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"恋がいつか必ず終わるものなら、”


”マラケシュ心中”-中山可穂


女との絡みを砂に例えるシーンから物語は始まる。 どうしても 男と女の情事にしては違和感のある言葉遣いだなと感じたが その違和感はすぐに 主人公である緒川絢彦が女であることからくるものだと納得させた。


波に乗っている歌人である緒川綾彦は同性愛者であり 過去に反抗して疎遠になった師匠である小川薫風の妻である泉に 恋をしてしまう。

駄目だとわかっている わかっているけれど止まらない そんな恋慕の感情をうまく操作するように 泉はこう言う。


”恋がいつか必ず終わるものなら、わたしたちは恋人同士になるのはやめましょう。何も契らず、何も契約せず、からだに触れ合わず、それゆえに嫉妬もない、いかなるときも自由で、平明で、対等な関係のまま、いつまでも離れずに、この世で最も美しい友になりましょう。”


泉自身も様々な過去を抱えていて 絢彦が女であることから生まれた 愛情の形を示す。 二人の想いは メール形式でテンポよく綴られていく。 然しそのたびに 綾彦は泉が自分のものにならない苦しみを募らせていく。


逃げたい 逃げる 然しどこに行っても泉の影はついてくるのだ。




もう会わないようにしよう 逃げてしまおう 一層の事死んでしまおうと向かったスペインであるが 追いかけてきた泉の涙を見て 綾彦の決心は崩れ 旅を続けるうちに 二人は愛を誓う。


然し また絶望の淵に立たされた綾彦は マラケシュを出て一人で砂漠に向かう。



殺してくれ もう一層の事 



願っても 死ぬことはできない苦しみ



結末は 意外なもので 綾彦だけでなく小川薫風も きっと泉も 綾彦のことを想った女達も 全ての人物が愛に 生きていたことがよくわかるものだった。



後半は綾彦が旅に出るシーンが多く それぞれの土地での人との関わりや 心情の移り変わりが鮮やかに描かれている。




男であるとか 女であるとか そう言う次元の話ではなく ひと目見て 胸が痛くなり呼吸ができなくなりどうしてか泣きたくなる そういう愛の話だ。 全身で恋愛をする 全ての人に通ずるものが 詰まった物語だ。


inn

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