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著…中谷美紀『嫌われ松子の一年』

 映画『嫌われ松子の一生』はわたしにとっても大好きな映画です。

 転落し続ける人生を歩んだ女性・川尻松子。

 松子の人生において、常に根底にあるのは、自分に自信が無いこと。

 「嫌われ松子」の「嫌われ」とは、きっと、誰かが松子を嫌っているのではなく、松子自身が松子を愛せないことから来ているのだろう…とわたしは思います。

 松子は最後の最後で自分自身を好きになれた、松子を嫌う松子ではなくなった…とわたしはあの映画のラストを解釈していて、今も大事にDVDを持っています。

 わたしもいつかは自分自身を好きになりたいから。

 …前置きが長くなりましたが、この本は映画『嫌われ松子の一生』で松子を演じた中谷美紀さんが撮影の日々を日記形式で綴った本です。

 様々なスタッフとのやり取りも興味深いですが、最も目を惹くのは、中島哲也監督と中谷さんが激しい言葉でやり合ったことが随所に綴られていること。

 中島監督はしょっちゅう「明日殺してやる」なんてことを中谷さんに言います。

 中谷さんは「今殺していただいてもかまわないんですけど」「これが私の遺作になれば、ちょっとでも多くの方に観ていただけるかも知れないですから」なんてことを監督に言います。

 こんな物騒なことを監督と主演女優とで言い合っているのだから驚きです。

 けれど、お世辞を言ってヨイショし合う撮影現場よりも、こうして作品の創造者同士が本気でぶつかり合う撮影現場の方が、人間の心理の本質を描く映画を作れそうな気がするので、わたしは中島監督と中谷さんのやり合いを心地良く読みました。

 実際、映画『嫌われ松子の一生』は、単に人気の俳優を並べてキャッチーな映像を撮った上っ面だけの映画にはなりませんでした。

 わたしは公開当時、映画館でこの作品を観た時、周りの女性たちがすすり泣くのを見聞きしました。

 リアルな女性のリアルな心を掴む力を、この映画は持っています。

 映画館の客足はそう伸びず、DVDはとても売れたそうですから、きっとみんな自宅でじっくり観たかったのではないでしょうか?

 そんなことを考えながらわたしはこの本を読みました。

 色々大変だったようですが、中谷さんが主演を降板せずに無事クランクアップしてくれて良かったです。

 中谷さんが演じてくれなければ、観客はこの松子とは出会うことが出来なかったから。

 また、この映画の撮影中、53歳の松子を演じるため中谷さんを老けさせる特殊メイクが痒くて痒くて大変だったそうで、

 「この作品を終わる頃には本当に老けてしまうかもしれない」
(P33から引用)

 と中谷さんが書いているのもわたしを大変驚かせました。

 意外な製作秘話です。

 安心してください!

 撮影が終わって20年近く経った2023年現在も、あなたは全く老けていませんから。

 美しいままですから。

 わたし、『ケイゾク』の頃から中谷さんを画面越しに拝見していますけれど、その頃と比べても全然老けていませんですから。

 どういう体内システムであの美貌がキープされているのか気になる木になる!

 もし中谷さんが「実はわたし、昔人魚の肉を食べたので不老不死なんです」とか「エドガーとアランみたいなポーの一族なんです」と言ったら、わたしは「ああ、やはりそうでしたか」とガッテン!しますから。

 「あまりに眠いのでフリスクを所望すると、監督の手元にあったのをいただけることになった。〝監督優しいですね〟と申すと、〝ああ、これもらったやつだからいいよ〟〝ありがとうございます。ああ、優しいなあ〟〝毒盛ってあるから〟ですって」
(P198から引用)

 という会話にもびっくり!

 わたしはてっきり中谷さんは薔薇の花のいのちを吸って生きているのかと思っていたのですが、意外とフリスクも口に入れるんですね!

 もしや不老不死のエキス入りの特別なフリスク?

 いやそんなまさか…。

 もとが綺麗とはいえ、あの美しさをどうやって長年保っていらっしゃるのかとても気になります。

 それにしても監督、「毒盛ってあるから」って…。

 まるで好きな子にわざといじわるを言って、好きな子のリアクションをちらちら見てる小学生男子みたい…。

 この本の最後で中谷さんが監督に「ありがとうございました」と言い、監督も中谷さんに「本当にありがとう」とメッセージを寄せているのもグッときます。

 これもまた映画のワンシーンみたい。

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