inoue wai

主に感想文。kumagusuのボーカルギター 音楽→ https://songwhi…

inoue wai

主に感想文。kumagusuのボーカルギター 音楽→ https://songwhip.com/kumagusu/%E5%87%A6%E5%A4%8F%E7%A5%9E%E7%B5%8C

記事一覧

固定された記事

kumagusu - 処夏神経 作品解説

はじめに 2021年7月1日、kumagusuはライブカセットテープ「処夏神経」をリリースした。サックスパートの富烈(プエル)が加入して以来初めての音源作品だ。    本作には "…

inoue wai
2年前
16

ヤノマミ〜奥アマゾン・原初の森に生きる〜劇場版

ヤノマミ〜奥アマゾン・原初の森に生きる〜劇場版 - 国分拓 2010年公開  アマゾンの熱帯雨林、ブラジルとベネズエラの国境付近で一万年以上変わらない生活様式を営む先住…

inoue wai
1年前
4

硝子戸の中

硝子戸の中 - 夏目漱石 1915年発刊  新聞で連載されていた夏目漱石のエッセイ集。オリジナルの発刊は大正4年で、自分が読んだものは昭和50年に復刻されたバージョンのよ…

inoue wai
1年前
9

ツィゴイネルワイゼン

ツィゴイネルワイゼン - 鈴木清順 1980年公開  今年の夏はたくさん悪夢を見た。具体的な内容は覚えていないのだが、何か心理的な圧迫で夢から追い出されるように夜中に…

inoue wai
1年前
6

生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ - 福岡伸一 2007年発刊  人は何を持って生物と無生物を見分けているのか。海辺の砂浜で小さな貝殻を見つけた時、そこに生命の営みがあったであろ…

inoue wai
1年前
13

スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする

スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする - デヴィッド・クローネンバーグ 2002年公開  おだやかな悪夢のような狂気が美しい映画。社会復帰のため精神病棟から療養施設に移っ…

inoue wai
1年前
2

キッチン・コンフィデンシャル

キッチン・コンフィデンシャル - アンソニー・ボーデイン 2000年発刊  叩き上げの料理人世界の業界事情暴露を織り交ぜた、アメリカのフレンチシェフによる自伝的エッセイ…

inoue wai
1年前
5

バニシング・ポイント

バニシング・ポイント - リチャード・C・サラフィアン 1971年公開  元レーサーの主人公コワルスキーは陸走車を翌日の午後3時までにサンフランシスコに到着させる賭けを…

inoue wai
1年前
2

鋏と糊

鋏と糊 - 三國一郎 1987年発刊  映画「東京オリンピック」でナレーションを担当などした著者が、パブリックなものである新聞をいかにしてプライベートな蒐集物へと変え…

inoue wai
1年前
3

死んでいない者

死んでいない者 - 滝口悠生 2016年発刊  通夜に集まる故人の親族たちを描いた作品。    物語は集まった人々のエピソードに話がフォーカスする都度、その人物の内面に…

inoue wai
1年前
4

CLIMAX

CLIMAX - ギャスパー・ノエ 2018年公開  サングリアにドラッグが混入したダンサーたちの打ち上げ会場の一夜を描いた映画。いつの間にかハイになった人々は徐々に秩序を…

inoue wai
1年前
1

気違い部落周游紀行

気違い部落周游紀行 - きだみのる 1946年発表(読んだのは1981年発刊のもの)  社会学・人類学に精通し、ファーブル昆虫記の翻訳なども行った放浪好きの著者が、日本国内…

inoue wai
1年前
6
kumagusu - 処夏神経 作品解説

kumagusu - 処夏神経 作品解説

はじめに 2021年7月1日、kumagusuはライブカセットテープ「処夏神経」をリリースした。サックスパートの富烈(プエル)が加入して以来初めての音源作品だ。
 
 本作には "晴れたら空に豆まいて" で行った深夜の無観客ライブ演奏が収められており、収録10曲のうち6曲は映像作品として編集し、同題"処夏神経"のタイトルでyoutubeに公開している。カセットは、当日の録音とmixをお願いした澁谷

もっとみる
ヤノマミ〜奥アマゾン・原初の森に生きる〜劇場版

ヤノマミ〜奥アマゾン・原初の森に生きる〜劇場版

ヤノマミ〜奥アマゾン・原初の森に生きる〜劇場版 - 国分拓
2010年公開

 アマゾンの熱帯雨林、ブラジルとベネズエラの国境付近で一万年以上変わらない生活様式を営む先住民族「ヤノマミ」を計150日間撮影したドキュメンタリー。NHKの番組で放送した作品の劇場版。

 人間は死ぬと精霊になり、その後蟻となって地上に戻るという信仰を持つヤノマミは、出産の際産まれたこどもを人間として育てるか、精霊として

もっとみる
硝子戸の中

硝子戸の中

硝子戸の中 - 夏目漱石 1915年発刊

 新聞で連載されていた夏目漱石のエッセイ集。オリジナルの発刊は大正4年で、自分が読んだものは昭和50年に復刻されたバージョンのようだ。漱石の文章が美しくて素晴らしいのはもちろんのこと、装丁や活版印刷の文字も(恐らく)当時のまま再現されており、パラパラと頁をめくっているだけでも楽しい。古い本を読むたび思うが、ところどころ掠れた印刷文字が刺激してくるこの感覚

