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【ぼーっとアート】ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》①

どうも。いかたこです。

ぼーっと眺めるから、見えることがある。
ぼーっとアートは、好きなアート作品をぼーっと眺め、感想や考察をひたすら書くというシリーズです。美術の知識や作品の時代背景には頼りすぎず、できるだけ作品との対話の中で感じたことを書いていきます。

※この記事に書かれているのは個人的な感想であり、美術や歴史的な根拠は一切ありません!

私の妄想がたくさん詰まっているので、「めっちゃわかる!」とか、「いや、それは違うだろ!」とか、楽しみながら読んでいただけるとうれしいです。

それでは、ぼーっと眺めていきましょう。
第2回目の作品は、ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》です。

写真は2023年に開催された展覧会「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」で撮影したものです。

《アブストラクト・ペインティング(726)》

速いなぁ。電車に乗っているときの景色はこんな感じだな。

この作品を見た時、最初に感じたのは「速さ」でした。これは作品全体に横方向の力が加わっているからだと思います。作品を覆うように、横向きに色が塗られています。

電車に乗っているときに外の景色を見ると、近くの木や建物が横に広がり、ぼやけて見えます。電車の速さによって、近くのものの形をはっきりと捉えられなくなります。

速さで木がぼやけるイメージ

「アブストラクト・ペインティング」は「抽象絵画」という意味です。

リヒターのアブストラクト・ペインティングの多くは、風景などの具体的な絵を書き、それをかき消すようにスキージ(大きなへら)で色を重ねて作るそうです。つまり、もともとは具象的な絵画だったものが、上から色を塗られることで形を失い、抽象的な絵画に変わっていくわけです。

もちろん、同じアブストラクト・ペインティングのシリーズでも、横向きの色の層がそれほど強調されていないものもあります。けれど、《アブストラクト・ペインティング(726)》は横向きの力がとても強く、私は作品の中に「速さ」を感じました。

木も建物も人も具体的な形を持っています。でも、高速で横を通れば、視界の中で形がぼやけて抽象的な姿になります。日常生活で何となく経験していた「速さによる抽象化」に、この作品を見て気づくことができました。

もちろん、これは私の勝手な解釈で、リヒター本人はそんな意図はないと思いますが…。


では、もう少し作品を眺めてみましょう。

《アブストラクト・ペインティング(726)》

白いところは光かな。光ってこんなに伸びやかなんだ。

ものの形がぼやけて見える。普段は何気なく見ていますが、絵画や写真など静止でこのぼやけを見ると、とても味があって神秘的に見えます。個人的にそれが最もよく表れていると思うのが、「光」です。

ライトアップの光もぼやけることで、もっと神秘的に映ります。

少しぼやけさせることで、光が形を持って粘土のように伸びる。はっきりした光よりも、少しぼやけている光の方が私は好きです。

《アブストラクト・ペインティング(726)》の中央の辺りは白く、強い光りが当たっているように見えます。また、作品全体に白い光の線がちりばめられていますね。どの光も横に広がっていて、とても伸びやかです。いつもと違う光の姿も素敵です。


最後にもう一つ、この作品から感じる「怖い」について考えていきます。

《アブストラクト・ペインティング(726)》

左から暗闇が迫ってくるみたい。ちょっと怖い。

左側の黒が強く、まるで左から暗闇が迫ってくるように見えます。先ほどの光と一緒で、暗闇も横向きに広がっています。

そんなことをぼーっと考えていると、ふと疑問がわきました。「闇」って迫ってくるものなの? 

ファンタジーなどで「闇が迫り来る」みたいな表現を目にします。私もこの絵画を見て「暗闇が迫ってくるみたい」と感じました。でも、そもそも闇って動くの? 物質なの?

科学的なことはあまり分かりませんが、闇は光がないところを指すのだと思います。つまり、「闇が迫ってくる」というよりは「光が消えていく」みたいな表現の方が、光がないということを正確に示せる気がします。

でもねでもね、やっぱり闇って迫ってくるんですよ。これはたぶん、感覚的なもの。

《アブストラクト・ペインティング(726)》からは、光とともに闇の伸び、動きを感じます。ということは、闇は物質なのかもしれません。

同じ展覧会で、他にも闇の物質感がある絵画を見つけました。ターナーの《陰と闇-大洪水の夕べ》です。光と闇がまるで生きているように動いています。

《陰と闇-大洪水の夕べ》


また、私の好きな『麦本三歩の好きなもの』という小説でも、闇を物質と捉える描写があったので、紹介します。これは主人公の三歩が停電の暗闇の中で考えを巡らせるシーンです。

 目を開けた時の黒と、閉じた時の黒では、その種類が違う。
 目を閉じた時、自分の目はまぶたの裏側を見ている。その一方、開けた時は闇を見ている。
 闇を見ることが出来ている。つまり、闇って物質なんだ。
 ただ光がなくて見えないんじゃない、闇という物質が自分の周りにうようよとしていて、そいつらに邪魔され、周りの景色が映らない。
 目を開ける。うようようようよ。
 でかいまっくろくろすけめ。

住野よる「麦本三歩はワンポイントが好き」『麦本三歩の好きなもの 第一集』


ワンピースでもヤミヤミの実を食べた黒ひげは、黒いモヤモヤした物質を体から出しますね。

闇が広がったり、迫ってきたり。闇は光のないところ、物質のないところのはずなのに、私たちにはどこか闇を物質として捉える感覚があります。不思議です。


さて、今回は《アブストラクト・ペインティング(726)》を眺めながら、日常生活ではあまり目を向けない不思議なものたちについて、考えを膨らませることが出来ました。

次回(1ヶ月後)のぼーっとアートは、ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》②、後半戦です。作品の質感や色彩を見ていく予定です。お楽しみに。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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