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消費者、農家、飲食店の悩みを解消するCSA LOOPに取り組む。株式会社4Nature代表 平間亮太さん

今回は、地域支援型農業と食循環を掛け合わせたCSA(Community Supported Agriculture) LOOPというサービスを展開している、株式会社 4Nature(フォーネイチャー)代表の平間亮太さんに、CSA LOOPを始めた経緯やサービスの仕組み、今後の方向性などについて聞かせていただきます。


「ビジネスの力でバランスのとれた優しい世の中に」をミッションに掲げ、3つの事業を展開

―まず(株)4Natureの事業について教えてください。

(株)4Natureのミッションは「ビジネスの力でバランスのとれた優しい世の中に」で、株式会社としていかに良い社会を作っていけるかというテーマに取り組んでいます。
 
弊社の事業は、プロダクトとコンテンツ、サービスの3つの軸に分かれています。

プロダクト事業としては、飲食店や消費者に向けたものを販売しています。代表的な製品には、サトウキビストローがあります。これは、サトウキビを製糖化した時に出る残渣のバガスをアップサイクルさせたストローです。

コンテンツ事業では、ファーマーズマーケットやコミュニティコンポストの運営を通して、街の中のコンテンツ作りを行っています。

サービス事業で行っているのが、CSA LOOPです。この事業では、モノや場所だけでなく仕組み自体を作ってサービス化し、全国展開することを目標としています。

―どのような背景や理由でご自身の会社を設立したのでしょうか?

新卒で入社したのは、信託銀行です。お金の循環や仕組み、人々の思いなどを信託で保全するという考え方に興味を抱いたのが、信託銀行に就職した理由でした。

信託という考え方を活かして自分で何かできないかと思って銀行を退職した後、起業や海外でのMBA取得などについて考えたんですが、結果的には1年足らずで(株)4Natureを立ち上げることになりました。そこで最初に手掛けたのが、サトウキビストローの販売です。

多様な目的を持った人々が交錯する街作りのために

―最初の事業であるストロー販売の内容を聞かせてください。

サトウキビストローの販売を始めた時に「循環」のようなキーワードが自分の中に刺さっていたというより、プラスチックの代替になる商品をビジネスとして提供すること自体に面白さを感じていました。

販売開始時に、リサーチの一環として飲食店の方々といろいろなお話をさせていただきました。ちょうどスペシャリティコーヒーの業界でストローの切り替えに関する勉強会が開催されていまして、その勉強会の関係者の方々とお話をするうちに、販売したストローを回収して堆肥化することを決めました。

サトウキビストローの販売・回収活動を開始した当初は、自分で各店舗に伺ってストローを回収し、栃木県の知り合いの家畜農家に堆肥化してもらっていました。

依頼件数が増えて自分だけでは回収が難しくなり、拠点作りを検討していた時に紹介してもらったのが、青山のファーマーズマーケットです。ファーマーズマーケットの方に、回収して堆肥化するストローを飲食店の人に持参してもらう場所を探していることを伝えたところ、快諾していただきました。

ファーマーズマーケットの一部をお借りして回収を始めたんですが、その場の雰囲気がとても良いなと感じました。建物を作ってそこに店舗や人が入居するのではなく、さまざまな目的を持った人々が交錯する場所になっているんです。これが本来の街のあり方だと再認識させられました。

写真提供:株式会社4Nature

―その後の事業展開はどんなプロセスで行ったのでしょうか?

