この世は便利なアイテムで溢れている。

中でもマジックハンドは根強い人気を誇っている。

自由に身動きのとれない時や、腕が入らない隙間に落ちた物を取る時などに、自身の腕の延長として安全に利用することが可能だ。

百均でも手に入るこのアイテム。掴む力はそれほど強くない。


金属製で掴む力が成人男性の何倍もある電動の物が手に入ったのは幸運だった。

バッテリーが内蔵されていて、充電すれば線を繋ぐ必要はない。

でも私は線を繋いだまま使うことにした。


まだ夜が明けきらない暗いうちに、横たわる荷物をマジックハンドで掴んだ。

心配性の私はそのまま五分も荷物を掴み続けた。

線を繋いで使ったのもそのためだ。


本当に大変なのはその後だった。

私は荷物をできるだけ細かくして夜の川へ流した。



あれから十年。

マジックハンドはとうの昔に解体して捨ててしまった。

十年前に捜索願いを出した荷物は、いまだに見つからない。

百均に売られていたマジックハンドを見ていると、私と息子に暴言を浴びせ、暴力をふるい続けたあの荷物のことが思い出される。

息子が社会人になり結婚して家を出ていったことで、ようやく肩の荷がおりた。

罪滅ぼしでもないが、これからは一人で苦しんでいる誰かのために、何かできないかと考えている。


私は生きる。


終