マガジンのカバー画像

少しいびつな恋愛オムニバス

67
恋愛は真っ直ぐで綺麗なばかりじゃない。歪んだ情熱を持て余す人達のための、少しだけ怖い恋愛オムニバス短編集です。
運営しているクリエイター

#短編

あの木陰にはユウレイが住んでる #月刊撚り糸

あの大きな木の名前、なんて言ったっけ。 ずり落ちる花束を左腕だけで抱え直すと、鼻先に百合…

七屋 糸
3年前
34

行き止まりに蜘蛛の罠

「ゴミ袋がなくなった」と言ったのは、嘘じゃなかった。 現に着なくなった服を詰めたら最後の…

七屋 糸
3年前
35

今年も夏がうそをついた #また乾杯しよう

蝉が、死んでいた。 小さい頃の思い出だ。家の玄関前だったか、通っていた幼稚園の園庭だった…

七屋 糸
3年前
166

にらめっこ

サンダルを捨てるように脱いで部屋に入ると、夏の湿気った空気にむっとする。ゴミは旅行前にす…

七屋 糸
3年前
36

あなたがほしいものは #触れる言葉

喧嘩をすると、彼は決まってわたしに背中を向けてじっとしていた。 駅から歩いて10分の場所に…

七屋 糸
3年前
33

土下座する彼の背中越しに「誰よ、その女」とつぶやいた

二度目の「もう浮気はしません」の言葉を、わたしは1ミクロンも信じていなかった。 だってそ…

七屋 糸
3年前
45

フラミンゴ・レディの潜伏

金曜日の夜も更けたPM11:00。馴染みのバーでひとりウィスキーを傾けていると、一組の若い男女が店に入ってきた。 男の方は今風にゆるくパーマのかかった大学生らしい頭だが、格好は細身のスーツに派手目の柄の入った薄ピンク色のシャツ。いかにも「夜の街で生きています」といった体のいでたちをしていた。 対して女の方は多少派手めな化粧をしているが、おそらくは二十代の後半と言ったところ。オフィスカジュアルと言えなくもない薄手のブラウスに機能的な黒のビジネスバッグとパンプスとが多少不似合

シンガポール・スリングの誘引

「ね、お願いだから付き合ってって」 「無理って言ってるでしょ。どれだけお願いされても無理…

七屋 糸
3年前
29

痺れるほどに甘く。 #磨け感情解像度

ドーナツの穴みたいだ、と引っ越してきたばかりの頃にあなたが言った。 天井に広がる無数の穴…

七屋 糸
4年前
59

東京駅発、夜行バスの恋人。

行儀よく整列した大型バスが一台、また一台と光を連れて去っていくのを横目に、冷たい息を吐い…

七屋 糸
4年前
22

愛情に輪郭を。

一昨日買ったばかりのリングをつけた右手が、小指の方から溶け出していた。 いけない、と思っ…

七屋 糸
4年前
40

時空間に花は咲くか(後編)

恋人を笑顔にする魔法はありますか? 5分程度で読める短編です。 前編はこちらから。 *ー…

七屋 糸
4年前
19

【短編】浅き夢見に

靄がかった天井の壁に、線のように細い光の筋が走る。その筋はだんだんと太くなり、わたしの顔…

七屋 糸
4年前
17

時空間に花は咲くか(前編)

恋人を笑顔にする魔法はありますか? 5分程度で読める短編です。 以下、本文です。 *ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 買い物袋を下げて家に帰ると、いつもは点けっぱなしにしてる玄関の電気が消えていた。リビングと廊下を隔てる扉越しにも、部屋の電気が点いていないのがわかる。 出掛けたのかな、と思ったがトタトタと軽い足音が聞こえてすぐに理解した。「またか」と思いながら靴を脱いでいると、「駄目だよ、エルフィー」と小さく話しかける声が聞こえたもの極め付きだった。 少し