僕の地元である千葉県佐倉市にコミュニティマーケットを立ち上げた頃に、ちょうどコロナの影響が深刻化して、飲食店が営業できない状況になったんですね。当然サトウキビストローの売上も減少してしまったんですが、そんな時にある企業からサトウキビストローを家庭用に販売したいというお話をいただきました。消費者向けに販売したストローを堆肥化する方法を考えていた時に知ったのが、福岡のローカルフードサイクリングさんという企業が販売しているバッグ型のLFC(Local Food Cycling)コンポストセットです。そのセットといっしょにサトウキビストローを販売するカタチで小売販売を始めました。

その結果、家庭の生ゴミを堆肥化するツールを使ってくれるユーザーが増えたんですが、今度は作った堆肥の行き場がないという問題が生じました。その解決策として始めたのが、コミュニティコンポスト事業です。これは、みんなで堆肥を集めて、良い堆肥を作る方法や使い道を地域内で探っていくためのコミュニティです。コミュニティコンポストでは、作った堆肥を地域の商店会で使ってもらったり、空いているスペースの屋上菜園に使わせてもらったりといった成果を出すことができました。そうした中で、堆肥を農家に使ってもらうのが一番の有効活用だという話が出てきたんです。

写真提供:株式会社4Nature

消費者と生産者の思いをつなぐCSA LOOPの取り組み

―では実際にCSA LOOPの開始した経緯を聞かせてください。

青山ファーマーズマーケットに出店していた青梅ファームさんという農家がCSAプログラムを行っていたのが、CSA(地域支援型農業)を知ったきっかけです。

コミュニティコンポスト事業を通して、消費者から堆肥の使い道や良い野菜が手に入らないといったお困りごとを聞き、同時に農家の方々からコミュニケーションをしっかり取れる消費者に作物を届けたいという希望を聞くうちに、CSAについて具体的に考えるようになってきました。

農家としては畑に知らない人の堆肥を入れることには、相当なリスクがあります。会員が年間分の野菜代を農家に先払いして、出来上がった農作物を受け取るCSAは、不作などのリスクを農家とユーザーでシェアする取り組みです。堆肥を使ってもらうことに対する一定の責任を、会員も担うことになります。

一方で、サトウキビストローで取引している飲食店の方々から、コロナの影響で遠くから来る人たちがいなくなり、地域の中でカフェを経営していく方法に悩む声を聞くことも多くなっていました。

消費者、農家、飲食店、それぞれの悩みの解消にCSAの仕組みが使えそうだと考え、農家の方々に協力していただいて実証実験を行いました。実験を進める中で「いっしょにやろう」と言ってくださった農家と、すぐに小規模なCSA LOOPを開始しました。

―CSA LOOPのコミュニティ立ち上げはどのようなフローで行っていますか?

まず、農家に農業経営の下支えができるプログラムとしてCSAのお話をさせてもらって、年間分のお金が先に入ることで年間の作付計画が立てやすくなり、キャッシュフローが健全化されることを説明します。興味を持ってくださった農家には、直接堆肥を受け取って消費者とコミュニケーションを取りながら、長期的にお付き合いしたいという希望を伝えました。

参加したいという農家には、カフェのリストを渡して希望する店舗を決めていただき、次に僕らがカフェを訪問して農家とカフェをマッチングさせます。その後、近隣住民の方々にCSA LOOPについて告知して会員を募っていくというのが、基本的なフローです。 

―CSA LOOPの現状について教えてください。

現在は東京、神奈川、埼玉の都市部に位置する15のコミュニティでCSA LOOPを実施しています。

各コミュニティの会員数は平均12~13人ほどです。月に1回、農家に野菜を届けてもらい、堆肥を回収してもらいます。農家の方がカフェに滞在できる時間は1~2時間程度なので、会員の皆さんに時間を調整してもらっています。野菜をピックアップできない場合には、カフェに置かせてもらう、会員同士で相談して代理で受け取ってもらうといった対応をしています。

料金の仕組みは、まず農家が決めた年間の野菜代金を会員が支払います。その代金の15%を集客手数料として弊社が頂戴しています。会員にはユーザー管理などのアプリ利用料として、月額500円を支払っていただきます。

写真提供:株式会社4Nature

―会員募集はどんな方法で行っているのでしょうか?