もっとみる
ツィゴイネルワイゼン

ツィゴイネルワイゼン

ツィゴイネルワイゼン - 鈴木清順 1980年公開

 今年の夏はたくさん悪夢を見た。具体的な内容は覚えていないのだが、何か心理的な圧迫で夢から追い出されるように夜中に眼を覚ますことも多く、いつも非常に嫌な感覚だけがその後もしばらく残った。水を飲んでも喉の一番乾いた部分に吸収されていかないように感じられ毎度気が滅入った。気温差の変化についていけなかったというような単純な肉体的問題が原因だったのかも

もっとみる
生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ

生物と無生物のあいだ - 福岡伸一 2007年発刊

 人は何を持って生物と無生物を見分けているのか。海辺の砂浜で小さな貝殻を見つけた時、そこに生命の営みがあったであろうという直感を、足元に散らばる無数の小石の何と区別をもって得ているのか。生命とは何か。生物学者の著者がDNAの研究に関わる分子生物学の発展遷移の解説をしつつ、生命体の身体はパーツ自体のダイナミックな流れの中に成り立つとする動的平衡論

もっとみる
スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする

スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする

スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする - デヴィッド・クローネンバーグ 2002年公開

 おだやかな悪夢のような狂気が美しい映画。社会復帰のため精神病棟から療養施設に移ったクレッグは少年時代の回顧にふける。記憶の空隙を埋めるように拾い上げた過去の断片を逐一ノートに書きつけていくが、そこには妄想が混ざり込み徐々に現実をもゆがめていく。

 本作は数十年前の過去に目を向けた形になっているが、「今この瞬

もっとみる
キッチン・コンフィデンシャル

キッチン・コンフィデンシャル

キッチン・コンフィデンシャル - アンソニー・ボーデイン
2000年発刊

 叩き上げの料理人世界の業界事情暴露を織り交ぜた、アメリカのフレンチシェフによる自伝的エッセイ。正直で歯切れのいい言葉が読んでいて気持ちいい。悪口、ドラッグの話、下世話な話もふんだんに登場するがそれでも嫌な感じは全然しない。不良だけど根の真面目さがにじみ出てしまっている、みたいな可愛げがある気がする。多分、読者は皆著者のこ

もっとみる
バニシング・ポイント

バニシング・ポイント

バニシング・ポイント - リチャード・C・サラフィアン 1971年公開

 元レーサーの主人公コワルスキーは陸走車を翌日の午後3時までにサンフランシスコに到着させる賭けをして真夜中のデンバーを出発。覚せい剤をあおってフルスピードで目的地を目指すが暴走車として警察に追われることになるというカーアクションロードムービー。
 
 破滅に向かうのはアメリカンニューシネマのお家芸ではあるが、その中でもここま

もっとみる
鋏と糊

鋏と糊

鋏と糊 - 三國一郎 1987年発刊

 映画「東京オリンピック」でナレーションを担当などした著者が、パブリックなものである新聞をいかにしてプライベートな蒐集物へと変えていくかを説いた新聞切り抜きのスクラップ帳制作指南本。

 新聞の破り方や貼り付け方といった実技面は手の使い方の基本からオススメの道具紹介まで混じえて、愛好家としての在り方のような精神面は家族への配慮まで具体例をあげながら懇切丁寧に

もっとみる
死んでいない者

死んでいない者

死んでいない者 - 滝口悠生 2016年発刊

 通夜に集まる故人の親族たちを描いた作品。
 
 物語は集まった人々のエピソードに話がフォーカスする都度、その人物の内面に沿ったような視点に変化しながら進んでいく。誰かの話から誰かの話へ、自然な流れで移行していく視点と文体に身をまかせて読んでいるうちに故人を中心とした親族たちやその空間が見えざる何かで繋がったひとつの集合体であるかのような錯覚を覚える

もっとみる
CLIMAX

CLIMAX

CLIMAX - ギャスパー・ノエ 2018年公開

 サングリアにドラッグが混入したダンサーたちの打ち上げ会場の一夜を描いた映画。いつの間にかハイになった人々は徐々に秩序を失い会場はカオスな地獄絵図に変わっていく。

 観ているこっちがバッドに入ってしまうような描写もたくさんあるのだが、どこか人間のバカらしさを俯瞰して観ているようでもあり、後味悪い感じにはならないのが不思議だった。残酷さ含めて人

もっとみる
気違い部落周游紀行

気違い部落周游紀行

気違い部落周游紀行 - きだみのる
1946年発表(読んだのは1981年発刊のもの)

 社会学・人類学に精通し、ファーブル昆虫記の翻訳なども行った放浪好きの著者が、日本国内にとどまる事を余儀なくされた戦中から東京はずれの廃寺で20年暮らし、その村民たちの様子を様々な考察、省察とともに綴った観察録。強烈なタイトルではあるが、村民たちとの交流は極めて素朴に描かれており、決して異常な風習などを追ったル

もっとみる