選択。

 天使は神様のところへ戻って、「子供を産んだばかりの母親から魂を取ることは出来ませんでした」と報告。

 なおも神様は、「行け、母親から魂を取るのだ」と命じます。

 仕方なく天使は地上に逆戻りして、母親の魂を取りました。

 しかし、一度は神様に背いた身。

 天使は翼をもぎ取られ、地上に落ち、裸の男として靴職人セミョーンに発見されたのでした。

 …幸い、この時の双子の赤ん坊を育ててくれる親切な人が現れたので、「父親も母親も居ないのでは子供たちは生きられない」と言った母親の言葉は誤りであったことが判明するのですが、

 →神様に従ってこの女性の魂を取りますか?
 はい/いいえ


 の二択で、「いいえ」を選んだ天使が間違っていたとは、わたしは考えたくありません。

 一体誰が、生まれたばかりの可愛い我が子たちを残して死にたいでしょうか。

 …いや、 理解は出来るんですよ、神様の言いたいことも。

 いちいち憐れみをかけていたら、死ぬ人がこの世の中から居なくなってしまうから。

 食料も飲料水も土地も何もかも足らなくなって、それこそ大変です。

 誰一人死なない世の中は、誰一人生きられない世の中と一緒。

 だったら、わざわざ罪なき人を死なせなくても、もっと他の人を選べばいいのに、たとえば犯罪者とか犯罪者とか犯罪者とか…とわたしは思ってしまうのですが…。

 神様にとってはどの命にも優劣は無く、全ての命が等しいものなのかもしれません。

 それに、神様が「赤ん坊の魂を取って来なさい」と命じなかっただけマシなのかもしれません…。

 けれど、わたしは「いいえ」を一度でも選択してくれた天使に感謝したいです。

 せめてもの慈悲をありがとうございます。

 もし神様の判断基準が「正しい」とか「正しく無い」といったことだとしても、人間(裸の男にされてしまった天使含む)の場合はそうじゃありませんよね。

 人間は理性だけではなく、心もある生き物。

 人間が生きる上で、「優しさ」や「憐れみ」や「思いやり」といった気持ちは一見邪魔なようにすら思えることがあります。

 そういう気持ちに突き動かされて行動すると自分が貧乏くじを引くように思えることがあるのです。

 それでも手を差しのべる。

 その救いの手はきっとあたたかくて美しい。

 別に、この世の全ての人を救うことが出来なくたっていいのです。

 そんなの神様にだって無理。

 人間に出来るのは、自分の目の前にいるたった一人に手を差しのべること。

 この作品からわたしはそう学びました。

 タイトルにあるような「人はなぜ生きるのか?」という問いは壮大なテーマ過ぎてすぐには答えられませんが、もし「人は何をもって生きるのか?」と問われたら「心」と言えるような人間にわたしはなりたいです。

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