元々コミュニティコンポストといった我々の事業に共感していただいている方々が参加してくださるケースも多いですし、CSA LOOPに参加しているカフェの方々も循環に対する意識が高いことが多いので、その店のやることだったら協力したいという方々もいらっしゃいます。

会員募集期間中には、農家の方によるワークショップを開催して、参加者にCSA LOOPについて知ってもらう活動を行っています。

CSA LOOPの会員は、定期的に野菜を購入するだけでなく、農家と直接コミュニケーションを取ることになります。先払いして農作物ができなかった場合は届かないこともありうるサービスなので、心から共感してもらわないと継続できないでしょう。無理のない範囲でゆっくりと育てていくサービスだと考えています。


―CSA LOOP事業の今後の方向性や目標は?

当面の目標は、各コミュニティの会員数を50人程度に増やすことです。

日本の農家の年間売上は平均250万円程度と言われています。会員が50人いれば年間売上の約30%をCSA LOOPが占めることになり、農業経営を安定化できます。

ただし、リスクシェアという考え方や、自分たちの出した生ゴミの堆肥を農家に活用してもらうという価値観は、従来の消費者と生産者の関係性とは異なるものです。決して焦るべきではないと考えています。

また、オーガニックや有機といった農業に取り組む人たちには、まだまだノウハウを蓄積する必要があると考える方々が多く、大規模な経営を行っているわけでもないので、50人分の食卓を1年間通して支える農作物を作れるのかという不安を抱く方々も少なくありません。

農家の方々とは、活動に賛同してくれる会員を少しずつ増やしながら、畑を徐々に大きくしていこうと話しています。

将来的には、コミュニティの数を増やしていき、ある程度の規模になった際には資金を信託して、会員が農家に遊びに行くことができる宿泊施設などを作れれば理想的だと思っています。

資料提供:株式会社4Nature

グラデーション、余白、コミュニケーションによって組織に柔軟性を持たせる

―CSA LOOP運営の指針となっている(株)4Natureの理念を教えてください。

事業に取り組む上で「なんかいいよね」という感覚を大切にしたいと思っています。その思いを弊社のValueとして示したのが「美味しい、楽しい、愛おしい」という3つの言葉です。

「美味しい、楽しい、愛おしい」資料提供:株式会社4Nature

新しい仕組みを作る上で重視しているのは「グラデーション、余白、コミュニケーション」の3つです。立ち上げた組織を続けていくには、この3点が非常に大切になります。

何かの活動をする際に、週1回でも月1回でも大丈夫といった「グラデーション」を用意できる組織は、関わる人が増え、関わりを維持しやすい状態になります。また新しいことに挑戦できる「余白」がなければ、時代の変化やコロナのようなパラダイムシフトが起きた際に対応できません。用意した「グラデーション」と「余白」をしっかりと機能させるには「コミュニケーション」を十分にとっていくことも必要不可欠です。

状況に応じて変化できることは、組織としての大きな強みになるはずです。

「グラデーション」資料提供:株式会社4Nature
「余白」資料提供:株式会社4Nature
「コミュニケーション」資料提供:株式会社4Nature

―平間さんにとっての「サーキュラーエコノミー」とは何でしょうか?

サーキュラーエコノミーという言葉を特に意識してきたわけではなく、関わって来た人々のお困りごとに対応した結果として事業が生まれ、大きな輪になっていったという感じでしょうか。人と人とのつながりを絶やさないことが、僕にとってのサーキュラーエコノミーだと思っています。

人のお困りごとや欲求からビジネスが生まれるのなら、そうしたお困りごとや欲求と向き合ってビジネスを続けていけば、必然的にサーキュラーエコノミーになるはずです。どこかに負荷がかかっているとしたら、当然その負荷分の費用を支払う必要があります。そもそもビジネスはサーキュラーエコノミーであって、そうでなければビジネスではないと考えています。

―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

CSA LOOPをはじめとする、新たな仕組み作りに挑戦する平間さんの活動に、今後も注目したいと思います。

平間さんの事業の詳細については、以下のページをご覧ください。

取材:三塩佑子
執筆:Yasuhiro Yamazaki

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