マガジンのカバー画像

少しいびつな恋愛オムニバス

67
恋愛は真っ直ぐで綺麗なばかりじゃない。歪んだ情熱を持て余す人達のための、少しだけ怖い恋愛オムニバス短編集です。
運営しているクリエイター

#物語

短編小説_変質する夜を抱いていました #月刊撚り糸

「あんたには異父兄弟がいるよ」  こっくりと濃い宵闇に立ち尽くした私に、女は顎をさすりな…

七屋 糸
2年前
32

短編小説_秋に馳せる。#月刊撚り糸

 その寿司屋の制服はうさぎの目のような色をしていた。  女の子の胸元には「研修中」の札が…

七屋 糸
2年前
21

異星人とペティナイフ #月刊撚り糸

まさか押し倒す側になるとは思わなかったが、見下ろした佐竹の白いおでこが意外にも優越感を刺…

七屋 糸
2年前
34

それは角の取れた熱情【第三話】

【第二話】はこちらから。 *** ふと、なぜこの男はそんなにもあたしに入れあげるのだろう…

七屋 糸
3年前
12

あの木陰にはユウレイが住んでる #月刊撚り糸

あの大きな木の名前、なんて言ったっけ。 ずり落ちる花束を左腕だけで抱え直すと、鼻先に百合…

七屋 糸
3年前
34

それは角の取れた熱情【第二話】

【第一話】はこちらから。 *** 彼は格子柄の模様のついた爪切りを器用に片手で持ち替え、…

七屋 糸
3年前
14

それは角の取れた熱情【第一話】

爪を切って頂戴、と言うと男はいそいそと鏡台の中から爪切りを取り出してきた。 ついでに薄暗かった照明を一段と明るく灯し、プラスチック製の小さなくず籠も一緒に持ってくる。まるであたしが言うわがままを知っていたみたいに整然と準備をして、最後に冷たい床に胡座をかいて座った。 籐の椅子に腰掛けたあたしよりも低くなった彼の頭には白髪が混じっていて、おそらく二回り程は歳上だろうと思う。それがかしずくように跪いてあたしの冷えた足を温めているのは、何度見ても不思議な心地がした。 この男の

花模様は明日に溶けて #教養のエチュード賞

二枚の写真がある。 池袋のはずれにある小さなアンティークショップで買ったフォトフレームに…

七屋 糸
3年前
66

あなたに送れなかったメールが無料公開のエッセイになった日

オレンジ色のガラケーの行方がわからない。 高校生の頃から大学にあがる頃まで愛用していた二…

七屋 糸
3年前
29

にらめっこ

サンダルを捨てるように脱いで部屋に入ると、夏の湿気った空気にむっとする。ゴミは旅行前にす…

七屋 糸
3年前
36

光を待つひと #ナイトソングスミューズ

駅のホームのへりに立ち、遠ざかっていく電車の後ろ姿に手袋をした親指をあてる。羽虫でも押し…

七屋 糸
3年前
63

あなたがほしいものは #触れる言葉

喧嘩をすると、彼は決まってわたしに背中を向けてじっとしていた。 駅から歩いて10分の場所に…

七屋 糸
3年前
33

土下座する彼の背中越しに「誰よ、その女」とつぶやいた

二度目の「もう浮気はしません」の言葉を、わたしは1ミクロンも信じていなかった。 だってそ…

七屋 糸
3年前
45

フラミンゴ・レディの潜伏

金曜日の夜も更けたPM11:00。馴染みのバーでひとりウィスキーを傾けていると、一組の若い男女が店に入ってきた。 男の方は今風にゆるくパーマのかかった大学生らしい頭だが、格好は細身のスーツに派手目の柄の入った薄ピンク色のシャツ。いかにも「夜の街で生きています」といった体のいでたちをしていた。 対して女の方は多少派手めな化粧をしているが、おそらくは二十代の後半と言ったところ。オフィスカジュアルと言えなくもない薄手のブラウスに機能的な黒のビジネスバッグとパンプスとが多少不似合